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守るべき存在、失われる世界  作者: 上月 佑幸
クリスティア編
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意見の相違による衝突

 聖域内でアルベールとクルトは向き合っていた。

 クルトの言うように対策なんて練りようがない状況でも、アルベールの意志は変わらない。

「それでも、我はクリスティアを殺して世界を救おうなんて思わない。たとえ、それが世界を滅ぼす結果になったとしてもだ」

「アルベール、お前は少女1人の為にこの世界とそこに生きる人々を犠牲にしようっていう事なんだな?」

「……うむ」

 クルトの纏う気が次第に変化しそれは敵意へと姿を変える。

「そうか、わかった。俺はお前の意見の逆を推す。世界を救うために俺はあの娘を」

「クルト!!」

 クルトの魔力はこの聖域という空間に渦となり満たしアルベールに牙を剥くべく術式を展開する。

「俺が何故あの時お前に未来創造を使わなかったか。いや、精確には使えないんだ。使おうとすれば何者かが干渉しそれを阻む。それは大きな力を持った存在だ」

「それが、邪神の仕業だとでも?」

「それ以外には考えられないね。つまり早い段階で手を打たねば全てが手遅れになるんだよ」

「それでも我はッ!」

「クリスティアを助ける? もちろんそんな手段があるのなら俺も助けたかった。だが、もう一度言うぞ助ける手段は無い」

 クルトは常世言語を用いて魔法陣を展開しノイズの走るナイフを引き抜く。

 以前、戦った時に見たものと同じものだが、あれは単なる起動装置でアレが真に効力を発揮するのはナイフを無力化したその瞬間。

 当時の記憶を遡りながらも冷静に思考する。

 銀の粒子を即座に生み出し一本の刺突剣を形成させ、術式ではなく一般武器で立ち向かおうと身構える。

「ふふ、以前の戦いから学んだのは良いんだが、これはこうする事も出来てね」

「!?」

 地面に新たな重複した魔方陣を展開させ、その中心部に深々とナイフを突き刺しゆっくりと飲み込まれていく。

「何を……したのだ?」

「それは、お楽しみだよ」

 ナイフ全体を飲み干した魔方陣は力を得たと言わんばかりに発光し、仲の模様が回転する。

「カウンテルト:ヴェフェンスト ログア(愛おしき世界)」

 魔法陣は回転しながら広大に広がっていき、クルトとアルベールをその領域に収める。

「悪いなアルベール。できればこんな術式を使いたくはなかったんだが、世界を救うためだ」

 明らかな殺意をその身に感じつつも、アルベールも術式を展開する。

「輝きの届かぬ深い止みを照らせしは無数に漂いし銀の粒子、女神の涙は祝福の賜物━━━━カストリア・キャルデ・ズィースト(闇を照らせし銀の蛍)」

 アルベールの周囲を無数の銀粒子が出現し、彼を守護するように漂い浮かんでいた。

「カウンテルト:レーゲ(起動)」

 その言葉に反応した魔法陣は内側から外側へとノイズの波紋を生み出す。

まるで、生きているかのように。

 他者を銀に染める絶対優勢の銀粒子にまでノイズが行き届き、腐敗するかのように消滅していく。

「なに!?」

「この世界で俺が使う以外の術式は今のように無効化されるんだ。それが、銀聖であっても例外じゃないんだよ」

「つまり、クルト。貴女を倒すには術式以外の手段を用いなければならないわけか」

「そうだね、でもそれも無駄なんだよ」

 アルベールは地を蹴り出し、一気にクルトとの距離を縮め、刺突剣を持った右手を大きく引き矢の如く突き出す。

「カウンテルト:ヴェレッガ(守護の楯)」

 剣先がクルトの胸元に突き刺される寸前に薄い波紋によって阻まれる。

「結界……か?」

「カウンテルト:ケルテリア(巨神の腕)」

 クルトの背後より巨腕が現れ、アルベールを殴りつけ吹き飛ばす。アルベールの身体は高速で宙を飛び地面に2度、3度と跳ねる。だが、そもそも実体の無いアルベールにとっては痛みを感じず、邪魔な魔導膜を脱ぎ捨てる。これで、彼は究極の防御を得た。

「知っているであろう? 我の忌々しいこの身体。貴女がどのような術式を用いても我を殺すことなんて不可能だ」

「はたして、そうかな?」

「?」

 よく自身の身体を見てごらんとクルトは指摘し、警戒を解かぬまま言われた通り自分自身の身体に視線を落とす。

「馬鹿な!?」

 確かにアルベールの身体は霊体だ。だが、霊体であっても透けてはいない。今アルベールの身体はうっすらと透けていた。

「ヴェフェンスト ログアはね、痛みを与えることなく刻一刻と存在そのものを希薄かさせ、この世から完全に消滅させる術式なんだ」

 それなら実体を持たないアルベールを打倒することも可能だろう。

 この愛おしき世界ではアルベールは術式を使用することができない。物理攻撃もあの波紋の楯によって阻まれる。そして、時間が過ぎる毎に失われていく存在そのもの。

 この勝負に最早アルベールに勝ち目はない。全てを諦めるしかないのかと溜息を吐き出す。

「!」

 まだ、勝算あった。

 これは、賭けだが試してみる価値はあると不敵な笑みを浮かべる。

「まだ、足掻くつもりか? おとなしく降参して俺の意見に賛同すれば殺しはしない」

「敗北を認める? あまり我を舐めてくれるなよ……次元召喚!」

 宙の一部が陽炎のように歪み、迷いなくその中に手を潜らせ引き抜けば、一本の長い矢が握られていた。

「因果創神器か。だが、そんな糸を通す程度の小さな穴を開ける矢で何が出来る? 俺には守護の楯があり、いくらその矢を用いようとも俺には届くことはないんだぞ?」

 そんな事は百も承知だった。アルベールの因果創神器アスルート・フェルンの矢先をクルトにではなく、この世界そのものに向ける。

「射れ!」

 使用者の意思に反応し、矢は一点の風穴をあけるべく力を発揮する。

 この世界を作り上げている核となる中心部。に僅かばかりの穴があき、アルベールはその中心部に向かって駆け出す。

 彼の意図を理解したクルトはそれを阻もうと巨神の腕を振るうが、今のアルベールは擬似的に他人と触れ合うべく纏った魔導膜を脱ぎ捨て完全なる霊体となっているので、巨神の腕はアルベールの身体をすり抜け空振りする。

「アルベール!!」

 彼の名を叫んだ頃には既にアルベールはその穴に手を充てがい自身の魔力を流し込んでいた。

「今回も我の勝ちだな」

 完成した術式に不純物が混ざり、魔力均衡が崩れ霧散する。

「全くお前というやつは」

 クルトは力なく笑い、その場に座り込む。


こんばんは、今回は戦闘だけになってしまいました。

展開がグダってしまっているのはご容赦ください。

次回は6月15日になりますので、どうかよろしくお願いします

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