第15話 登録
前回のあらすじ
目標を立てた
僕がそう言うと、ノインは微笑みながら頷く。
「いいんじゃないかな? わたしはゼクスの意見に賛成するよ」
「ありがとう。だけどそれを叶えるのは、僕達の安全が確保されてからだ」
「……と、言うと?」
「この逃避行の目的地は変えない。そこに魔女の集落があろうが無かろうが、そこに着いたらロミオさんの希望を実行に移す」
「うん、分かった」
「まぁ、その前に一つ、やらなきゃいけないことがあるんだけど……」
「?」
僕がそう言うと、ノインは可愛らしく首を傾げた―――。
◇◇◇◇◇
翌日。
僕はノインを連れて、この町にもあるハズの施設へと向かっていた。
「ねぇ、ゼ……ロミオ。どこに向かってるの?」
隣を歩くノインがそう尋ねてくる。
スピアリ夫妻に薦められた通り、僕達は彼らの名前を偽名として名乗ることにした。
「うん。冒険者ギルドだよ」
冒険者ギルドというのは、魔物の討伐を生業にしている冒険者達を統括する組織のことだ。
ワルプルギス機関が魔女の脅威から人々を守っているのに対し、冒険者ギルドは魔物の脅威から人々を守っている。
そしてお互いの組織は、互いに不干渉を貫いている。
僕の言葉に、ノインが首を傾げる。
「冒険者ギルド? なんで?」
「冒険者になろうと思ってね。冒険者になれば色々と便利だから」
「それは……旅が楽になったり?」
「うん、そう」
人の往来もあるから、ノインは逃避行という言葉を使わずに、旅という言葉を使っていた。
彼女の言葉を肯定すると、彼女は納得したようだった。
それから時々道行く人にギルドまでの道のりを尋ねながら、目的の施設へと向かう。
そして冒険者ギルドの建物にたどり着き、中へと入る。
この建物には食堂も併設されているらしく、食事を摂っている人や、真っ昼間からお酒を飲んでいる人もいた。
そんな人々の間を通り抜け、受付へと向かう。
「こんにちは! 本日はどのようなご用件でしょうか?」
カウンターの向こう側に座る受付嬢が、ニコニコと営業スマイルを浮かべながらそう尋ねてくる。
「あの〜、冒険者登録をしたいんですけど……」
「冒険者登録ですね、かしこまりました。登録するのは貴方と、そこの女性のお二人でよろしいでしょうか?」
「はい」
「それでは、こちらの用紙に必要事項の記入をお願いいたします」
受付嬢はそう言うと、紙とペンを二つずつ僕達の方へと差し出してきた。
用紙に目をやると、名前と年齢、それとジョブを書く欄があった。
年齢の欄に「十八」、ジョブの欄に「剣士」と記入する。
そして残った名前の欄に「ロミオ」と書き、偽のファミリーネームをどうするか考える。
考えながら、チラリとノインの用紙を盗み見る。
年齢は「十九」、ジョブは「魔法使い」と記入されていた。
彼女にはガーネット村にいる間に魔法の使い方を教えていたから、魔法使いとしての活動に問題はないだろう。
そして名前の欄には、「ジュリエット・スピリア」と記されていた。
彼女の本当のファミリーネームである「フェアリア」と、あの老夫婦のファミリーネームである「スピアリ」を組み合わせたのだろう。
それを見て、僕も偽のファミリーネームを決めた。
「ロミオ」という名前の後に、「クレアリ」と記入する。
必要事項の記入を終えた用紙を受付嬢の方に差し出すと、彼女はそれを受け取る。
そして記入漏れがないか確認した後、僕達の方に目を向ける。
「……はい、記入漏れはありませんね。これで登録は完了です。それと、冒険者カードを今すぐ発行いたしますので、少々お待ちください」
受付嬢はそう言うと席を立ち、何処かへと向かった。
そして五分後、彼女は二つの小さな何かを持って戻ってきた。
それを僕達の方に差し出してくる。
「こちらがあなた方の冒険者カードになります。再発行は出来ませんので、くれぐれも紛失しないように気を付けてくださいね」
受付嬢からカードを受け取り、そこに記されている内容を確認する。
カードの表面には名前、年齢、ジョブの他にランクも記されていて、そこには「F」と大きく書かれていた。
裏面を見ると討伐記録という欄があり、そこは空欄だった。
受付嬢に尋ねたところ、その欄は魔物を討伐する度に自動的に記録されていくらしい。
この冒険者カードは、一種の魔道具のようだった。
それから受付嬢に軽く説明を受けた。
冒険者ランクはSS〜Fの八段階に分類されているらしい。ここは機関と変わらなかった。
ランク昇格は、討伐数が一定のラインを越えた時に行えるらしい。
そして受けられるクエストは、自分と同じか一つ上のランクのモノしか受けられないようだ。
それとクエスト失敗時には、特にペナルティなどは課されないらしい。
「それと今、このようなクエストを発行してまして……」
受付嬢はそう言うと、一枚の紙を差し出してきた。
それを受け取り、ノインと一緒に読む。
クエスト内容は、最近この町に出没する義賊を捕獲して欲しいというものだった。
そしてクエストランクが、『エクストラ』と記されている。
そのことが気になって、受付嬢に尋ねる。
「あの、この『エクストラ』というのは?」
「それはですね、どのランクの冒険者でも受けられることを示しているんです」
「そうですか……。どうする、受けてみる?」
僕は隣にいるノインにそう尋ねる。
「うん。いいと思うよ」
彼女からの了承も得られたので、このクエストを受けることにした―――。
自由に動ける身分を手に入れた二人。
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