酒を酌み交わす2人
どれくらいの時間が経過したのだろうか、日は傾き夕暮れが城下を染め上げる。その間シオンはパラノイアと名乗る男の延々と意味不明な話しを聞かされて時折睡魔に欠伸を噛み殺しながらも耳を傾けていた。
いつものシオンであれば下らねぇと吐き捨てその場を去るのだが、退屈ではあるもののどうしても下らないと吐き捨てることができなかったからだ。
それは何故か、目の前の男から漂う雰囲気かそれともクリスティアと関係があるからなのだろうか。
「よって、常世の時代は幕を下ろしたのだよ。理解したかな?」
「そういう話しは俺にするんじゃなくてよ、本人にするかクルトやアルベールにでもすればいいだろうが」
「本人に話してそれをきっかけに邪神が降臨でもしたら間違いなく私は消し飛ばされるからね。それは勘弁してもらいたいな。だから選択は全て君達に任せる。それに私はそろそろ別の世界に行かなくてはいけないのでね」
シオンは、視線を外に向ければ子供たちがちょうど店前をは楽しそうに走り抜けていった。今のこの男の話しが本当なら、世界がこの子達が滅びて死に絶えるということのなる。
「まぁ、ゆっくり考えてみたまえシオン君。さてそろそろ店仕舞いだ」
パラノイアはシオンを店の入口まで見送る。
「もう会うこともないだろうが、精々良き選択をすることを祈っているよ」
「テメェの顔なんざもう見たくもねぇよ。世界は壊させねぇしあのウザイ女も殺させねぇ」
「そうかい、まぁ後は流れに沿って世界は結末に向かって進んでいくだけさ」
シオンは背を向けて歩き出し、ふと思い振り返るがソコには先程の小物屋は存在せず代わりに廃屋が一件ポツンと夕日を浴びて朱色に染まり構えていた。
「クソ、ホント意味分かんねぇな」
今まで体験していたのは現実か夢幻かすらも疑いたくなるような光景に頭を掻き、極力あの男の事を忘れようと努力し取り敢えずは腹を満たすべく、夜の酒屋を探しに歓楽街へと向かっていく。
酒場も色んな国の様式を取り入れた店が並び、何処にしようかと模索していると、今この場にいるはずのない人影を見つけ唖然とし人垣を分けながらその姿を追っていく。
「アルベール、テメェがなんでここに居んだよ!」
追いつき銀髪の青年の肩に手を置き振り返らせると、翡翠職の相貌を持つ男が微笑む。
「シオンか、貴公こそこのような場で何をしているんだ?」
「ハァ? 俺はただ飯屋を探していただけだ。つか、テメェこそ何でこんな場所にいるんだよ」
「うむ、中央協会での仕事もあらかた片付いたのでな物見遊山だ。よくエリーザ達が土産話などを聞かせるものだから我もその物見遊山をしてみようかと思ったのだ」
「あ~そうかよ。まぁ、いい。アルベール今は暇か?」
「うむ、暇だ」
「なら付き合え、金はあるから奢ってやるよ」
「珍しく気前が良いのだな。まぁ、そういうことなら付き合うとしよう」
銀髪と灰髪の青年2人はてきとうな酒場に入っては、取り合えず名産の酒を注文した。
「アルベール、本当はクリスティアを追ってきたんじゃねぇだろうな」
「……さぁ」
「あからさまに眼を逸らすなよ。ったく、どいつもこいつも……」
「ふふ」
不意にアルベールは笑みを溢して、ため息を吐くシオンを見つめる。彼の瞳には今のシオンがどのように移っているのだろうか。
「なんだよ」
「いや、シオンとこのようにして人で溢れかえる酒場で酒を飲み交わすとは思わなくてな」
こんな未来が訪れようとはシオンもアルベールも予想だにしなかった。
「そうだな。正直俺はテメェと一生分かり合えずにいがみ合っているだけだと思っていた」
「いがみ合うもなにも、我は別に貴公といがみあったことは無いと思うが?」
「はなっから俺には眼中も無いってかァ?」
挑発的な態度にいつでもアルベールは笑っていた。
「別にそういうわけではない、ただシオン貴公は真っ直ぐすぎだと思ってな」
「まっすぐ……だと」
「そうであろう、己の信じた道を誰がなんと言おうが曲げることなく突き進む。まさに猪のようで我には可愛く映っていたがな」
「それ、ぜってー馬鹿にしてんだろ」
会話も良い所で注文した酒が運ばれてくる。
「うむ、ではいただこうか」
「そうだな……って、アルベール。テメェそういえば味覚ないだろ!! なに、味も分からねぇのに高い酒注文してやがんだッ!」
「うむ、気にするな。こういうのは気分が大事なのだよ」
シオンは頭を抱えつつも互いに酒を酌み交わし、本当の認め合った仲間としての酒をその舌に感じていた。
クリスティアは白と白が歪に交じり合う世界で眼を覚ました。
「また……この場所」
不快で吐き気を催す光景と脳が揺れるような感覚に冷や汗を滲ませつつも、いつものように途方もなく彷徨い始める。
延々に広がるこの空間には他色の存在を認めない強い拒絶の意思を感じていた。
「秩序を乱す因子……排除し……世界のあるべき姿を……」
以前よりはっきりと聞こえるその声にクリスティアは体を硬直させる。底知れぬ恐怖と焦りで足はこれ以上進む事を拒み、
その場に蹲ってはいつものように覚めろと何度も言い聞かせる。
「不要な世界は宇宙に阻害をもたらし、因果律を歪曲させ、均衡は崩れゆく」
クリスティアにはその意味を理解できず塞ぎ込もうとするが声は直接クリスティアに注がれていく。
蹲り溢れ出す涙と嗚咽に擦り切れていく何か。
「私は世界を壊したりなんかしないッ!!」
声を大にして叫ぶ。
「……」
頭に響いていた自身と同じ声は聞こえなくなり、またもや純白の世界は暗転しクリスティアの意識は現実に呼び戻される。
目覚めれば先ほどまでミンナで談義していた室内で、まだネクロ皇帝達は眠りについていた。
外はすでに夕暮れに染まり、窓から差し込む夕日色に寝覚めたばかりの眼には眩しく、眼を細めてしまう。
「眠るのが怖いです……」
それから片付けの続きをしはじめ、全員が目覚め頭の痛みに気だるい表情のまま風呂を浴びに浴場へ向かっていく。
「クリスティア、その私は何か貴女に失礼な……いや、恥ずかしい事をしていませんでしたか?」
恐る恐る尋ねる雅に苦笑しつつ何も無かったと答えれば、雅の表情は安堵したものとなる。
女湯の脱衣所で衣服を脱ぎ、広大な湯船を前にして2人は感嘆の声を漏らす。
「お風呂ってこんなに広いものでしたっけ?」
「いや、流石にここまでは広くはありません。私の国でも精々数十人が入れる大きさですが、これは最早数百人で入る規模ですね」
ひとまず身体を洗い身を清めてから、湯気立つ浴槽に身を沈める。
「う~ん、気持ちいですね雅ちゃん」
「そうね、でもこの広さに私たち2人というのは少々寂しい気もしますが」
「だね、でもこういうのって中々味わえないしいいと思うよ」
「えぇ、でもやっぱり1つ気になることがあるのですが……」
「うん?」
「クリスティアってやっぱり口調が時々おかしいんですよね」
「……」
こんばんは上月です。
次回はアルベール視点で物語を書いていく予定です。
次の投稿日は5月27日となりますのでよろしくお願いします。




