シンとアルベールの手合わせ
アルベールは中央教会主城のテラスから夜の城下を眺めていた。歓楽街は一際明るく人々の楽しそうな声が聞こえてくるような気がする。
先程酒場でクルトの話していた内容を思い出し頭を唸らせている。
「常世の時代を滅ぼした神クリスティア……か」
自分たちの知るクリスティアと邪神クリスティア。この2つの存在はたんなる偶然であればと思ってはいるものの、自分自身の深い場所では何か繋がりがあり、近い将来に何かが起こるのではと小さく警笛を鳴らしていた。そう、たとえばこの世界の崩壊なんていう事もありうるのだ。
そうなる前にアルベールは……いや、魔王達や世界に住む人々はその強大なる敵を前にして勇敢に戦意を見せ戦うだろう。たとえ我が身が朽ち果てようとも。
「クリスティア……」
だが、世界以前にアルベールはクリスティアの身が心配であった。
「そんな所で何やってんだ銀の魔王よ」
背後から独特な喋り方をする声に振り返れば、背に大剣を携えたシンの姿があった。
「シン……か」
「ふっ、少々冷たくはないか銀の魔王。何か思いつめた雰囲気だったから声を掛けてみたんだがお邪魔だったら消えるぜ」
「いや、構わない。ただ……」
そこで言葉がつっかえる。この先を話すべきか否か。このような荒唐無稽な話しを彼が信じるとは到底思えない、それ以前に彼がもし信じた所で何ができようか。
自身にでさえ良い打開策が思い浮かばないのだ一般の常識内で過ごしていた彼に何ができようか。
「どうした?」
「あぁ、すまない。そうだな……貴公は酒を嗜むか?」
「ふっ、何かと思えば酒の事か。自慢じゃないが俺は結構強いぞ、酒場の飲み比べで無敗を誇っているからな」
「ほぅ、それはシラーが聞いたら大変喜びそうな事だ」
「あの雷鳴の魔王も酒に強いのか?」
アルベールはコクリと頷くとシンは興味ありげといったように笑みを溢す。どうやら、飲み比べをしてみたいと心躍っているのだろう。
「銀の魔王よ、明日の朝時間はあるか?」
「時間? あぁ、特に用はないが」
「ふっ、なら俺と手合わせしてくれ。この力を少しでも早く自分のものにしたいからな」
拳を強く握り、強い意思を感じさせるシンにアルベールは肯定する。
「ふむ、いいだろう。では、明日の朝食後に中庭で行おうと思うがかまわぬか?」
「もちろんだ」
「了解した」
アルベールは短く答え寝室に戻ろうとシンの脇を抜け扉をすり抜ける。
「シン・リードハルト。彼の力はある一定の条件の下で最強を誇る武の能力。これを開花させぬ手はないな」
明日が楽しみだと口角を少し持ち上げ笑い、誰もが寝静まった薄暗い廊下を音もなく歩く。
翌日シンはいつもより早めに眼を覚ました。
今日は朝食後に魔王の中で最高位の男との手合わせに手が歓喜に震えていた。なんとか押さえつけようにも全く言うことを利かない身体に大量の酸素を取り入れ、ゆっくりと吐き出す。これを何度か繰り返していくうちに冷静さを取り戻し始め、手合わせとは言ってもこれは自身の力をコントロールする為のもの。やるからには全力をもってアルベールに挑まねばならない。
もちろんアルベール自身もそれは理解しているだろう。
「まずは飯だな」
シンは部屋の片隅に立てかけてある雑貨屋で購入したボロい大剣を携え部屋を出る。
食堂には朝早いメンバーが先に席について暇を持て余していた。
「へぇ、珍しいこともあるんですね。シンが早起きをするなんて、今日は雨でも降るんじゃないですか? ねぇエリーザ」
「どうだろうね~、でもなんかシン嬉しそうだよ」
アズデイルとエリーザが早起きしてきたシンを面白そうに眺めている。
「今日はこの後、銀の魔王とと手合わせをする予定になっているんだ」
そう視線はエリーザ達にではなく、席に着き翡翠色の双眸を持つ男に向けていた。そのシンの視線に気づいていてか小さく頷く。
シンは自身を高みへと導くために、アルベールは人間の煌きをより磨く為に。両者ともにこの手合わせに楽しみという物を見出していた。
クリスティアとシオンは不在なので、残ったメンバーで朝食を済ませる。2人の手合わせを見ておこうと他の魔王や4十字騎士団も早めに朝食を済ませ、一同は中庭に赴いた。
互いに距離を置き対峙し合うシンとアルベール。シンは手に大剣を握りその切っ先をアルベールに向けていた。
「銀の魔王よ手加減は不要だぜ。俺はこの力を早いところ制御出来るようになりたいんだ。そのためには俺自身が本気にならなきゃいけないだろ?」
同様にアルベールも銀の粒子で刺突剣を形成させ切っ先をシンに向けている。
「うむ、その通りだシン。だが勘違いしないで欲しいのはこれはあくまで手合わせだ。生命のやりとりではないということを忘れるなよ」
「ああ!」
ジャッジはアズデイルが担当し、彼の合図をもって開始させた。
「先手必勝いただくぜッ!」
シンは身を低くし切っ先をアルベールに向けたまままさに矢のように地を掛ける。
「能力だけではなく、剣の腕も見極めさせてもらうぞ」
アルベールは自身の周囲に無数に煌く銀粒子を発言させ、それは一箇所に収束し魔方陣を展開する。その魔法陣に目もくれずアルベールは刺突剣をもって特攻をかけるシンを待ち受ける。あくまでも自分から攻勢に出るのではなく、相手の出方を伺い最善の動きをもって相手を制する。剣に限らず術式での戦いもそういって後手に回る戦い方をするアルベールは静かに息を整える
今回も短いですね(汗)
次回もこの続きを書いていきますので、よろしくお願いします。
次回の投稿は5月の16日を予定していましたが、少し忙しく18日の水曜日までには投稿します。申し訳ありません




