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守るべき存在、失われる世界  作者: 上月 佑幸
銀聖の魔王編
26/90

雷と回廊、勝利の女神が微笑むは……

 大広間にシオンの愉快そうな笑い声が響き渡る。


 姿の見えない状況で、絶好の好機とも呼べる瞬間を逃したシラーに勝機は薄れ、ただ何処からとも攻撃してくるか分からない相手に警戒をするのが精一杯であった。


「まだだ……まだ勝機は完全には消えてはいねぇはずだ」


 そう、勝率は下がったがまだ完全に消えたわけではない。


 次いつ訪れるとも知れぬ好機を逃さず待つのみ。


「クク、テメェに勝機はもう無ぇよ、シラー。諦めてその首を落とされるんだな」


 魔力の渦はステンドグラスが割れたお陰で、外気との繋がりを得た為に幾ばくかは薄れ、先程よりかはシオンの魔力を追うことが容易となった事が現状せめてもの救いだった。


 時間だけが刻一刻と過ぎ焦らされているようで、より一層の焦りが生まれる。


「シオン、お前は臆病だな。姿を隠してないと俺に勝てないんだろ。そんなんだから所詮は六位止まりで、リリアンとの相性の悪さを克服出来ねぇんじゃねーのか?」

「…………」


 安易な挑発だと分かっていたが、シオンのプライドを傷つけるようなキーワードを幾つか折り込む。


 シオンの沈黙からは身に刺すような殺意を感じとる。


 シラーは内心で笑みを溢す。だが、問題はここからだった。


「俺の雷に射抜かれるのがそんなに怖いかよッ! どうしたよ、宣言通り俺の首を地面に落としてアイツらへの手土産にするんじゃねぇのか?」


 更なる挑発を加える。


 格下に馬鹿にされるのを最も嫌うシオンが今どのような表情を浮かべてるか手に取るように分かり、込み上げてくる笑いを抑えるのが一苦労だった。


「へぇ~、そんなに死にてぇのかよシラー。そんなら望み通りその首を切断してやるよォ!!」


 シラーは自身の首に魔力の流れを読み、一歩下がる。


 ギリギリの所で首を落とさずに済み、先程シラーの首があった位置に異空間が生まれ収束する。


「ミスってんじゃねーよ、シオン!」

「……ほざけっ!」


 上手い具合に長髪に乗ったシオンは次々と異空間を生み出し、シラーの首を落とそうと迫るが、乱れた魔力の流れであればシラーでも容易に察知することができ、寸前で躱していく。


