表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
守るべき存在、失われる世界  作者: 上月 佑幸
銀聖の魔王編
37/90

第4魔王の苦悩、凶刃に乗せる狂楽

 煉獄の鎧騎士の前には黒衣を纏い目付きの悪い2人の魔王が対峙している。

 シオンとシラーの表情には余裕の色は無い。

 残りわずかの魔力では術式を1回か二回が限度だろう。それに比較してヘルからは凄まじい魔力が放出されているのを肌で感じ、

内心で舌打ちをし己の身体を叱咤し奮い立たせる。

「おい、シラー」

「なんだ?」

「俺が囮になってやるから、テメェは残りの魔力全てをアレにぶつけろ」

 シオンの術式は異空間の展開。

 もし、何かあったとしても逃げる事はできる。そう考えに至ったシオンの提案をシラーは頷く。

「わかった。だけど条件がある。死ぬなよシオン」

「おいシラー、誰に向かって死ぬななんて言ってやがる。俺はこんなところで死ぬ気はねぇから安心しやがれ」

 シオンは展開した異空間に潜込み、シラーもヘルとの距離を詰めつつ背後に回り込もうと地を掛ける。

 ヘルはそこから一歩も動くことなく、前方を見据えている。

「ハッ……俺なんて眼中にないってことかよ!」

 背後に回り込み、タイミングを見計らったシオンがヘルの首元に異空間を発現させ、即座に閉じようと迫る。

 ヘルは身を屈めることにより、首を切り落とす事から逃れるが、さらに頭上より異空間が開かれシオンが落下し、熱せられた鎧を力の限り蹴りつける。

 多少身を前のめりにする程度で、目立ったダメージを与えられない。

「それでいいんだよッ!」

 シオンはそのまま巨大な鎧にしがみつき、自身の肉を焼かれる匂いに眉をひそめ、苦悶の声を上げる。

「今だシラーッ! 俺ごとコイツを射貫けェッ!」

 身を焼かれながらも歯を食いしばり、ヘルの動きを封じる。

「ハッ、シオンお前の大胆で馬鹿な策に感謝するぜッ」

 シラーの持てる最後の魔力を振り絞り、目の前に魔方陣を展開させる。

「行けェェェェェェ!」

 拳を突き出すと同時に展開した魔方陣から千もの雷が絡み合い膨大な雷撃が轟音と閃光と共に放たれる。

 その白い雷は瞬時にヘルとシオンを飲み込み爆ぜ、周囲に雷が走り、土煙を舞わせる。

「温い……」

 土煙から一歩、一歩と鉄が地面を踏みしめる音を立てながら姿を現す。

「シオンッ!」

 ぐったりと意識を失い、身体から煙が上がるシオンをヘルが引きずっていた。

「弱……者は、ただ……死ぬ」

 まるでゴミを投げ捨てるかのようにシオンを放り投げる。

 地面を滑りシラーの足元で停止し、その皮膚は焼け爛れていて、その痛ましさにシラーは奥歯を強く噛みしめる。

 自身の身体を犠牲にしてまで、一撃のチャンスを作ってくれたシオンに対して申し訳なさがシラーの胸中で疼き廻る。

「悪いシオン、俺ももう駄目だ。今ので最後の魔力なんだよ」

 不意に襲う脱力感と疲労感に膝から崩れ落ち、シオンに重なるように倒れ伏す。

「止め……だ。お前達……よく戦った。せめて……俺が弔う」

 先程とは比べようもない熱を生み出し、黒衣の魔王達を燃やそうと手を差し伸べる。

 だが、その腕は彼等に触れない。ヘル自身に沸き起こる何か得体の知れない感情。それが、今の彼の手を止めていた。

「なん……だ?」

 自身には不要と忘れていた過去の記憶が脳裏をよぎり、その鎧に宿った魂が強い反発を起こし体全体が軋むような痛みを訴える。

「過去……いらない、不要……俺は今を……生きる、だけだ」

 自身に何度も何度も言い聞かせるように呟き、痛みを押さえ込み再びシオンとシラーへ手を伸ばすが、その灼熱の腕を銀色に輝き粒子を撒きながら駆ける狼により阻まれる。

「ヘルよ、もうそれくらいにしておいたらどうだ?」

 銀色の長髪に翡翠色の瞳を持つ男が佇み、もう一匹の銀狼を造り出し、横たわる2人の魔王を咥え少し離れた場所まで運ばせる。

「アル……ベール、俺は……わからない」

「何が分からないのだ?」

「俺自身……が、そして……何のために、生きて……いるのかが、俺には……わからない」

「自分自身が何者か分からぬというのは怖いか?」

「あ……あ」

 静かなる肯定。

 いつの間にか、きっとヘル自身も無意識だったのだろう。溶解熱の術式を解き、アルベールと言葉を交わしていた。

「アル……ベール、俺は……誰だ?」

「残念だが、我にも分からぬ。貴公をクルトと見つけた時にはその身は既に鎧となった状態だった。だが、これだけは言える。第4魔王グランド・ヘル貴公は卑怯な手を忌み、そして無闇に仲間の命を奪う男ではない」

「俺は……」

「言葉にせずとも良いのだヘル。我にも貴公と同じように苦悩に苛まれながら生きている。皆同じだ。シオン、シラー、エリーザ、クルト。そして人間もそうだ。誰も何かしらの苦悩を宿して精一杯生きている。であれば、その

苦悩を分かち合いながら生きていくのもいいのではないか?」

「分かち……合う?」

「そうだ。仲間や友だから分かち合うことができ共感し理解することができるのだ。もしかしたら、分かち合っていくうちに自身の苦悩が何かしらのきっかけで晴レるやもしれぬしな」

