ベッドは一つ
その後、湯船に浸かると磨りガラスのドア越しに百数えるように言われたり、脱衣所に待機していた四天王達から股間を隠して濡れた肌を拭くのに悪戦苦闘したりもしたが、どうにか勃起を見られることなく逃げ出すことができた。
問題は寝室だ。
「ベッド、ひとつなのか……」
自室の隣にある寝室には、でかでかとダブルベッドが鎮座していた。
住んでる身で文句は言えないが、この部屋の見立てをした両親は四天王達の貞操をなんだと思っているのだろう。
「いや、俺が我慢すればいいだけの話だ……」
これこそ魔王の意地の見せ所。昨日はエリン相手に意地もなくへったくれなく一方的に敗北したが、同じ轍を踏んだりはしない。何より四天王達であれば、エリンと違って道理に反した行いをすることもないだろう。
ベッドに下半身を埋め、読みかけの魔導書を開いた。
買ったばかりの魔導書を読んでいると、股間の憤りがみるみるうちに衰えていく。これなら万が一にも間違いが起こることもない。
小一時間ほど読みふけり、読了。その直後、新たな寝巻き姿に包んだ四天王達が寝室に入ってきた。
「お待たせしました」
「うむ……もう寝るか?」
「早寝早起きは健康の第一条です」
魔王は出来るだけ彼女達の方を見ないように意識した。
「じゃあ寝ようか。いや俺は自室のソファで寝てもいいんだけど」
「?」
「ああ、はい。そういうのは想定しないと」
四天王達が会釈をして「失礼します」と礼儀正しく布団入ってくるのを待ち、魔王は部屋の明かりを消した。
布団に潜り込み、おやすみなさいを言い交わして目を閉じる。
ベッドはダブルどころかトリプルになれそうな広さがある上、四天王達の体格が体格なので、窮屈さは全くなかった。
だからこそ、四天王達が抱きついてきた時は、緊張に体を固くした。
「魔王様……」
「はい」
「一緒に乗り越えましょうね」
それっきり四天王達は言葉もなく、静かに寝息を立てた。知らず知らず繰り返していた手から眠気が感染したのか。魔王も大あくびして目を閉じる。