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守るべき存在、失われる世界  作者: 上月 佑幸
クリスティア編
49/90

アルベールと対峙するパラノイア

 アルベールはシオンと別れた後に城下の安宿を探し、そこで晩を明かした。

「ふむ、少々埃っぽい気がするが中々に住み心地の良い部屋であったな」

 朝日に煌く銀の長髪は道行く人々の視線を男女問わずに浴びては、女性から黄色い声が上がるのを聞き流し早朝の散歩を行う。

散歩はアルベールの日課であるが、普段足を運ばぬ国での散歩gは新たな発見ができるのではと心踊っていた。

 フィール連合国首都は中央教会と比べて様々な様式の建物が立ち並んでいるので飽きることなくその芸術的風景を目に焼き付けながらもゆっくりと歩を進ませていく。

 陽気な日常は終わりなく延々と続いていく。アルベールはそう信じそれを守りたいと心に抱き、不意に過ぎるあの少女の笑顔に口元が緩みそれを隠すように天を見上げて太陽の眩しさに眼を細める。

「大陸は平和になったのだな。未だに小さな争いはあるものの以前よりはるかに人々はあんしんして生活できている。これも国々が手に取りあったお陰か。そして、人魔共存の架け橋となったクリスティアの」

 ヴァナトリア帝国は軍事力の大国であると同時に産業を発展させ、いままでとは違う国へと姿を変貌させようとしていた。その為にもネクロ皇帝も今回の会議に参加し、各国へと自国の復興と進むべき道を示そうと馳せ参じていたのだ。

「此度の会議が終わり国に帰ったら、何かプレゼントするのも良いな」

 日々激務をこなしていた少女への感謝と労いの意を込めた代物を渡した時の笑顔を思い浮かべ気持ちが高ぶるのを感じていた。

 せっかくなので、この大市場で探すのも良いだろうと思い、開店時間までの間を散歩に費やすべく、銀髪を揺らしながら街の奥に溶け込んでいく。

 時間にして2時間くらいの散歩を楽しんだアルベールは開店準備に賑わいを見せてきた市場を見渡していた。

「困った。女性というのは何を貰えば喜んでもらえるのだ?」

 いままで人間の女性というものにプレゼントを送るなんてことをした事がないアルベールにとって頭を悩ませる場面だった。普段身近にいた女性といえばエリーザかリリアン。それと最近女性だと発覚したクルトくらいだ。だが、あの3人はアルベールにとって女性ではあるがちょっと違う気がした。

「あのような色物ではなく一般の女性なのだがな。致し方あるまい女性の事は女性に聞くとしよう」

 道行くてきとうな女性に声を掛けるが、皆頬を赤くし俯き最後には走って逃げられてしまう。アルベールはただ女性の好み等を聞こうと思って声を掛けただけなのに逃げられるというのは、心に小さくない傷を刻みつけられ悲しみに暮れて俯き加減に市場を物色する。

「おっ、そこの銀色の髪した兄ちゃん。ちょっと寄ってかないか?」

 銀色の髪というだけで直ぐに自分のことだと気付き、視線を向ければ市場に店を構える老人だった。

「ご老人、ここは何を売っているのだ?」

「そうだなぁ、色色売っちゃいるが、女性へのプレゼントに向いているもんが多いな」

「!!」

「おっ、その様子だとやっぱり女性へのプレゼントを探してたってわけかい。うん、ならちょうどいいウチで買いなされ」

 確かに老人の出店に並ぶ品々は女性が身につけるイヤリング等の小物が多く見受けられた。

 アルベールはその無数に並ぶ商品からでさえ悩み視線が右に左に右に左にへと泳ぎ唸っては険しい表情を見せる。その顔色が可笑しかったのか老人は豪快に笑いあるべーるの肩をバシバシと叩く。

「うむ?」

「そんなに悩むことはないじゃろうて」

「いや、せっかく渡すのだ。テキトウなものでは相手に失礼だ。ここはよく吟味して……」

「よいか若いの。女というのはな━━━」

 老人は腕を組み頷きながらアルベールに女のなんたるかを教授する。それを一語一句聞き漏らさないように意識を集中させ、そのアドバイスを参考にしてアルベールが手に取ったのは小さな蒼色の石が無数に嵌め込まれたブレスレット。

