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守るべき存在、失われる世界  作者: 上月 佑幸
銀聖の魔王編
35/90

ヴァナトリア親子の過去、仲間の絆

ヴァナトリアの皇帝はぞつ除人が変わったかのように暴政を敷き、民や家臣等から避難を浴びたのだが、その声も直ぐに沈静化する。

 抗議の声を上げた者を皇帝自ら処断して廻り、抵抗勢力は完膚無きまでに殺戮の限りを尽くした。

 それ以降は皇帝の意に背くものは存在しなくなり、侵攻に次ぐ侵攻により小国であったヴァナトリアはみるみるうちに大国へと成長していき、その活躍にはネクロ皇帝の娘であるナコトの功績はとても大きかった。

 幼い頃より感情に乏しく、地震から誰かと関わろうとしない性格で、善良な王であった頃のネクロは相当に頭を抱えていた。

 だが、その反面では術式の才能は恐ろしいほど高く、魔術国家ロベリアから危険視されるほどの人物へと育っていった。

 ロベリアでさえ新たな術式を開発するのには相当な時間を有するのだが、ナコトの手にかかれば早くて数日、それもその術式の完成度は非常に高かった。

 そんな幼い少女に戦場での指揮と前線にて敵の殲滅を任されてからというもの、それは一方的な殺戮劇を繰り広げていった。

 そんな戦場で功績を上げ続ける少女も本当はこのような行いなどしたくはなかった。

 ただ、敬愛する父に愛されたい、もっと褒めてもらいたいという一心で自身の乏しい感情に芽吹く優しさを押し込めて術式を展開していった。 

「ナコトよ、わが娘。最近のお前の活躍には眼を見張るものがある。俺自ら褒美をくれてやる。さぁお前が望むものはなんだ?」

 初めての父からのご褒美にナコトは表情は変えずに心の中では何にしようかとグルグル考えてようやく出した答え。

「お父様に愛してもらいたいです」

 自分が一番強く欲する願い。

 片膝を突き頭を垂れて、父の返答を待つ。

「俺の愛……だと?」

 周囲に控える家臣や兵から固唾を飲み、空気が緊張するのを身に感じていた。

「はい」

「くくく……愛か、そうかお前は俺の愛情に飢えているのか、いいだろう。なら玉座への階段を登り我が下まで来るがいい」

 天井より降る父の声にナコトは静かに立ち上がり、一歩一歩階段を登っていく。

 その一歩は自身が心に秘めた願いを成就させるための一歩。

 その一歩はこれまでの苦労という道のりを歩んできた一歩。

 その一歩はこれからも先、愛する父の為に覇道を歩む一歩。

 ようやく、父の待つ玉座まで辿りついた。

「お父様」

「ふふふ、よく辿りついた我が娘よ。さぁ、今一度俺に膝を突き願うがいい」

 父の言葉に、自身の飢えた愛情を得るために膝は無意識のうちに地面へ。

「お父様、私を愛してください」

「あぁ、もちろんだ」

 数秒後には優しく温かい抱擁を受けるのだと高鳴る気持ちがナコトの頬をほんのりと赤く染める。

 だが、訪れたのは抱擁ではなく、垂れた頭に伝わる衝撃と痛み、そして浮遊感。

 一瞬にしてナコトの身体は階段を転げ落ちる。

 転げ落ちつ直前に見た光景は父が自身を足蹴にし、微笑んでいる姿。

 私の努力が足りなかったんだ。だから、まだ愛してはくれないんだ。

 そう思わなければ心が砕けてしまいそうになってしまう。

 身体全体を打ち付け転がり落ちたせいで、捻挫や打撲。頭部からの出血という酷い有様であっても、周囲の者達は誰1人として王女を助けようとはしない。

 皆関わり合いたくはないのだ。ここで動き目立てば皇帝ネクロに何をされるか分かったものではない。だから、皆は視線を合わせることなく俯き我関せずを決め込んでいた。

「どうだ俺の愛情は? もっと愛して欲しかったら俺を満足させろ」

「……ハイ」

 地面に滴る自分の血を眺めながらもっと努力しようと決意する。

 それからというものナコトは率先し洗浄に趣き、敵をその天才と称される魔術師としての力を思う存分に振るっていた。

 昔みたいに善王と呼ばれ民や家臣に慕われていた時みたいに愛してくれると信じて。


 負傷者の手当もだいぶ済み、フィール連合国盟主アムナリア・フィールとの面会が行われるというので、

 ナコトは一般兵に連れられ、本陣に趣いた。

 幕を潜れば正面に朱色の鎧に身を包んだ男がイスに座り、その対面にも同じようにイスが置かれていた。

「さぁ、座ってくれ」

「……」

 

