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狭軌最強鉄道伝説~新幹線がない世界~  作者: ムラ松
第5章 消える伝説の車両たち
14/20

変わりゆく東北

今回は東北本線のお話です!!

「本当に東北本線もカラフルになったな~。」

俺はそれ違うE653系を見て言った。

「師匠、それ、もう何回目ですか?」

見習い運転士、いわゆる、弟子の南春樹が言った。

「俺は何回でも言うからな。ほら、スピード落とさないと制限速度引っかかるぞ。」

「は、はい!!」

「てか、もうそのセリフ何回言わせてるんだよ…。」

「す、すいません…。」

2000年の秋の終わり、今年から新人運転士の教習の教育係として新人運転士の面倒を見てる、俺、井上優馬。今年で国鉄を経て、東北本線の特急運転士になってからもう20年ほど経つ。

この20年、ほとんど東北本線で運転士をやってきて、変わりゆく東北本線の姿を見てきたが、ここ数年、この路線は著しく変わっていってる。俺はそんな姿を最近、毎日のように「変わったな」とつぶやいてしまう。そんな俺の姿を見て最近、みんな「また言ってる」と言われてしまう。


今日は特急はつかり5号函館行きを仙台まで乗務をする。

仙台で運転士を交代し、俺らは列車を降り、見送る。

「函館行きたいな~。」

俺はつぶやく。

「またその話ですか?」

南は苦笑いして言った。

「だから言ってるだろ?」

「何度も同じことを言うってことですよね。もうなれましたよ。」

「まぁな。だから函館行きたい。」

「師匠がそんなこと毎日言ってるから僕も函館とか北海道に行きたくなってきましたよ~。」

南は笑う。

「おっ、お前か。函館行って何したいんだ?」

「う~ん?カニ食べたいですね!!」

「カニか~。いいな。俺はカニもいいが、イカとか食いたいな。」

「イカ、いいですね~!!」

「イカもいいけど、昼、牛タン食うか。」

「今日もですか!?」

南が軽く嫌そうな顔をする。

「そうだよ。次まで時間あるし、行くぞ!!」

「ちょっと師匠~!!」

俺は南の表情も気にせず、南を牛タン屋へ連行する。この20年で俺も変わったのかな?とつくづく思う。


現在、東北本線の特急は青函トンネルの開業により、東京から北海道まで1本で行っている。既に民営化した時点で東北本線は大きく変わり始めていた。485系と583系の特急はつかりが函館まで乗り入れるようになり、それまで、超特急で走っていた東京・上野~青森を走るはつかりと函館~札幌を走る北斗が特急へ格下げになったが、その代わりに東京~札幌を1本で結ぶ超特急はやてが新設され、JR北海道のキハ183で運用されている。他にも超特急はやてと同区間を走る寝台特急北斗星や、東京・上野~函館を結ぶ寝台特急はこだて、臨時ながらも大阪~札幌を結ぶ豪華寝台特急トワイライトエクスプレスや去年新設された北斗星と同区間を走る寝台特急カシオペアなどが新設され、寝台特急も大盛り上りとなった。


青函トンネルの開業により、東北本線の運用体型は大きく変わったが、車両についてはそんなに変わらなかった。でも最近、東北本線の車両にも変化が訪れていた。


昼食を済ませ、東京に戻る特急の運用に入る。乗務する列車は特急ひばり12号東京行き。福島で山形からやってくる特急やまばと6号と併結して走る。そして肝心の車両は…

「今日は青いやつか。」

俺は車両を見る。こいつはE653系。1997年に東北本線と常磐線を走る485・483系の置き換えのために導入された車両だ。塗装は青、赤、黄色、オレンジ、緑と5色あり、とてもカラフルな車両だ。そして分割・併合を繰り返すので毎回のように混色編成で走っている。編成は7両編成と4両編成が存在し、仙台車両センターと勝田車両センターに所属している。なお、4両編成は勝田車両センターのみに所属する。常磐線内は7+4の11両編成で特急ひたちとして走っているが、東北本線内は7+7の14両編成で特急ひばり、やまばと、あいづとして走っている。

特急ひばり12号は定刻通り仙台を発車し、東京方面へ向かう。

「本当にあっという間に全部653になっちまったな。」

「確かにそうですね。やっぱり、653、485と比べると運転しやすいですか?」

「そりゃそうだな。やっぱり新車だからブレーキの効きもいいし、運転台もすっきりしてるから、運転しやすいな。でも485でやってたことをやらなくなるのも少し寂しいな。」