「友……仲間」

 ヘルの感情は揺らいでいた。自暴自棄になって力を求め破壊を振りまく魔王であるべきか、友のため仲間のためにその力を使いアルベールの言う弱き者達を守る楯となり剣となるか。

 あの格下を見下し嫌悪していたシオンでさえ、シラーの為に体を張って立ち向かってきた。

 仲間のため友のため。これがアルベールの言う力の使い方なのだろうかと、ヘルは低く唸る。

「ふふふ、ヘルよ。無理に今直ぐに答えを出さなくてもいいのだ。ゆっくり周囲と触れ合いながら答えを模索していけばいい」

 アルベールに向けられた可笑しそうな笑みにヘルの戦意は消失する。

「俺は……まだ、お前達……の仲間に、なれる……のか?」

「ヘル。あまり我を笑わせるな。仲間になれるも我らは既に友であり仲間であり家族ではないか」

 仲間という言葉にヘルはもう逃れようのないほどに魅了されていた。

「俺の……負けだ」

「潔いな」

「負けは……素直に、認めなければ……より強く……なれない。それは、困る……仲間を、守る力が……欲しいから」

「貴公はもっと強くなる」


 その頃、クルトとリリアンは激しくぶつかり合い、術式と因果創創神を手繰り命の駆け引きを続けていた。

 リリアンに説得なんてものは通じない。

 彼女の行動理念は楽しそう。ただ、それだけが彼女を突き動かす。そして、今この状況をリリアンは楽しんでいた。

 自分が死ぬかもしれない。もしかすると上位のクルトを殺せるかもしれない。

 そんな思いが彼女の胸を高ぶらせていた。

「クルトちゃ~ん。ふふふ、この状況楽しいとは思わない?」

「俺は別に楽しくはないな。だが、お前はすごく楽しそうだね」

「すご~く楽しいわよ。だって、こんな機会滅多に無いんですもの。クルトとの殺し合いなんて……ね」

 リリアンのその鎌を手繰る技量は人間の域を遥かに超え、常人には太刀筋が全く見えない。

 これが今戦っているのがクルトではなく、シオン以下の者なればこの時点で数回は殺されていてもおかしくはない。

「リリアンお前は一度も術式を俺たちに見せたことがないな?」

「そうね、だって私術式なんて使えないもの。まぁ、人間が使うようなモノなら多少は使えるけどね」

 あくまで彼女の強みは手に持っている因果創神器とソレを自在に扱う技量だった。

 それだけで、彼女は魔王序列第5位という席を冠しているのだ。

「ねぇ、クルト? 未来創造の力を使わないの?」

「生憎とお前達に使ってやるほど、俺も悪魔ではないからな。この常世の力で十分だ」

「それって私を馬鹿にしてるのかなぁ?」

「別に馬鹿になどしてないよ。そもそも未来を変えるなんてのは世界の摂理に反する事だ。それを何の代償もなく使えるほど優れたものではないんだよ」

「へぇ~じゃあ何かしらの代償があるのね?」

「あぁ、あるよ。教えないけどな」

「ふふふ、ケチね」

 余裕の表情と態度を崩さずに話し合ってはいるが、その動きは素早い。

 大鎌を振るった後に遅れて聞こえる風切り音。クルトの開かれた黄金色の瞳は大鎌を一切見ることなく、ただリリアンを注視していた。

「どうやら、ヘルが降参したみたいだがお前はしないのか?」

 それにどうして? といったように小首を傾げる。

「お姉さんつまらない冗談は嫌いだな~。せっかく楽しくなってきてるのに水を差すような事は言い合いっこはダメよ」

 クルトの周囲を回転している珠を掃射する。

 放たれたクルトの因果創神器の1つフュング オブリリア(五行陰陽の珠)はその1つ1つが紅、蒼、翠、黒、白と発光していてそれぞれに役割を担っている。

 そもそも、五行とは東洋思想の1つだが、これらの五行とは常世に生み出された摂理であるので一般的な五行とは異なるものである。

 放たれた黒の珠をリリアは身を半歩引きかわそうとするが、珠の軌道修正によって脇腹を擦る。

「ッ……!」

「黒は深淵より引きずるもの、その身は強制的な重力の枷により動きを封じるものなんだが、どうだリリアン。俺の因果創神器の味は」

 明らかに先程の俊敏な動きを失い、まるでその大鎌すら鉛のように重く、思うように振るうことができない。

「こんのッ!」

 遠心力に任せて振るうが、力が不安定で機動はブレクルトにその刃を殴り叩きつけられる。

「ぐぅッ」

 大鎌の軌道が地面に向かい加わったおかげで、急な強制的力によって手首を痛め、ついには大鎌を手放してしまう。

「勝負ありか?」

「……」

 ついには膝を折り地面にひれ伏すような状態となってしまい、リリアンにとっては屈辱的な体勢となる。

「言い忘れてたが、この黒い重力球は時間が経つにつれて加重を増して行き、最後にはまぁ、わかるよな?」

「圧縮されて最期は絨毯みたいになるって事かしらぁ?」

「正解だよ。それで、どうするんだ降参するか?」

「……」

 沈黙し顔を背ける。

 だが、リリアンはこの時薄く笑っていた。

おまたせしました。

以前宣言した投稿日よりやはり遅れてしまいました。申し訳ございませんでした。

次は4月の20日~21日には投稿します。

次は絶対に守りますので、また読んでください。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