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守るべき存在、失われる世界  作者: 上月 佑幸
クリスティア編
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禁断の書物

 上空での戦いを終えたアルベールはそのまま中央教会に戻り、険しい表情を浮かべながら自室のソファーに腰を下ろしていた。

どうしてもパラノイアの言った言葉が野入りから離れることなくグルグルと円環のように巡っていた。

 焦燥感に駆られて心は落ち着かず、一刻も早くクリスティアに会ってあの笑顔を見なければこのどうしようもない気持ちを抑えることは出来ないだろう。

だが、今一度自分自らフィール連合国に出向く気にはなれなかった。

「邪神クリスティアは世界を滅ぼす……下らない、そのような事させるものか」

 じっとしていても何も始まらないし良い方には転がるはずもないと、深い溜息と共に立ち上がり自室を後にする。

 もちろん向かった先はクリスティアが最初に相談を持ちかけた人物クルトの部屋だが、室内はもぬけの殻で、最近まで誰かがいた気配がない。

「留守なのであれば致し方ないか」

 募っていく焦燥を何とか押さえつけながら、この国にそびえ立つ各国の書物を取り揃えている大図書館へと足を運んだ。

 ゴシック調で円形の造りをした塔のような建物がこの中央教会大図書館。

 足を運んだのは初めてだが、ここに無い書物は無いと言わしめるほどの規模で、そのため常に300人体勢での徹底管理が敷かれていて、

観音開きの扉を抜ければ館内には本を捲る音と小さな小声くらいしか耳に入らず、正に書物の聖域と呼ぶに相応しい場所だった。

 辺りをキョロキョロと見回していると、女性司書の1人がその様子に気付き声を掛ける。

「お客様……アルベール様が当図書館をご利用されるとは珍しいですね。何かお探しの本でもありますか?」

 自身の名前を急に呼ばれ驚きはしたが、そういえば人魔共存を誓い合う聖典の時に全民衆の前で聖女と魔王達が共に手を取り合い、平和な未来を築いていこうという誓いを

立てたのを思い出し、その為魔王達の顔と名を知らぬ国民は存在しないほどの有名となったのだ。

 美形ぞろいの魔王ともなれば尚更だろう。

「うむ、神話を探しているのだが」

「神話……ですか、えっと、どの国の神話をお探しでしょうか?」

 魔王が神話の本を探すというのは少々奇怪であったのか、一瞬だけ言葉に詰まる。

それはアルベール自身も思っていた。普段であれば神話なんというものは読む気がせず誇りを被らせてしまうだろうと内心で苦笑しつつもアルベールは答える。

「常世の時代なのだが」

「常世の時代ですか、私の権限ではご案内出来る代物ではありませんので館長をお呼びしますので少々お待ちください」

 たかだか神話に許可が必要なものなのかと疑問に思っていると、司書は急ぎ足で扉の奥に消え、しばらくして老人を連れて現れた。

「おまたせ致しました」

 司書が恭しくお辞儀をして、老人の一歩後ろに下がる。

「アルベール殿ですな、祭典で遠目からお伺いしましたが、間近で見るほうがより一層お美しいですな」

 目元に優しげな小皺を作り笑う老人にアルベールも慈しみに満ちた瞳を向け微笑み返す。

「常世の神々の書物を拝見したいのだが」

「おぉ、そうであったな。ですが、魔王とあらせられる貴方様が何故に常世の時代に栄えた神々の文献に興味をもたれたのですかな? もし、不都合が無ければ教えていただきたいのじゃが」

 流石にクリスティアの事を正直に述べることは出来ないので、そこは伏せつつ館長には悪いとは思ったがテキトウな理由を伝える。

それで満足したのか館長は小さく頷き、付いてきなさいアルベールに背を向け、女性司書には仕事に戻らせる。

 関係者以外立ち入り禁止と書かれた扉を抜け、長い回廊を進んでいくと、その奥に1つだけ他の扉とは造りが明らかに違う重厚で厳重な扉が立ちふさがる。

「だいぶ、厳重に保管されているのだな」

「えぇ、常世の時代は所詮は神話と笑い飛ばせぬ物故の扱いでございます。この書物と内容を外界に漏らすべき物ではないのじゃ。本来であれば焚書とし世から葬り去るのが最善なのでしょうが、

クリスティア様の父君のご命令で保管しているのです」

 何故、聖王ヘブリドはそのような物を保管しているのだろうか。そもそも別段そこまで常世の神々の話しは忌々しいものではないと記憶していた。

 アルベール自身も書籍としての形で拝見するのは初めてだが、己が知っている内容と大きな違いがあるのだろうかと深く考え込んでいる間にも、館長は懐から大きな鍵の束を取り出し、

1つ1つ差込み計13の鍵を開錠する。

「ここからはアルベール殿お1人でお進みください。鍵はお渡しいたしますので、お手数じゃが帰り際には全て施錠していただいてもよろしいでしょうかのぅ」

「うむ、了解した」

 アルベールの返事に大きく頷き、踵を返して来た道をゆっくりとした足取りで引き返す。その後ろ姿を見送り重厚な扉を押し開け、

人1人通れるくらいの狭い螺旋階段が地下に続いている。

「うん?」

 扉の外では感じなかったが、今ははっきりとその身に纏わり付くような、否、洗礼された邪悪な神々しさがアルベールの身体を吹き抜ける。

「この先にあるものは……一体」

 なるほどと、確かにこれを世の表舞台に出してはいけない。館長の言った意味が理解でき、これを燃やそうとしなかったヘブリドの選択は正しいだろう。

これは災いなどという可愛らしいものではなく、全てを無に帰して一方的な摂理と秩序を振りまこうとする邪な波動。

 アルベールは一歩、一歩とその禍々しいほどの純聖に反吐が出るような胸中に不快感を募らせる。

そして、ようやく階段を降りきると、またもや重厚な扉が待ち受けていて、その扉には大きく魔方陣が描かれていた。

「封印しているのか」

 最後の扉も手渡された鍵で開錠し扉を押し開く。すると中は小さな一室でその中央に置かれたテーブルの上に一冊の書物が置かれていた。

「あれが、常世の神話の書物」

 その書物を手に取り、薄明かりの中ページを捲っていく。


こんばんは上月です。

次回も引き続きアルベールでお送りいたします。

次は6月3日に投稿しますのでよろしくお願いします。

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