「ほほぅ、中々目の付け所が違うの。して、それにするのか?」

「うむ、的確なアドバイスを我なりに分析して導き出したのがこの腕輪だ。これを1つ購入させもらおう」

「はいな、毎度あり」

 アルベールは早速購入した腕輪を歩きながら見つめつつ、これを受け取ったクリスティアが何て言ってくれるのだろうかと胸を高鳴らせる。

「うむ、よい買い物をしたな。さて、少々早い気もするが物見遊山も切り上げて先に帰るか」

 南門より出てしばらく歩き人目がなくなった所で、背から6枚の銀色に輝く大翼を展開し、空高く飛翔する。

 みるみる内に国が小さくなっていき雲がゆるやかに流れる領域まで昇ったところで停滞し、中央教会へ向けて短い空の旅を満喫する。

「君が第3魔王アルベール・ハイラント・ルードリッヒかな?」

「む、誰だ?」

 朱色の両翼を羽ばたかせている人型の何かがそこにいた。

 人間ではない、直感的にそう感じた。いくら魔術師でもここまでの術式は成せぬはずと目の前の男を警戒する。

「そう警戒しなくていいよ、アルベール君。本当はもう別世界に行くつもりだったんだけど一応君にも警告しておこうと思ってね」

「別世界? 警告? 貴公は何者だ」

 男の理解不明な言葉にオウム返ししつつも目の前の異端な存在に問いかける。

 アルベールをもってしても目の前の男は危険だと思わせるほどで、いつ何を仕掛けてくるか分からない状況で無防備に構えていられるほど惚けてはいないと身体全体に流れる魔力に意識する。

「名前はパラノイア。世界の結末を外部から傍観する者とでも言っておこうか。さて本題だキミは世界と1人の少女の命、ひろうとしたらどちらで捨てるとしたらどちらかな?」

「世界と少女の命? パラノイアと言ったか、貴公の言っている意味が我には分からぬのだが」

 パラノイアは愚鈍な奴だと言いたげな表情をして愉快そうに溜息を吐く。

 もったいぶるようにアルベールを焦らし反応を楽しむようにわかりやすく丁寧にはっきりと告げる。

「世界の崩壊を選ぶか、クリスティアという入れ物を殺し世界を救うか。キミはどっちを選ぶのかと聞いているんだよ」

 世界の崩壊とクリスティアになんの関係があるのか。

「何故に我がクリスティアを殺さねばならぬのだ? あまり巫山戯た事を抜かすなよ」

「怒っているのか? まぁ、構わないさ。キミは聞いたことがあるかい? 常世の時代に膜を下ろさせた邪神クリスティアの伝説を」

 そういえば少し前にクルトからそのような話しを聞いたことがあったようなと記憶を掘り起こしてみる。自分と同じ声が世界を壊せと執拗に囁いている。そうクルトは言っていた。

 アルベールも気にはなっていたが、本当にそれが常世の時代を終焉に導いた邪神であれば、クリスティアはどうなってしまうのか、無意識に拳に力が込もる。

「近い将来邪神はあのクリスティアという少女の器に降臨し覚醒を果たす。そして、世界はお前達を含め全人類が例外なく滅亡する。さぁ、そうするねアルベール。君達が助かる手段は早期に入れ物である彼女を破壊するしかないのだよ」

「我は忠告したぞ、あまり巫山戯た事を抜かすなと。貴様の問いに答えようクリスティアは殺さぬ。もし仮に貴様の言ったように邪神が目覚めようというyのなら我等がそれを阻む楯となり払う剣になる」

「君達程度に出来るのかな? 魔王の実力もいささか期待外れだったんだけどね。シオン君だっけ? 彼は俺にあっけなく倒されたぞ? ま、命は取らなかったけどね」

 シオンと対峙し期待外れと言わせるパラノイアという男の実力は未知数だ。

 アルベールは周囲に無数の銀粒子を展開し防衛の陣を築き、翡翠色の双眸に戦意をみなぎらせる。

次回もこの続きをそのまま書いていきます。

次の投稿は5月30日となりますので、よければ読んでやってください

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