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第31話 別れは突然に

前回のあらすじ

ゼクスとルイが再び合見えた

 

 キン、キキン、キキキキキキン! と絶え間無い剣戟音が鳴り響く。

 何の比喩でもなく、僕は防戦一方だった。


 ルイさんはこう見えて、アメジスト支部でも一、二を争うほどの剣の腕前を持つ異端審問官だった。ちなみに僕の腕前は上の下辺りだった。

 だからこうして渡り合えてる状況は、ある意味奇跡に近い。


 それと、少し気になることがある。

 ルイさんは普段は手袋をしているにも関わらず、義手の左手だけ手袋をしていなかった。


 絶対何かある、と思った次の瞬間、ルイさんが流れるような動作で足払いを仕掛けてきた。

 なんとか転ぶことは避けられたけど、体勢だけは崩してしまった。

 それを見逃すルイさんじゃないし、自らが作った状況ならなおさらだ。


 だけど……。


「吹き荒れろ、【疾風怒濤(テンペスト)】!」


 ノインが発動した魔術による突風によって、ルイさんの身体が吹き飛ばされる。その隙に僕は体勢を整える。

 ルイさんは上手く着地して、剣を構え直していた。


「……やっぱり魔女二人相手だとキツいね」

「なら大人しく退いてくれませんか?」

「仇敵を前にしてそんなことが出来るとでも?」

「ルイさんが不利なことに変わりはないでしょう?」

「……果たしてそうかしら?」


 ルイさんはそう言うと、僕目掛けて突撃……いや、少しだけ進路がずれている。

 この進路は……ノインを狙ってる!


 そう気付き、二人の間に割り込む形で躍り出る。

 しかしルイさんは予測していたのか、そのまま僕の方へと突っ込んできて、左手で貫手を繰り出してくる。


 魔剣で防げばいい、という僕の考えは甘かった。

 ルイさんの左手はなんと――手首から先が回転し始めた。


 そのことに驚きつつも、このまま受けたら魔剣が折れるかもしれないと判断して後ろへと跳ぶ。

 だけど少し遅かったらしく、ルイさんの左手が僕の右肩を鋭く抉る。


「ぐあっ!?」

「ゼクスっ!」

「アハハハハハッ! このまま死んじゃえええええっ!」

「……っ! お断りです、よっ!」


 前蹴りを喰らわせて、強制的に距離を取る。

 ルイさんに抉られた右肩はズキズキと痛み、血も流れている。

 魔剣を握るのも辛く、仕方なく左手に持ち替える。

 ルイさんの方を見ると、僕に蹴られた腹部を押さえている。


「乱暴だねぇ……ま。左手の傷よりは痛くないけどね」

「……ルイさん。大人しく退いてくれませんか?」

「何故? 私に有利な状況なのに?」

「それはどうですかね? 吹雪け、【氷結地獄(コキュートス)】!」


 魔剣を介して魔術を発動させる――けど、ルイさんが向けた左手によって無効化されてしまった。

 左腕の材質は魔障石のままらしい。


 予想は出来ていたことだから、無効化された隙にルイさんへの接近を試みる。

 だけど……。


「単調な攻撃ね、ゼクス君! 行動がとても読みやすいわ!」


 ルイさんはそう叫ぶと、なんと――左腕の肘から先を飛ばしてきた。しかも手首を回転させながら。

 予想外の攻撃に思考が停止してしまい、ルイさんの攻撃を真正面から受けてしまう。

 今度は右脇腹を抉られ、その場に蹲る。


「ゼクスっ!」

「ふん……呆気ないわね」


 ギュルルル……とワイヤーを巻き取るような音と共に、ルイさんはそんなことを言ってくる。

 ガチャンと飛ばした腕が再び接続された後、コツコツとゆっくりと僕の方へと近付いてくる。


 魔術はルイさんの左手で無効化されるし、距離を取っても詰めてもどちらもルイさんの攻撃範囲だった。

 万事休す、と思っていると、ノインが腕を広げて僕の前に躍り出る。まるで僕を守ろうとするように……。

 ルイさんもノインの行動を疑問に思ったようで、足を止める。


「……何のつもりなのかな?」

「ゼクスは殺させない」

「いいえ、殺すわ」

「絶対に殺させない。その代わり……わたしを連れて行って」

「えっ……?」

「へぇ……」


 ノインの言葉に僕はすっとんきょうな声を上げ、ルイさんは関心したような反応をする。

 ノインが何故そんなことを言い出したのか分からず、右肩と脇腹を押さえながら尋ねる。


「ノイン。なんで……」

「あの人は強いから。このままだとたぶんわたし達二人共倒されちゃう。なら、ゼクスだけでも生き残る道を選んだだけ」

「……っ、ダメだ! 機関に捕まった魔女がどんな扱いを受けるか、僕の近くにいたノインが知らないハズないだろう!?」

「だからこそ、だよ。ここで死ぬよりは何倍もマシでしょ?」


 ノインは笑顔でそう言うけど、その手は微かに震えていた。

 だけど恐怖心など微塵も悟られないように、毅然とした態度でルイさんの方に向き直る。


「……だからゼクスのことは見逃してください。わたしのことはどんな風に扱っても構わないですから」

「絶対にダメだ、ノイン! ルイさん! 殺すのなら僕だけを! 貴女が恨んでるのは僕だけでしょう!?」

「……分かったわ」


 ルイさんはそう言うと――剣を鞘に納める。

 それだけで、ルイさんがどちらの提案を受け入れたのか悟ってしまった。


 ルイさんはノインに近付くと、顔を近付ける。


「その言葉、後悔しない?」

「しません」

「分かったわ。なら私の玩具として、こき使ってやるから覚悟なさい」


 ルイさんはノインの胸倉を掴むと、やや乱暴に立ち上がらせる。

 そしてノインは、僕に泣きそうな笑顔を向ける。


「わたしは大丈夫だから、ゼクスは気にしないでね。……ゼクス、大好きだよ」

「行くわよ」


 ノインはそう言い残し、ルイさんの後をついていく。

 なんとか二人を止めようとしたけど、ルイさんがまた飛ばしてきた左手が僕の両足を抉ってきた。

 そのせいで、地面に前のめりで倒れ込んでしまった。


「ま……待て! 待てえええええええええええええええっ!!」


 どんどんと小さくなっていく二人の背中に手を伸ばすけど、二人が足を止めることはなかった。

 そして二人の姿が完全に見えなくなったところで、僕は伸ばしていた手を握り締め、地面におもいっきり叩きつける。


「……ぁ。ぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっ!!!」


 自らの無力さに苛つき、手を何度も何度も地面に叩きつける。

 僕の慟哭は、森の中に空しく反響した―――。






捕まった魔女は酷い目に遭うと相場は決まっており……。




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