怪しい人影
ある女性服専門店の店員によって見事な変身を遂げたクリスティアとアルベール。
路地を抜けようと歩むが、ふとアルベールの足が止まる。
「アルベール君、まだ諦められないの?」
クリスティアの視線の先には本来であれば美しい銀の長髪を揺らす青年だが、今はその銀髪も茶色のウィッグによって隠され、彼の身体に沿って張られた魔導膜の擬似的皮膚を覆う女性物の服。特にアルベールが落ち着かないのは足元だった。
膝上までしかないスカートは感覚を持たぬアルベールであっても違和感を感じていた。
「いや……もう、諦めてはいる。だが、我は周囲に目立たぬ地味目の服を頼んだはずなのだ。それなのに……これでは逆に目立ってしまうではないか!」
元の顔が良い分、化粧や衣装によって女装をさせた結果が、女性すらも振り返らせるような麗人と化していた。
「う~ん、でも聖女や魔王として視線を集めるよりかは私は楽だよ」
「むぅ……」
納得しかねるという表情をするアルベールに、今度はクリスティアが手を引き表通りに出る。
「ねぇねぇ、アルベ……名前はどうしよう」
「もう……好きに呼ぶと良い」
肩を落とし諦めきったアルベールの姿などお構いなしに、どんな名前を付けようかと楽しげに道を歩くクリスティア。
「そうだ! じゃあ、アベリアちゃんとかどうかな?」
「うむ、それで構わぬ」
溜息交じりに頷くと、クリスティアが人差し指をアルベールの口元にそっと当てる。
「今アベリアちゃんは女の子なんだから、言葉遣いは気をつけなきゃ!」
「わっ、我は容姿を捨てたのだぞ。それに加え言葉遣いまでも捨てよと言うのか!?」
「うん!」
容赦のない愛らしい頷きに、アルベールはさらに肩を落とす。
「じゃあ、まずは練習だね」
「……うぅ、よろしく頼む」
「じゃあ、さっそく会話をして慣れなきゃね」
それからしばらく、クリスティアとおんな言葉を使った練習が始まる。
最初の方は彼特有の話し方が直ぐに出てしまい厳しく注意を受けていたが、今ではスラスラと女性の喋り方をマスターしていた。
なにより苦戦を強いられたのは声質だった。
女声なんて直ぐに出そうと思って出せるものではない。だが、なんとか違和感を感じさせない裏声を用いてなんとか及第点を頂くことができ、その頃にはもうアルベールは男であった自分をプライドと共に完全に捨てさり、女性として愛しい友人と街を歩いている。
「アベリアちゃんは、これから行きたい場所とかある?」
「行きたい場所? そうね、私はスティアが行きたい場所についていくわ」
「ふふ、アベリアちゃん。段々とらしくなってきたね」
「……今日ほど、死にたいと思ったことはないわ」
立ち並ぶ店や路上で行われているパフォーマンスに眼を配りながらも二人は休暇を楽しんでいた。
「あれ?」
クリスティアは路地の一角が気になりなんとなく視線を向けると、薄暗い路地で何やら怪しげな三人組が身を寄せ合って何かをしていた。
一体何をしているんだろう? と不思議に思い、隣を歩くアルベールへそのことを伝える。
「怪しいな……わね」
「怪しいよね」
人様に言えないような取引きなのだとしたら、中央教会を統べる聖女にとって無視できぬ案件だった。
これが他人に害を与えるものだったら即座に取り上げ事情を聞かねばならない。だが、下手に動けば彼ら以外の仲間に悟られ余計な慎重を与えてしまう。
「アベリ……アルベール君、せっかくのお出掛けだったけど……」
「うむ、分かっている……わ。奴らを調べるのであろう? 調べるのね?」
「今は無理に女性言葉は使わなくても大丈夫だよ。ごめんね、振り回しちゃって」
「気にする事はない」
2人は頷き合い、路地の奥に消えていった怪しい人物達を追いかける。
こんばんは上月です(*^▽^*)
ある街の影で蠢く怪しい3人組。彼らは一体何者なのか!?
次回に続きます。
次回は7月24日の日曜日の投稿となりますので、よろしくお願いします




