神すら背く歪な純白世界
クリスティアは夢を見ていた。
それは白と白が入り混じった純白を通り越した気味の悪いほどの空間に、クリスティアは1人立ち尽くしていた。
周囲を見渡しても、この白い空間が何処まで広がっているのか何処からが壁なのか分からず、ただ首を傾け、取り敢えずは歩いてみようと
歩を進めてみる。
歩いても歩いても壁と呼べる物はなく、延々と続く白の無限空間に少々の恐怖を覚える。
「どこまで続いているんでしょうか?」
右も左も前も後ろも上も下も歪んだ純白一色で、脳が麻痺を起こしたのか立ちくらみのように意識が揺らぐ。
そもそも、これは本当に夢なのだろうか。
妙に現実的なこの感覚に肌には鳥肌が浮かび、不安と寂しさに手を胸元で組み縋るように祈りを捧げる。
「怖いよ……」
「ようやく……みつけた」
「誰ッ!?」
突如聞こえた声に体を強ばらせ周囲を見渡すが、声の主と思しき存在は見受けられない。
「世界は歪んでしまった。秩序の下に正さなければなりません」
「何処にいるの?」
声は全方向から聞こえる。
「罪には罰を。過ちには修正を」
「この声って……」
冷静になり初めて気づくこの声。
「私と同じ声?」
似ている声なら時々聞くことはあるだろう。だが、今この空間から聞こえてくる声は全く自分の声と一寸違わぬものだった。
だが、違うと頭を降り内心で否定する。
この声は無機質で無感動。一切の感情を持たぬ声。
自分はこのように冷たく喋ったりはしないと強く何度も否定する。
クリスティアは蹲り両の手で耳を塞ぎ、これ以上は聞きたくないという意思表示をするが、そんな彼女の拒みもお構いなしに言葉を発する。
「不用な世界には滅をもたらせ。世界に有害な生命に来世は不要」
「もう……やめて!」
クリスティアはそこで意識を失い倒れ込んだ。
「……」
カーテンから差し込む柔らかな日差しを肌に感じ、目を覚ませば白い天井が目に映るが、それは先程まで見ていた白ではなく、人工的に作られた白。
なにものにでも染まる不完全な白に安堵し、体に不快感を感じ布団から出ると衣服が汗でべっとりと肌に張り付いていた。
それほどの恐ろしい体験だったのだろう。
「嫌な夢だったな」
取り敢えずは不快なこの衣服と汗をなんとかしなければと、室内に取り付けられたシャワーで汗を洗い流し、衣服も一緒に洗濯して室内に干す。
窓を開ければ澄んだ風が室内を換気し心地よいその涼しさに幾ばくかは気分が晴れる。
「ネクロ皇帝とアルベール君のお友達を助けなきゃ」
昨日アルベールが話した強引なやり方。
国を統べ導く聖女として、自身の下した答えによって自国の立ち位置が変わってしまう。
もう、母と父の背中を見ていた自分ではないと自身に言い聞かせ、数回大きな深呼吸をし気合を入れる。
「よしっ! 強引なやり方でも、救える生命は救わなきゃ」
聖女としての衣装に身を包み部屋を出る。
まずは朝食を取って体に栄養を行き渡らせてから考えようと大広間に向かう。
大広間とは言っても客人用で他の騎士や魔術師達が使う大広間とは別になっていて、すでにその場に数人が顔を出していた。
「お……おはようございます」
クリスティアが挨拶をしても誰1人として挨拶を返そうとはしなかった。
その場に居合わせているのはクルト側に付いていた魔王のグランド・ヘル、シオン・トレヴァリオン、リリアン・ストリオスの3名。
表では監禁、裏では軟禁という扱いを受けている彼らだが、何度クリスティアが交流を図ろうと挨拶をしてみても無視を決め込まれていた。
気まずい雰囲気の中クリスティアは隅の方で身を小さくし、目立たないようにイスに座る。
「うぅ……早く、誰か来て」
この重苦しい雰囲気をクリスティア1人では荷が重すぎた。
視線を落としていると、自分の方へ大きな影が伸びてきたのでクリスティアは恐る恐ると視線を上げる。
そこには巨大な壁となるように立ちふさがる鎧がクリスティアを見下ろしていた。
「え……えっと、何かご用でしょうか?」
冷や汗を垂らし、心臓は激しく鼓動しても何とか笑顔を作り見上げる。
「お……はよ、う」
「え……?」
「お前……挨拶、した……だから、俺も挨拶する」
今までは無視していたのに、どうしてだろうかとも思ったが、それより挨拶を返してくれた方が嬉しくて作り笑いから本物の笑顔に変わる。
ならばとクリスティアは巨大な鎧騎士に向かい勇気を振り絞って話しかけてみた。
「私はクリスティア・ロート・アルケティアといいます。えっと……よろしくお願いします」
「第4……魔王、グランド・ヘル……アルベールの……女?」
「うぇっ!? べっ別に彼女というわけじゃないです! その友達です」
