第22話 トライデント三兄妹 前編
前回のあらすじ
ルイは一命「は」とりとめた&魔女の元締めは世界最弱の魔女
およそ二週間ほどの船旅で、僕達は東大陸西部最大の港町・サファイアへとたどり着いた。
道中、何事も無くて幸いした。
船に掛けられたタラップを降り、久しぶりの地面へと足を着ける。
「これからどうするの?」
すると、傍らにいるノインがそう尋ねてくる。
「船の中でも言ったけど、このまま北上して、北大陸に向かう船が出てる町まで向かう。そこからは……」
「例の場所を目指すのね?」
僕の言葉を遮り、フィアがそう言う。
その言葉に、僕は頷く。
例の場所というのは言うまでもなく、北大陸にあるとされる魔女の里のことだった。
実在するのかまだ疑わしいけど、一応の目的地でもあった。
そして僕達は足早に、サファイアの町を出発した―――。
◇◇◇◇◇
サファイアの町から北の方角にあるブラオ山。
その中腹に、およそ登山客とは思えない黒づくめの集団がいた。
彼らはワルプルギス機関サファイア支部の異端審問官で、この山にいるという魔女の捜索をしていた。
彼らは五人一組のチームとなり、散開する。
そしてとあるチームが、魔女とおぼしき少女を発見した。
その少女は彼らの姿を見た途端、脱兎の如くその場から逃げ出した。
「追うぞ! 魔女の可能性が極めて高い!」
チームのリーダーのその言葉に従い、異端審問官達は逃げた少女を追い掛ける。
いや……追い掛けようとした。
そんな彼らの前に、法衣を身に纏った一人の男性が姿を現す。
その法衣は、この世界で広く信仰されている『聖神教』の僧侶が身に纏う物と同一であった。
そして異端審問官の中でも、かの宗教を信仰する者は多い。
それから、その僧侶の腰には、東方の島国特有の武器である刀が携えられていた。
僧侶の中でも荒事に長ける人物は少なからずいるので、その僧侶が武器を帯同していても異端審問官達は違和感を覚えなかった。
異端審問官達は足を止め、リーダーがその僧侶に話し掛ける。
「すみません。こんな山奥でどうなさったのですか?」
「いえ……少し騒がしいなと思い姿を現したまでです。それで……異端審問官が山にいるというのもおかしな話。もしや……魔女がいるので?」
「はい、その通りです。そちらの方に魔女が逃げたと思うのですが……」
「そう言えば……見かけましたね」
「そうですか。それでは我々はこれで――」
「……誰も通すとは言ってませんが?」
僧侶はそう言いながら、抜刀する。
そして――魔術を発動させる。
「狂え、【時間遅早】」
次の瞬間、僧侶は異端審問官達の後ろへと移動しており、異端審問官達からは血飛沫が飛び散る。
この僧侶の魔術・【時間遅早】は、一定範囲内の時間を自由に操作出来るという破格の魔術だった。
これを利用し、異端審問官達の体感時間を極限まで遅くさせ、自身の移動速度を極限まで速めた。
その結果、傍目からは瞬間移動とも取れる移動速度で、異端審問官達を斬り捨てたという結果となった。
僧侶は刀をビュッと振って血を落としつつ、茂みの方に声を掛ける。
「異端審問官達は排除した。この先に俺の仲間達がいる。早く逃げろ」
「は……はい! ありがとうございました!」
先程の少女が茂みから姿を現し、僧侶にお辞儀をする。
そして彼の前から走り去って行った。
この僧侶も魔女で、聖神教の戒律を破った僧侶――所謂破戒僧だった。
聖神教の教えでも、魔女は悪だと断定されており、魔女に手を貸すことも固く禁じられている。
なので自身と自身の身内のために、僧侶は自ら戒律を破った。
僧侶が辺りを警戒していると、二つの足音が彼に近付いて来ていた。
しかし彼は、誰が来ているのか分かっているのか、音のする方を向くことはなかった。
そして彼の背後に、二人の男女が現れる。
片方は、灰色のツンツンヘアーが特徴的な、僧侶と顔付きが似ている少年。
もう片方は、僧侶と同じベージュ色の髪をポニーテールに纏めた、まだ幼さが残る顔付きの少女。
「兄貴。こっちは片付いた」
「早く移動しないと他の異端審問官達に気付かれちゃうよ、お兄ちゃん」
「そうだな。行くぞ、ツヴァイ、ドライ」
僧侶は二人の名前を呼び、その場から立ち去る。
僧侶の名はアイン・トライデント。
そして彼を兄貴、お兄ちゃんと呼んだ二人は彼の実の弟妹であるツヴァイ・トライデントとドライ・トライデント。
トライデント三兄妹とも呼ばれるこの三人は、ワルプルギス機関から指名手配されているSS級魔女であった―――。
時間操作系の能力はだいたい強い(偏見)。
評価、ブックマークをしていただけると嬉しいです。