「なら……これでどうだ?」


 異空間発生に伴う魔力を首にではなく背後に感じる。


 咄嗟に振り返ろうとするが、その直前で背後からシラーの首を力強く鷲掴む。


「切断出来ねぇなら、へし折ってから切り落してやるよ」


 背後から掴む手は力の限り握り絞め、首を圧迫する。


「ハッ……ようや……く、引っかかりやが……ったな」


 首を締めるシオンの腕に手を乗ると、電流を流し込む。


「グゥッ!?」


 首から手を離そうとするが、電撃により筋肉が硬直し全身を迸る電撃から逃れる事が出来ない。


 手が離せないのであれば、話させるしかないとシオンは異空間をシラーの腕に展開させ収束させると、危険を察知したシラーはとっさに手を放しシオンと距離を取る。


 電撃により痺れる身体を異空間の穴に潜り込ませる。


「姿を見せろシオン! この、臆病者がッ! 格下相手にかくれんぼして、闇討ちしかできないお前のほうが格下だろうがッ!!」

「うるせぇぇぇぇぇぇ!!」


 シラーの上空で異空間が開き、手に持った鋭利な刃物を振り下ろしてくる。


「シオン、お前は学習しねーな、簡単な挑発にのってんじゃねーよッ!」


 振り下ろされるナイフで己の手を貫かせ、もう片方の手で異空間から伸びるシオンの腕を掴み、異空間から力任せに引きずり出し、そのまま背から地面に叩きつける。


「カハッ!?」


 仰向けに倒れるシオンに馬乗りし、拳を振り下ろし顔を打つ。


 何度も、何度も、力の限り拳を叩きつけ脱力したシオンを見下ろし、一息つく。


「馬鹿がッ! 手を止めんなら息の根を止めてからにしやがれッ!!」


 今度は逆にシオンがシラーの腕を掴み側方へ投げ飛ばす。


「チィッ……気絶したフリかよ」

「いいぜ、望み通り正々堂々戦ってやるよ。だがな、簡単に死ねるとは思うんじゃねぇぞ!!」


 咆哮し両の手に拳を作り、シラーめがけ駆ける。それに迎え撃つシラーも拳を固く握り、打ち込むタイミングを見計らう。


 一歩、シラーの間合いに足を踏み入れた瞬間、全体重を乗せた一撃をシオンに放つ。


 シオンも僅かに遅れて拳を突き出すが、奇襲を仕掛ける事に慣れているシオンと、幼少より拳での喧嘩に慣れているシラーでは潜り抜けた場数が違う。


 シラーの拳はシオンの頬を捉え、そのまま打ち抜く。


「俺の勝ちだァァァァァァァァァ!!」


 打ち抜かれた瞬間にシオンの意識は暗転した。


 身体は宙を二、三度回転し地面に落下する。


 肩で息をするシラーは今一度自身の拳を見やり、シオンとの戦いに勝った手応えを感じ、その場に座り込む。


「俺は約束を守ったぜエリーザ。後はお前等で何とか……しろよ」


 極度の緊張状態から解放され、疲労も相まって意識は静かに途絶える。




「クソがッ、俺が格下に負けるとはな……」


 いち早く意識を取り戻したシオンは上体を起こし、近くで寝息を立てるシラーに目を向ける。


 眠りについている格下を殺すことはシオンにとって容易な事だが、ここで無防備な相手を殺しても真の勝利を得ることはなく、それでころか寝込みを襲い勝利したという汚点が一生付きまとうことになるので、シオンは口に感じる血を吐き出し、シラーと同じように仰向けになり、割れたステンドグラスから直に差し込む日差しに目を細める。


「はっ……ははは、この俺がシラーに負けるなんてな……もう笑うしかねぇわな」


 自身の内に巣食っていた黒い塊は何処かへ行ったかのように清々しい気分で、表情も晴れていた。


「全く、あんな馬鹿げた挑発に乗ったのが敗因か」


 再度シラーに目を向け、満足そうに眠る姿に失笑する。


「敵を前に呑気に寝てんじゃねぇよ、クソが」


 悪態をつくがいつもの刺々しさを感じないのを自分自身でも感じ、不思議な気分にさせれれていた。


「ハッ、誰が呑気に寝てるって? お前を前におちおち寝てられねーよ」


 疲労の色を宿した声音でシラーはシオンに語りかける。


「何だよ、起きてやがったのか。バカみたいに寝てたら楽に逝かせてやろうと思ったんだがなァ」


 シオンの言葉からは殺意は感じず、自身の負けを認め、シラーと対等に会話をする。


 いつぶりだろうか。険悪な状況ではなく、かつて仲間として認め合い語らった時を思い出す。


 何故、いつから仲が悪くなってしまったのだろうか? とシラーは光射す大空をぼんやりと眺めながら考える。


「シオン、ちゃんと約束覚えてんだろうな?」

「約束……何のことだ?」

「おいッ! 俺に勝ったら何でも言うこと聞くって約束だよ」


 思わず声を荒げるが、シオンからは意外な反応が返ってきた。


「クク、冗談だ。ちゃんと覚えてっから安心しろよシラー。んで、俺に何を望むんだ?」

「チッ……望んでんのは俺じゃねぇよ、エリーザだ」


 シオンにはだいたい予想がついていた。


 エリーザが望む事。本来こうあって欲しいという切なる願い。


「仲間……だったか?」

「そうだ。ロンベルトはもういないけどよ、昔みたいに仲良くやってた時に戻りたいってな」

「そうかよ……」


 シオンは瞳を伏せる。


 脳裏には過去、自分がまだ魔王になったばかりの頃を思い返していた。


 皆がこれから先の時代まで魔族を守っていこうと誓い合ったあの頃を。


「俺は負けたけどよ、この先にいるのはクルトやリリアンだ。そう簡単には倒されちゃくれねぇだろう。さっさと行ってやったほうがいいんじゃねぇか?」


 シオンからシラーへ仲間を気遣う言葉に、口元が綻ぶ。


「そうだな……お前も一緒に行くぞシオン」 


 シラーあ立ち上がりシオンへ手を差し伸べる。


「チッ、仕方ねぇな」


 黒衣を纏う二人の魔王は扉を抜け、長い回廊を歩き出す。

すいません。

今回はすごく短いです(泣)

 次回は3月19日に投稿します。

今まで読んでくださった読者様には感謝しております。

これからもよろしくお願いします。

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