「師匠は運転士になってからずっと485と583運転してるんですよね?」

「そう。一時期は第三セクター化される前の伊奈線の103を運転してたこともあったけど、ほとんど、485系と583系を運転してたな。」

「本当に昔からの相棒なんですね。」

「まあ、そうだな。でも、まだ青森の485はいるからお前も485の相棒になれるぞ!!」

「そうですね。」

「でも、青森と秋田の485も危ういけどな…。」

仙台車両センターに所属する485・483系はE653系の導入により、団臨用を残し、全て置き換わってしまい、次は青森車両センターと秋田車両センターの485系も置き換えられる可能性もあり、今後が心配されている。


福島に到着し、山形からやって来た特急やまばと6号を後ろに併結する。ここからは14両編成となり、東京へ向かう。


少しして、黒磯を通過する。黒磯は交流電化と直流電化の切り替え場所だ。通常、485系と583系ではノッチオフにし、手元のスイッチを切り替えるのだが、E653系の場合、ノッチオフにするのは同じだが、切り替えは自動で、手元で操作する必要は無くなった。そして、485系と583系で室内灯は消えていたが、このE653系は室内灯が消えない。


黒磯から直流区間になるので、すれ違う列車が大きく変わる。黒磯まではED75が牽引する50系の客車列車と1993年に導入された701系あったが、直流区間に入れば、湘南色の115系やそれに紛れてステンレスの車体の211系、そして、115系の置き換えを目的に今年導入されたE231系1000番台とすれ違う。

「やっぱり、新車増えたな。」

俺はそれを見てつぶやく。

「今は新車をどんどん作ってゆく時代ですからね。今後どんどん国鉄車も減っていきますよ。」

「そうだな…。」

どんどん、俺の知ってる車両が減っていくのか…。なんだか寂しいな…。俺は最近、よくそれを思う。


東京に到着し、折り返しの特急ひばり25号とやまばと9号でまた福島へ向かう。

福島に到着すると、俺らの乗る列車は特急やまばとなので、運転士は奥羽本線の運転士と交代し、俺らは後ろに連結されている特急ひばりの運転をして仙台へ向かう。

終点、仙台に到着すると、この車両は今日の運用は終わるので車庫に引き上げる。

車庫に引き上げ、再び仙台へ戻る。次に乗務するのは青森からやって来る特急はつかり16号、上野行き。案内放送と共に列車が入線する。

「そういえば、このはつかりは583系でしたね。」

南が入線してくる583系を見て言う。

「まぁこれは夜行の送り込みだからな。」

点呼を済ませ、車内へ入る。

「583系、あんまり運転したことないので、ビシバシ指導お願いします!!」

南が言う。

「ビシバシってな…。あまり485系と変わらんぞ。485と同じ感じでやれば大丈夫だよ。だから、お前が思うようにやれ!!」

俺は苦笑いし、うなずく。

「わかりました!!」

運転台の閉じめランプが点き

「17M、仙台、定時進行!!」

南は掛け声と共にマスコンを力速に入れる。

列車はスピードを上げ、次の停車駅へ向かう。

583系は現在、1990年にデビューした651系の導入によって、急速に特急運用を減らしている。JR西日本やJR九州の583系と同様に民営化後、シートのリクライニング化、寝台の2段化などの更新工事をやったが、床下の老朽化が著しく、少しずつ廃車が進んでいる。あとこいつもどのぐらい残るのかな…?


列車は福島、郡山、宇都宮、大宮と停車し、定刻通りに上野駅の地上ホーム14番線に到着する。この車両は折り返しホームライナー大宮5号となり大宮まで向かいその先の東大宮特急留置線に向かう。

この留置線は1969年に特急の増発用に作れた留置線で485系や上越方面へ向かう183系が所属している。他にも251系やE653系、651系、583系、189系、115系、165系、455系、武蔵野線から「特急リレー」としてやってくる101系など多岐に渡る車両が留置されている。

583系は留置線にある小さなホームがあるところ入線させる。そこには白いシーツを積んだカートを持った作業員がたくさんいた。

「この列車って折り返しは夜行ですか?」

「この運用ならたぶん、急行十和田3号の運用に入るのかな?」

「なるほど…。」

651系の導入により583系の特急運用は減っているが、その代わりに夜行急行の運用に就いている。夜行急行の運用は十和田2往復と新星と天の川の運用の運用に就いており、少しずつ、客車急行の運用もこの583系に置き換わるのではと思う。


