意を決する時、彼の歩む道
アルベールはクルトが聖域に向かったという情報を得て、銀翼を羽ばたかせ上空を飛翔していた。
既に日は朱色に染まり、彼の銀髪も地平線に沈みゆく夕日色に染まっていた。
クルトは聖域で探し物をしているとのことだが、それはきっと常世の神を滅ぼした邪神に関係するものだろう。
もし違っていても今日の大図書館での出来事を話し、情報を共有し共に来るべき結末への対策を講じなければならない。
「一刻も早くクルトと合流せねば」
魔王制をこの時代に作り上げた第一人者であるクルト。思えば彼女も謎が多い人物だった。
アルベールと出会う以前は何処で何をしていたのだろうか、そしてあの膨大な知識量は一体どこで身につけたのだろうか。
考えれば考えるだけクルトという存在が分からなくなっていく。
だが、今はそんなことよりもこの世界とクリスティアの方が優先だと思考をすぐさまに切り替える。
焦る思いを無理矢理にも押さえ込み、ただ今自分に出来ることだけに意識を向け銀の残影を引き天空を駆け抜ける。
「これだけ広い場所を一人で探すのは流石に疲れるな」
この広大な聖域を1人一箇所一箇所丁寧に調べ見回るのは骨が折れると苦笑しながら瓦礫の1つに腰を落ち着かせ、明かりなど何処にも存在しないにもかかわらず、この聖域内では視界が良好で通路の奥の方まで見わたすことが出来る。
はたして、このような高度な文明が遥か昔に存在していたのだろうかとクルトは休憩がてらに思考する。
聖域という建造様式、クルトの知識を持ってしても解読不可能な壁画に描かれた文字と模様、そして現代の文明では説明できない程の仕掛け。その全てがクルトにとって興味をそそるのだが、今回はそれらに時間を割いている暇はない。
今回この場に足を踏み入れたのはクリスティアの件だった。
彼女にささやき続ける不穏な存在。それは、きっとこの先何か良からぬ災厄を招くのではないかとそんな予感がしたからだった。
それに未来創造が使えないというのも大きく引っかかり、その事もあって今クルトは聖域を探索していたのだ。
「誰か1人くらい連れてくればよかったな」
今になって一人で来たことを後悔しても仕方ないのは分かってはいるが、何かしらの手がかりを見つけるまでにどれくらいの労力と時間がかかるのかと
考えるだけで溜息が漏れる。
「さて、そろそろ探すか」
一度腰を落ち着かせてしまって立つのがめんどくさいと身体が拒むがそんなことお構いなしに、一気に立ち上がり一度大きく伸びをして未だ探索していない場所に足を運ぶ。
それから2時間、何の手掛かりも見つけられぬままただ無駄に時間が過ぎていく。
この聖域内部は外部へ通じる道が1つしかないので分からないのだが、きっともう日は暮れているだろうなとぼんやり思い、視線は柱や壁、地面へと黄金色の瞳を向けていく。
そうこうしていると、何者かの気配にクルトの動きが止まる。その気配は次第に近づいてきていて通路の暗がりから銀色の長髪に翡翠色の双眸を持つ魔王アルベールが姿を現した。
「アルベール、こんな所に何をしに来たんだ?」
「ふむ、クルトに話しがあって中央教会内を探していたのだが見当たらず、リリアンから聖域に言っていると聞いたのでな飛んできたのだ」
「そうか……それで、俺に話しがあるってのはなんだ?」
「うむ、実は……」
アルベールは要所要所を纏めクルトに伝える。パラノイアという異世界から来たという人物とその見たことのない術式。中央教会の大図書館で見つけた常世の異本。
話しを聞いているクルトは次第に表情を曇らせていく。
「アルベール、1つだけお前に確認しておきたいんだけどいいか?」
「なんだ?」
「クリスティアを殺す気はないんだな?」
「当然だ! 殺す気もないし世界を滅ぼさせる気も我にはない」
クルトはそうかと告げ黙する。
クルトが今何を考えているのかはアルベールには分からない。だが、クルトの芳しくない顔色を伺えばなんとなくは察しはつく。
「出来れば俺もクリステクィアを失いたくはない、なにせあの娘は希望だからね。だけど、その希望が絶望を振りまく災厄となるなら俺達は立ち向かわなければならないだろう。そんな局面でも
お前は嫌だ嫌だと駄々をこねるのか? いいか、世界を壊されるか彼女を殺すかの二択しかもう俺たちと人類が生き残る術はないんだ……」
「そんな事はない!! 必ず何かしらの打開策はあるはずだ。我は最後まで諦めぬ」
「じゃあ、その最後が訪れるときは諦めるんだな?」
「それは……」
戸惑いを露わに視線を泳がせるアルベールにクルトは静かに息つき、子供に諭すような口調でアルベールに語りかける。
「アルベール、お前の言った事が全て事実なら残念ながら結末は確約されているんだよ。愛する者を失うか、世界を失うかという最悪の結末がね」
「……」
「お前の甘い考えは否定させてもらうが邪神が降臨すれば俺やアルベール、他の魔王が全力を持っても止められるものではないんだ。結局の所クリスティアを選ぶなんていう選択肢をしている時点で両方を失うことになるんだよ。だが、世界を選び彼女を捨てれば人類と世界は救えるかもしれない」
クルトに突きつけられた現実にアルベールは言葉も出ない。きっとクルトなら何かしらの対策を講じてくれると期待していた分だけに、そのクルトがすでに諦めていてはもうどうする事も出来はしない。
「邪神を降臨させぬ方法は……ないものなのか?」
「あぁ、そもそもどういった時点で何を引き金に降臨するかも分からない以上対策をねることなんて出来ない」
「そうか……」
アルベールは翡翠色の瞳に決心の色を宿し、クルトを見据える。
こんばんは、未だに体調不良で仕事中もフラフラとしております。
次の投稿は6月13日の月曜日を予定していますので、どうか引き続きよろしくお願いします。




