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守るべき存在、失われる世界  作者: 上月 佑幸
クリスティア編
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ネクロの決意と、人魔共存の兆し

 アルベールは薄暗い螺旋階段をゆっくりと下っていた。

 ロウソクの心許無い明かりを頼りに一歩一歩と下りていき、ようやく地下の開けた空間に降り立ち、鋼鉄で出来た扉を開けばそこは両側にいくつも並ぶ鉄格子。その1つの牢屋の前に立てば、その中から何かが動く気配を感じた。

「ネクロよ、我とクリスティアで貴公を助ける。必ず救い出す」

「俺は……多くの人を殺してしまった。この身は裁かれるべきだ」

「勘違いするな。我は罪を償わせるために救うのだ。今一度善王として国を導き、大陸安寧に力を注ぐのだ」

「今一度? ははは、アルベール君。俺が王座に着くことなど兵や民が認めないだろう。そんな俺にどうやって国を統べ大陸を平和にしろと言うのかな?」

「民や兵の不満や怒りは重々承知している。そこはクリステオィアに任せておけば良い」

 ロウソクに照らされる翡翠色の瞳は美しく一切の濁りや迷いは見受けられない。その魔王である彼の姿にかつて自身が善王と呼ばれ慕われていた事を思い出す。

 民や国に活気を与え発展させようと日々を奮闘していた若かりし頃の自分。

 今一度やりなおす機会が本当に与えられるならと、ネクロは心の何処かで再び善王の面影が煌く。

 その輝きは次第に強くなり、暗がりの牢の置くで強い意思を隻眼に宿す。

「俺に罪を償わせる機会を……俺はもう一度民や兵と向き合いやり直したい。意思をぶつけられようとも、憎まれようとも俺は真摯に受け止め彼等に誠意みせたい」

「うむ、貴公の行った事は許されることではない。だが、その意思にきっと皆応えてくれよう」

 ネクロの意思を確認したアルベールはもう何も言うまいと背を見せ、地下牢から去ろうとした所で、ネクロに呼び止められ、肩マントを翻し向き直る。

「うむ?」

「ありがとう」

「ふむ、気にすることはない。もうしばらくその場で待ち、民に掛ける言葉でも考えておくと良い」

「あぁ、そうさせてもらうよ」

 ネクロの晴れたような言葉にアルベールは背を向け口元を綻ばせる。

 なんと人間は美しい、与えられた機会を無駄にさせないという意思を感じアルベールは嬉しく思い、鋼鉄の扉を背に閉める。

来たときと同じように螺旋階段を登り、ようやく日の差す地上に出る。

「ふむ、後は各国の会議までに準備を進めておくか」


 クリスティアは自分が使わせてもらっている客室に四十字騎士団を至急に集結させていた。

「どうしたクリスティア、珍しく真剣な顔してるけど何かあったか?」

 グレイは眠そうに欠伸を欠きステラに小突かれる。

「今は休暇ではなのですから、様をつけなさい」

「おっとそうだった、悪い悪い」

 人好きのする笑顔を作り、グレイは自身に喝を入れるように大きく伸びをする。

「それで、聖なる乙女よ俺達に用とはなんなんだ?」

 全員の視線を一身に浴び、言葉を選ぶように深呼吸をし心を落ち着かせ、言葉を紡ぐ。

 これからの中央教会のあり方や自分のやり方について。

「皆い聞いてもらいたい事があります。それは、今後の中央教会という国の進むべき道と私がこれからやろうとする事についてです」

 クリスティアはゆっくりと目の前に並ぶ心強い仲間に一人一人へと視線を巡らせていき、ステラ達も応えるように頷いていく。

「まず、私は近いうちに開かれる各国の会議にてネクロ皇帝の死刑の取り下げを訴えます」

「クリスティア様なら言うと思ったぜ! それで、当然反対の声があがると思うけどそれはどうすんだ?」

「その事については第3魔王アルベール殿と話しを進めています。全魔王を我が中央教会に雇入れます」

「なに!?」

 沈黙しクリスティアの声に耳を傾けていたジークリートが条件反射のように身を乗り出す。

「聖女様、確かに今回俺達は表立って魔王と手を組みましたが、神を信仰する国家が魔王という存在を雇い入れるなんて、他国から非難されるのは目に見えています!」

「はい、それはもう覚悟しています。聖王と呼ばれた父聖王ヘブリドであれば、機転を利かせた良い案を思いつくでしょう。ですが、その聖王も今は他界しています。そしてこの国を導くのは聖女である私の

役目です。私は少々強引な手を使ってでも救える生命を救います。それが私のやり方です」

 非難や罵倒は既に覚悟している。クリスティア自身には戦場で役に立てるような力はない。だからこそ自身の戦場を見出し、

勝利を勝ち得なければならない。

「聖女様がそう仰られるなら私は臣下として最後まで支えたいと思います」

 ステラは微笑を浮かべ、頭を垂れて膝を突く。

 その姿に残る四十字騎士団のメンバーも頷き合い、ステラに習い同じ姿勢を取り満場の一致を見せた。

「残るは後1人です」

 そう残る魔王は第5魔王リリアン・ストリオスのみとなる。前日に取り敢えずはシオン達を引き込むことはできたが、リリアンだけは上手くいかなかった。あの全く感情を読ませようとしない微笑みにクリスティアはどのような言葉をかけても反応を得ることは出来ず、挙句の果てはリリアンに飽きたと言われ部屋を出て行かれてしまった。

 なんとかして魔王全員を引き込まねばシオンとの約束も果たすことができない。

「中央教会聖女として四十字騎士団に任を与えます」

 その言葉に各自顔つきが一変する。

「聖なる乙女よ、なんでも言ってくれ」

 クリスティアは頷き、初めにステラに向き直る。

「初めにステラにはハミルト卿を中央教会に連れ帰ってもらいたいのです」

「お任せ下さい」

「次にグレイは至急中央教会へ戻り、民家の修復を最優先にと伝え、現場監督の指示に従って手伝ってください」

「まかせろ!」

「ジークリートとシンには貧困に困っている魔族を中央教会に連れて行き、食事と住民権を発行し国家復興の手伝いをしてもらってください」

「それは構わないが、魔族は良い顔をしないんじゃないか?」

 自分達を追い回し殺していった人間達の手伝いなんて死んでもしたくはないだろう。だが、人間と魔族が手に手を取り合うにはまずきっかけが必要だ。その好機となるのが今回の国家復興。

「そこは何としても彼等に頷いてもらわねば始まりませんので、そこは2人にお任せします」

「了解した」

「全く……聖なる乙女も無茶な命令を出してくれるものだな」

 人通りの命令は下したつもりだ。後は彼等が上手く動いてくれれば下準備は整い、各国の会議で少しはやりやすくなるとクリスティアは考えていた。

 自分の選択に自信を持たねばと頭を振り、四十字騎士団は新たなる国家の王の為にすぐさま馬を駆り迅速に働きを見せていった。

忙しくて今回は短めになってしまいました。

明後日からゴールデンウィークに入るので、書く時間が増えると思いますので、どうか温かい目で読んでください。

いつも読んでくださっている読者様には感謝しております。

本当にありがとうございます。1人でも読んでくださる方がいれば自分にとっては大変喜ばしい事であり、励みにもなっています。


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