俺らは留置線の横にある東大宮運転所に所属しており、今日の仕事が済んだので、運転所に戻り点呼を済ませ、更衣室に入り、帰る準備を始める。

着替えながら南が…

「師匠。」

「なんだ?」

「僕が師匠ぐらいの年齢になるとこの路線はどうなっているんでしょうね。」

とつぶやく。

「お前が今25だからその20年後ぐらいの話か…。そうなら俺が今、44だから俺は20年後は64か…。まだその時は現役でいけそうだけどな。」

俺はそう言って笑う。

「師匠、話反れてますよ。」

「悪い悪い。う~ん。20年後には今運転してる車両はいなくなってもっと新しい車両になってるんだろうな。もう国鉄の色なんてほとんど残ってないんだろうな。」

「なんか寂しいですね。」

「まぁそうかもしれないけど、これが時代ってもんだ。それに今はもう国鉄なんかじゃない。お前らみたいな若いのが新たな時代を切り開くんだよ。だから、お前やその後輩に今後の新しい車両を運転していくんだよ。俺ら国鉄時代からいる運転士はもう言い方悪いけど、用済みなんだよ。だから、次はお前らの番だ。」

と言って、俺は南の肩をポンと叩く。

「はい!!」

南は笑顔で答える。その笑顔の南の返事に対し俺はゲス顔で

「だから、ブレーキもう少し丁寧にかけろ。お前、いつもホームに入る時、増しブレーキ入れてるだろ。お前もまだまだだな。」

と言った。

「師匠、今の話ぶち壊しですよ。」

南は苦笑いする。

「まぁ、それが俺だからな。ハハハ。」

俺は高笑いしながら更衣室を出る。

「俺もまだまだ未熟だけど、俺も師匠みたいになって新たな後輩と新しい時代を切り開くぞ!!」

そう言って南は拳を握り、誓いを立てた。







しかし、南のその誓いは叶わなかった。

南は少ししてから独り立ちをした。そして彼も立派な運転士の1人となり、家族も家族で奥さんと3人の娘と仕事と家庭で充実してなおかつ幸せな生活を送っていた。でもそんな幸せな日常はすぐに打ち砕かれてしまった。

2004年11月17日のお昼頃のことだった。その日、南はE653系特急ひばり11号・あいづ号で大宮から宇都宮へ向かっていた。その時、事故は起こった。

その事故とは、なんと線路と道路と立体交差する陸橋から車が落ちてきたのだ…。それに運も悪く、その車は南がいた1号車の運転室目掛けて落ちてきたのだ。運転室は車との衝突により、ぐちゃぐちゃになり、列車は安全装置が働いたのと、車の落下により、架線が切れたため、停車した。乗客にけが人は出なかった。

しかし、車が落ちてきた運転室にいた南は救急隊に発見された時には死亡していた。

奥さんと3人の娘を残して…。一番下の娘はまだ1歳になったばかりだった。


葬式の時、南の奥さんが

「旦那はいつも今後の電車の姿について毎日のように私たち家族に話してくれて、とても仕事も家庭も楽しくやっていました。そして彼は今後の電車の姿を楽しみにすると共に、子ども3人の成長を誰よりも楽しみにしてました。でもまだ、1番下も1歳になったばかりだし、上の子もまだ小学生にもなっていないのに、その成長を見せられなくて大変残念に思います。だから、私1人で子どもの成長を、旦那の代わりに見ていくので、井上さんには、旦那がもう一つ楽しみにしてた今後の電車の姿を見て触れていただけませんか?」

と、大粒の涙を流しながら言う。

「わかりました。あいつの代わりにできる限りで未来を見ていきたいと思います。奥さんも今後、大変なことがあると思いますが、くじけずに頑張ってください。困ったら僕らに相談してもらって構わないので。」

俺はそう言ってにっこり笑う。

「はい。本当に旦那がお世話になりました。」

奥さんは頭を下げた。


しばらくして、俺は南の死に顔と対面した。それを見て俺は

「まったく…。世話のかかる弟子だな…。家族残してどこに向かう列車に乗るんだよ…。でもお前が今後の東北本線の姿を見たいなら、俺の体力がある限り見てきてやるよ。だから、安心して行きな。あとは俺がなんとかしておいてやるから。」

俺はそうつぶやき、葬儀場を後にする。


葬儀場の外に出て俺は

「俺もまだ現役バリバリでいけるし、行ける未来まで行くか!!」

と、背伸びをする。

俺はここに今後の東北本線の姿を見れない人々のために代わりに見ていくことを誓った。俺はこの路線が高速運転を始める前からこの路線で運転士やっているから、この変わりゆく東北本線を今後も見れたらいいなと思う。

今回は結末が悲しい感じになりましたがどうでしたか?少し前までそういった系は書けなかったのですが、最近は普通に書けるようになりましたね。

次回も東北本線の話を投稿したいと思います。

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