慌てて目を白黒させつつなんとか否定し、誤った認識を修正させる。
「友達……?」
「はい、お友達です・一緒に遊んだりご飯食べたり、笑ったりし合う人達の事を言うんですよ」
「……そうか」
「はい! 私はヘルさんともお友達になりたいって思っているんですよ」
「俺と……友達?」
「止めとけヘル、人間なんてロクなもんじゃねぇぞ」
割って入る声の主に視線を向けると、シオンは嫌な顔をし舌打ちをしてそっぽを向いてしまう。
クリスティアはそれを否定はしなかった。
人間が魔族にした仕打ちはクリスティアが聞いても耳を塞ぎたくなるようなものばかりだ。それを受けた魔族からしたら人間を恨んでも致し方のないものだった。
だからといって、このままでは互が歩み寄っていくる訳もなく、ヘルと少しお話が出来たという達成を勇気に変えシオンにも歩み寄ってみる。
「シオン君! おはよう」
「……」
壁に背を預けそっぽを向いているシオンの前に立ち、元気よく挨拶をしてみるが視線というか顔すらもクリスティアに向けることなく徹底的に無視を決め込んでいた。
だが、こんな簡単に引き下がってはいけないと自身の心を支え粘りというものを見せる。
「シオン君 おはようございます!」
「……」
「シーオン君、おはよ」
「……」
「シーちゃん、おは……」
「チッ……うぜぇんだよ、言い方変えたら挨拶してくれるとでも思ってんのかよ?」
不快だという色を隠そうともせずに、クリスティアを睨みつける。
「ふふ、ようやく目を合わせてお話してくれましたね」
「はァ? 何言ってんだテメェ」
不快と不審という色をやどした瞳で睨みつけるが、取り敢えず今は怯むより攻める時だと。目を合わせて言葉を交わせたんだと無理やりにでもプラス方面に考え、自分の背中を押し内心で鼓舞させる。
「私の勝ちですね」
「だからよォ、テメェ何言って……」
「だから私の勝ちです。シオン君は先程まで無視していましたが、今私と面と向かって会話をしています」
「無視しきれなかったからテメェの勝ちってことかよ」
「はい!」
「アホくせぇし、意味分かんねェ」
シオンは背に預けていた背を離し、クリスティアから距離を置こうとするがそれをグランドが阻む。
「ヘル……!? テメェ邪魔だ退け」
「どか……ない、クリスティア悪い、人間じゃ……ない」
意外にもヘルはクリスティアを気に入り、何とかシオンとの会話の場を繋ぎ留めてくれた。
クリスティアはヘルを見上げれば、頷き返してくれたので、せっかく作ってもらったチャンスを無下にするわけにはいかないと、踏ん張りを見せる。
「シオン君、お願いだから少しお話ししてくれませんか?」
その声は一切の冗談を抜いた真面目な声で語りかけ、彼女の様子が変わったことにシオンはクリスティアを一瞥し、溜息を吐き出す。
「テメェら人間はよォ、俺の妹や家族、同胞をやれ正義だなんだと抜かして殺戮の限りを尽くしたんだ。そんな人間相手に話すことなんかねぇ」
「……」
シオンの鋭い視線から目を離さずに、ゆっくりと膝を折り頭を深く地面位付かない程度まで下げ土下座をする。
「貴方たち魔族にした数々の仕打ち、誤って許されない事は承知ですが、この場で謝らせてください」
真摯な態度を正面からぶつけられ、シオンはたじろぐ。
「テメェが謝罪しても俺の妹や家族は帰ってはこねぇんだよ!」
「はい……ですが、これからの時代は争いの無い世の中を作り繁栄させたいと考えています。ですから私の生命を引換にでも構いません」
「テメェが死んで、誰がテメェの意思を引き継いで平和な世の中作んだよ」
「今を生きる人々です」
「……」
人間を許せるほどシオンの憎しみは浅くはない。
だが、目の前で土下座をする少女は真摯にその罪を認め、膝を突き謝罪をしている。
シオンはこんな人間は見たことがなかった。己の欲に駆られて好き放題する人間とは違うのではと不快憎しみのうずの奥底で小さくシオンに訴えかけていた。
それにシオンは……。
「人間は許せねェ、だがテメェのその態度は本物だって分かった。だったら、その魔族と人間が共存する平和な世界を作ってみろよ」
「もちろんです。誰もが争わすに協力しあえる世の中を作り上げてみせます」
「じゃあ、取り敢えずはテメェの言葉を信じてやる。もし、その理想が叶わなかったときは覚悟しとけ」
なんとかシオンも押さえ込んだクリスティアは残るはニコニコと作り笑いを浮かべる美しい女性へと視線を向けた。
なんとか予定通り投稿できました。
次回は明日明後日が少々忙しいので、4月28日に投稿しますので、よろしくお願いします。




