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守るべき存在、失われる世界  作者: 上月 佑幸
クリスティア編
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クリスティアの幼き頃の夢

 怪しげな3人組を追いかけては路地裏の小道に出たが、左右を見渡しても既に彼らの姿は無く、先程の衣服店があった路地裏の通りとは打って変わって閑散としていた。


「……見失っちゃったね」

「だが、まだ遠くには行っていないはずだ」


 この通りに立ち並ぶそれかの家に入ったと考えるのが妥当だろう。だが、それだとアルベール達は行動を起こすことができない。


 彼らの姿を遠目に見ただけで顔はよく見えず、一軒一軒尋ねまわっていれば此方が怪しまれ、相手に余計な警戒を与えてしまう。


「今は動く時ではないな。しばらく様子をみよう」

「そうだね。じゃあとりあえずここで待ってみる?」

「うむ」


 怪しいというだけで、特に何もなかったのかもしれない。かといって万が一の可能性も捨てきれない。


 少々効率的とは言えないが相手が行動を起こすまで待つしかない。


「アルベール君って、今いくつなの?」


 ただ待っているだけでは、暇を持て余してしまうので怪しまれないためにもクリスティアが一度表通りに出ては2人分の飲食物を手に帰ってきて、うら若き女性2人が立ち話しをしている風を装いながら見張ることとなった。


 今までクリスティアが気になっていた事をこの機会に聞いてしまおうと会話のタネとしてアルベールに振る。


「我がこの世界に産み落とされたのは……まだ5大強国なんて存在していなかった頃だからな、かれこれ400年以上は生きていると思うのだが、すまない詳しい年齢は忘れてしまった」

「そっ、そうなんだ。……ははは、400歳以上なんだね」


 魔族とは人間と比べ長生きだというのは知っていたが、まさか400を超える長寿だったとは知らず、驚きを隠せなかった。


「まぁ、ここまで長生きするのは我とクルトくらいだろうがな」


 そう答えては手に持ったパンを齧る。


「えっ、そうなの?」

「うむ、我とクルトは常世の時代に生きていた神々の魂の残骸のようなものなのだよ。多分ではあるが寿命で死ぬことは無いと思う」


 常世の時代。


 最近にしてよく聞くようになったその単語にクリスティアは思案する。


 以前、まだ聖王として民や他国から称賛されていたクリスティアの父ヘブリドと母である聖女マリーナが存命していた頃にも一度深夜に書物庫に忍び込んだ時に人語を話す一冊の本と出会い、彼も常世の神だと名乗っていた事を思い出した。


 そして、その神々の時代に幕を下ろしたのが今クリスティアやアルベールを含む魔王達の間で問題となっている邪神クリスティア。


 いつ、どのタイミングでどのような方法を持って世界を滅ぼすのか分からないという恐怖が再び胸中に塊となって重くのしかかる。


「クリスティアは大人になったときの自分を想像したことがあるか?」


 知らず表情を曇らせていたクリスティアに別の話題を振る。


「えっ!? 大人の自分?」

「うむ、小さい頃にはあったであろう? なりたい自分やこんな事をしてみたいという夢が」


 言われてクリスティアは夢にあふれていた幼い頃の自分を思い返す。


「う~ん、やっぱりお母さんみたいに立派な聖女になりたかったかな。後はお菓子屋さんに花屋さん、後は冒険者にもなりたかったかな」

「冒険者?」

「うん、世界を自分の足で見て回って、その土地でしか食べられない物や、人々との交流。自由に気の向くままに旅がしたいなぁって」


 一国の王族として生まれ持った、ある種のしがらみから生まれた夢なのだろうか。


 その自由気ままな旅も聖女として即位し、国を守らねばならぬ身となった今では彼女に旅なんてものは夢のまた夢とであった。


「全てが片付いた時には、クルトに国を任せて我と一緒に自由気ままな物見遊山の旅にでも行かぬか?」


 ここに来る前に見たクルトの変身を思い出し、ならばと、普段が業務によって多忙の毎日を送っているクリスティアにそういうご褒美的なモノがあっても言いのではと提案する。


 その誘いにクリスティアは驚きに目を瞬かせる。


「私がアルベール君と2人で?」

「うむ、我と行くのが嫌ならエリーザ達と行くのも良いしかもしれぬな。あの3人はよく物見遊山しに各地を遊び回っていたらしいからな」


 あの3人なら何があってもクリスティアを守れるだろうし、何より話下手な自分よりかは楽しい旅を提供してくれるだろう。


「ううん、私アルベール君と行きたい。あっ……別にエリーザちゃんたちが嫌いとかそういう訳じゃなくて! その、アルベール君は初めて自分から作ったお友達だし、アルベール君ともっとお話しして色々知りたいから」

「そうか、ならばその時を楽しみにしていよう。その為にもまずは目の前の問題を片づけなくてはな」


 そう言ってクリスティアの頭に軽く手を置き、優しく撫でる。


「そうだね! うん、私には皆が着いてるんだからどんな困難も乗り越えられるよね」

「もちろんだ。魔王という存在を見くびられては困る」


 しばらく雑談をしていると、ついに一軒の家屋から3人組が周囲を気にしながら出てきた。


「怪しいね」

「うむ、少々いや……あれはもはや、自分たちが怪しいと言っているようなものだ」


 怪しい3人組はなにやら黒いカバンを胸に大事そうに抱えては周囲を異常に見渡している。そして、そのままさらに奥の路地へと足を進めていき、どんどん人通りの少ない場所へと向かっていった。


「追う?」

「いや、追うのはこいつに頼む」


 アルベールはその場で詠唱を唱えれば、銀の美しい毛並みを揺らし狩人のような鋭い眼を持つ一匹の狼が形成される。


「すまぬが、気づかれぬように奴らを尾行してくれ。そして、何か動きがあった際にはすぐに知らせよ」


 主人の命に銀狼は分かったというように頷き応え、家屋の屋根に跳躍し駆けていく。


「我らは、物見遊山の続きでもしていよう」

 銀狼からの報告をただ、待つだけでは時間がもったいないと、クリスティアと共に人で賑わいをみせる表通りに向かう。

こんばんは上月です(*'▽')ノ

今日は比較的涼しくて過ごしやすかったですね。

さて、次回は中央協会でクリスティアの姿をして留守番をしているクルトのお話しです。

投稿日は7月26日の火曜日となりますので、よろしくお願いします。


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