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守るべき存在、失われる世界  作者: 上月 佑幸
クリスティア編
50/90

アルベールの守りたい者

 見たことのない系統の術式にアルベールは最大の警戒を払い銀の術式を展開し天空を駆け回る天使を迎撃する。

「威厳と誇りを胸に主を守護せし穢れ無き騎士、汝の牙は安らかなる眠りをもたらす賜物なり━━━━ズィルバンシュ・フェーレン(守護せし誇り高き銀獣)」

 アルベールの詠唱と意志により無数の銀粒子は収束し即座に鋭利な牙を携えた狼へと形作る。

 アルベールの術式は触れれば銀の粒子となりその身を崩壊させる系統と、相手の肉体から魂の一片までも銀に変える系統、そして銀を自在に形作らせ新たな物質の形成という3種類の戦い方をする

 そして、今駆け出した誇り高き銀狼は3つ目の系統に属し、アルベールの意志を汲み取り自我を持っているかのように行動する。

 我が領域だと言わんばかりに高速で飛び回る天使に銀狼も負けずと後を追い回す。

 こうして、互の使い魔というのような術式は主の元を離れていった。いや、離れさせたのだ。銀狼が主人の意を汲み障害を遠ざけようと追い回していたのだ。

「アルベール君、キミの狙いはこれか」

「見たことのないモノには警戒するのは当然であろう。それにな、辺をウロチョロと飛び回れても邪魔なだけなので我が忠義の騎士と戯れてもらうぞ」

「あぁ、それは構わないよ。だが、キミのえ~と……そうそう術式だったね。実に美しい。見惚れてしまうね」

「そうか、満足いただけたようで何よりだ。だが、貴公が何を成そうとしているのかそれを見極めるまで帰す気はないのでな。見飽きてしまうかもしれぬな」

 目の前のイレギュラー相手に冗談めかしく言葉を並べるが、それは先程この男が言った不可解な言葉によって乱された我が心に落ち着きを取り戻すためだ。

クリスティアを殺さねば世界は滅ぶ、そう言った。

 だが、そんな馬鹿げたことがあるものかと真っ向から否定しきれない。夢の中で自身と同じ声をする何者かが語りかけてくるとクリスティアから相談を受けたクルトが言っていた。それが本当であるならば目の前の男が言っている事は真実なのかもしれないと真我が認め頷きかけている。

 そもそも、自分ではなく何故クルトに相談をしたのかと今の状況で場違いな考えが錆のように張り付き離れない。

「剣と化せ我が銀よ!」

 無駄なことは考えるなまの前の事に集中しろと頭を振り、使い慣れた刺突剣を形成し、それを手に銀翼を羽ばたかせパラノイアに迫る。

 焦りと嫉妬がアルベールの思考を短絡的にさせ、警戒していたつもりでも無意識に意識は別の方に向いてしまっていた。

「相手の出方も見ずに特攻とは、随分と考えなしな真似をしてくれるなアルベール君」

 パラノイアは手の平を見せるように右手を突き出す。

「0から1へ、探求の賢者への神罰」

 その手の平の周囲から空気が振動し魔方陣が空間に描き出される。

 この時点でも術式の発生過程がこの世界の物ではないと証明していた。

 この世界の術式はすでに描かれた魔法陣が浮かび上がり展開し術式を発動するが、今パラノイアがやっているのは何もない場所に1から魔法陣を描く工程を経てようやく術式を発動するモノだ。まるで0から1へ、無から有を生み出しているように。

 だが、それでもアルベールは止まらない。そう、彼に対する全ての攻撃は意味を成さないからだ。

彼の異名でもある銀聖の影法師。それは、彼の身体が何かの呪いなのか加護なのか知れぬが、他者と触れ合うことが出来ない影のような身体で、一切の干渉を受け付けない

最強の楯。

「我を打倒していのであれば、この我が身を苛む呪いを剥ぐのだな!」

 刺突剣の届く間合いに入ったのを確認し、鋭利な剣先は風切り音を纏いながら突き出され、それと同時にパラノイアの展開した魔方陣からも蒼い雷が迸り、轟音と共に放たれ、アルベールは蒼電光に

飲み込まれる。

 視界を一瞬にして奪う閃光はシラーの扱う雷の比ではなかった。

「……む?」

 やはり、影法師である彼に害を加えることかなわず、所詮は目くらまし程度にしか効果は発揮しなかった。

「なるほどなるほど、やはりキミには効果がないようだね。ふむふむ」

 1人何かを納得しているパラノイアに僅かばかりに首を傾げるアルベール。

「貴公は1人納得し何がしたかったのだ?」

「いやなに、私の個人的な実験だ。気にしなくていいよ。ふふふ、実に面白い身体をしているね、興味がわいてくるよ」

 熱の篭った視線をぶつけられ、嫌な寒気に身震いをしつつも刺突剣を構える。

戦闘はまだ終わってはいないのだ。あくまで今のは互に初撃による軽い挨拶。

 アルベールもパラノイアも本気を出してはいない。

「1つ、キミの大技を見せてくれないか?」

「む、それは遠慮しておこう。我が最大術式を発動すれば世界はつまらない銀一色に染まってしまうのでな、それはわれの望むところではない」

「そうか……残念だね。なら俺が代わりにこの世界を壊してやろうと言ったらキミはどうするのかな? まさか、手を抜いた状態で勝てるなんて都合の良い事は思っていないよね?」

 先程の蒼雷はアルベールであったから特に意味をなさなかったが、これが地上に打ち込まれればどうだろうか。先程の規模を考えれば国の1つは消し炭にできるだろう。それも、"あの程度の威力"でだ。 

 アルベールはパラノイアの先程の一撃を本気だなんて思っていない。むしろ、呼吸をする程度にごく当たり前の動作をするように術式を展開していたのだ。

 この男の本気の一撃を想像するだけで嫌な汗が首筋を伝うような気がしてならない。

「……」

「冗談だ。俺はこの世界に深く干渉する気はないよ。あの邪神が怖いからね。まぁ、キミの本気が見られないのは本当に残念だけど俺はそろそろ行かせてもらうよ」

 パラノイアが指を鳴らせば、彼等から離れたところで喰らい潰し合う天使が銀狼を振り切り主人の下へ舞い戻る。

 銀狼も低くうなりつつアルベールという主人の足元に馳せ参じて天使をその鋭い瞳で睨みつける。

「せいぜい頑張るんだねアルベール君。俺は救いの道を提示したがキミはそれに賛同しなかった。なら、世界の果てから見させてもらうよキミ達の物語をね」

 パラノイアは霞みが晴れるかのように姿を薄くさせ、やがては気配諸共消滅してしまい。宙にはアルベールと銀狼が寂しく取り残されていた。

「世界もクリスティアも失わせぬよ」

祝50話です。

ここまで付き合ってくださって読者様に感謝しております。

たぶん予想ではありますがこの物語は70話くらいで終わるんじゃないかと思っているのですが、日常パートをどのくらい挟むか悩んでおります。

次回は6月1日に投稿できればなと思っておりますので、どうかよろしくお願いします

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