 クルトはアルベールに借りたマントをローブのように纏い意識が混濁しているネクロの治癒を行っていた。

「全く、コイツの力はいったい何なんだろうね? 正直あの禍々しさはこの世のものではないのは確かだし、そうだな。最初から殺す気でいた場合だとシオンくらいまでなら殺せる術式だね」

「俺はこんな人間に負けはしねぇよ」

「俺には負けたけどな」

「あぁ? シラー、テメェもう一回戦ってやろうか?」

 言い合う2人だがシオンは敗北によって何かを見出したかのように少しではあるが物腰が柔らかくなっていた。

 普段のシオンであれば戦ってやろうなんて言葉はまず使わない。

 その微妙な変化にアルベールは静かに笑う。

「おい、アルベール。テメェもなに笑ってやがる」

「いや、シオン貴公もだいぶ変わったなと思ってな」

「うっせーよ。俺はまだ人間を許すつもりはねぇ」

 そういってシオンはシン達人間を睨み据えるが、シラーがそれを阻み、舌打ちをしてはそっぽを向いてしまった。

「この男はもう大丈夫だろう。先程までの禍々しさはもう感じない」

 治癒を終えたクルトが立ち上がり、皆に報告をする。

 そして、タイミングを見計らったかのように重厚な扉は音を立てて大きく開かれる。その来訪者はリリアンとヘルの両名だったが、彼等の手に持つモノを見て一同は言葉を失う。

「うふふ、そんな熱い視線を向けられちゃうとお姉さん困っちゃうなぁ~」

 リリアンの手に握られていたのは右手には栗色の長髪をした頭部。反対の手には首から上の無い身体。

「……」

 もう一方の寡黙な鎧騎士が引きずっていたのは青年男子の上下の身体。

 リリアンとヘルは勇敢にも立ち向かい戦った同胞の亡骸をアルベール達目掛け放り捨てる。

「リリアアァァァァァァァァンッ! ヘルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!」

 狂ったように大声を上げ、両の腕にう雷を纏わせたシラーが2人に向かい特攻を仕掛ける。

「チッ……馬鹿が、後先考えずに突っ込むんじゃねぇよ!」

 シオンはシラーの後をおい駆けながら詠唱を唱え異空間の歪に身を滑らせる。

「あらら、シラーちゃんもこの2人と仲が良かったわよね。1人残すのは可哀想だからちゃんとエリーザちゃん達のところに送り届けてあげるわ~」

 女神の大鎌を鳴動させ、身を半歩引き鋭利な刃が背に隠れる構えを取る。

「……」

 ヘルも自身の腕に溶解熱を集中させる。

「ああああああああああああああ!!」

 雷を纏った両の腕を突き出し、纏っていた雷を放つ。

「無駄なのよね~」

 放たれた雷はヘルとリリアンを穿つ事無く、鳴動する大鎌に吸い込めれるように軌道を変え吸収される。

「シラーちゃんも学習しないわね。以前腕を切り落とした時とまったく同じ展開じゃない?」

「溶け……死ね」

 高熱の腕と全てを切り裂く大鎌の刃は迫るシラーを捉えて伸びる。

「させねぇ!」

 陽炎のように揺らぐ高熱腕はシラーに触れる直前に、開かれた異空間を貫く。

「……む」

 そして風切り音を立てることもない静かなる刃はシラーとリリアンの間に割って入り、黒くノイズの走る魔方陣によって阻まれる。

「あら?」

「リリアン。俺達は負けたんだ。直ちにその武器をしまえ、これは命令だ」

 本来は異空間ごと切り裂く大鎌だが、クルトの魔方陣によりこれ以上切り進める事が出来ず、一度その場から距離を取る。

「あれれ~シオン。貴方はどうしてシラーを助けるのかなぁ?」

「別に助けたわけじゃねぇよ。ただ、コイツを倒すのは俺だ。他の奴に渡してやるかよ」

「シオン……クルト……」

 ようやく我に返ったシラーは目の前に立つ仲間の背を見つめる。

「もう一度言うぞシラー。テメェは馬鹿か? テメェがコイツ等に勝てるはずねぇだろうがッ!!」

「そうだぞシラー。あまり無茶はしてくれるなよ」

 クルトは懐から小さな2つの赤い玉をシラーに手渡す。

「これはなんだ?」

「因果創神器の1つ生命回帰(ルーベ ステラード)。死者の魂を呼び戻し怪我や損傷部を治癒する代物だ。とはいっても死後2時間以上のものと老衰での死には無効だけどな。早くやれよ。

コイツ等は俺らが足止めしておく」

 クルトとシオンに礼を述べ、生命回帰の1つをアルベールに投げ渡す。

「アルベール、アズデイルを頼む」

「うむ、任せろ」

 シラーとアルベールは急ぎ取り掛かる。

すいません以前予定していた投稿日を過ぎてしまいました。

次回はアルベール視点でいきますのでよろしくお願いします。

次は4月の13~14日に投稿しますのでよろしくおねがいします

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