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守るべき存在、失われる世界  作者: 上月 佑幸
銀聖の魔王編
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魔術国家の魔術師との邂逅

黒き邪竜が大空を泳ぐように飛翔し周囲を見渡す。視界に映るは山や森、小さな村といったものばかりで十分な医療が受けられそうな場所を見つけることが出来なかった。


 シラーの切断された腕の断面はアズデイルの力により凍らせ腐敗を防いではいるが、それも一時的な処置でしかない。


このまま放置すれば、腕は元通りに回復する可能性が限りなく低くなる、それどころか出血量から生死に関わってくる。


 アズデイルの腹部からは肉の焼ける焦げ臭さが鼻を刺激する。溶解熱を纏った剛拳を腹部に貰ったのだ。


症状は火傷なんて生易しいものではないだろう。皮膚は炭化し、内蔵や骨にはかなりの衝撃を受けているはずで、重症の二人を手の平で優しく包みこんでいる。


「高等医療が受けられそうなのは、中央教会か魔術国家ロベリア王国くらいか~。両方とも好きじゃないんだけどな」


 一方は神を敬愛する宗教国家。もう片方は魔族刈りをし自身の知識を満たす狂人の集い。


魔王という立場であるエリーザからすれば、出来ればどちらも行きづらい場所であった。それでも、二人を助けるには選ばねばならない。


「正直、中央教会もロベリアも治療して切れなさそうなんだけど……よし、ロベリアに行こう」


 目的地を即座に定め、黒き邪竜は魔術国家ロベリア王国首都ヴェレルダイン付近まで飛翔する。だが、このままこの姿で飛んでいけば間違いなく迎撃されるのは容易に想像が出来る。であれば、首都付近までは高度を高くし、だいたいの場所で地に降り立ち馬車などを捕まえて行くしかない。


「今は考えちゃダメ。二人を助けることに集中しなきゃ」


 シオン達に殺されそうになった恐怖が脳裏に呼び起こされる。


 一度強く瞼を閉じ、首を大きく振る。


「よし!」


 恐怖心諸共打ち払い、自信に喝を入れるように大きく咆哮し、なるべく暑い雲の中を通る。風が少々強いが構わず飛び抜ける。


 ようやく雲を抜け、遠目ではあるが目的のロベリア国首都ヴェレルダインが見えてくる。


「そろそろ、降りようかな」


 体を垂直に急降下させ、人通りの少なそうな森に着地する。


「困った……」


 既に人の姿に戻り意識のない仲間二人を地面に寝かせ、エリーザは頭を抱えていた。人の目を避けるため森に着地したはいいのだが、馬車はもちろん人の姿が全くない。つまり、この二人を運ぶ手段が現在無いということになる。


「かといって、竜の姿に戻って運ぶのも……無理だし。あ~もう!! どうすればいいの!?」


 地団駄を踏むが、そんな事をしても何にもならないのは知っていた。


「私一人で男二人をどうやって運べってのよ~」


 半泣きになりつつも刻一刻と時間が過ぎる。どうしようもない悔しさに苛立ちは増していく。


 そうやって無駄な時間を過ごしているうちに、彼等の命は徐々に小さくなっていく。


「はぁ……しょうがないか」


 エリーザは今一度、黒い竜へとその身を転身させる。


 大きく翼を広げ一人大空へ羽ばたく。


 人目がどうのと言っている余裕は無く、早くも探し物を見つけるとそれ目掛け突き進む。エリーザの視界に捉えられているのは貴族御用達の馬車で、周囲には数人の騎士が馬車を囲むように護衛をしている。


 騎士の一人がエリーザの姿に気づくと、尻餅をつきそれは他の騎士にも伝播する。


 人間相手であれば騎士達は剣を抜き応戦しただろう。だが、目の前に自分達を見下ろす巨大な黒竜に戦意なんてものはかき消され、這いずりながら逃げようと必死になる。逃げゆく騎士に目もくれず、馬車と馬を両の手で掴みまた飛翔し森へ向かう。 


「本当はこんなことしたくはなかったんだけど……しかたないか」


 急ぎ森に戻り横たわる二人のそばに馬車を置き、竜からまた人の姿に戻る。

エリーザが二人を馬車に詰め込もうとした時、馬車の扉は開かれる。


「えっ……」


 開かれた扉からは、上等な黒い魔術衣装に身を包み、ふちなし眼鏡の奥には知的にして孤高を感じさせる鋭い瞳に、藍色のセミロングの髪をした几帳面そうな女性が姿を現す。


「……」


 女性はただ、怪訝そうな視線を向けるだけで語りかけては来ない。


「あっ!!」


 エリーザはその女性の腕章を見つけてしまった。


その腕章に描かれた特殊な魔方陣の模様は魔術国家ロベリア王国の物で、その女性がロベリアの所属する者だという事が分かった。


「その者達の怪我からして、尋常じゃありませんね」


 ようやく発した言葉にエリーザはどう答えていいか分からず、女性に戸惑いの視線を向ける。


「この二人を助けたいのであれば退きなさい」


 女性の強い口調にコクコクと頷き、魔族の敵であるロベリアの者に従う。


「切断面は綺麗……傷口を凍らせて、出血を防いでいるのね。こっちの人は……熱傷Ⅲ度? いや、それ以上の可能性が」


 女性はなにやらぶつぶつと呟きながらも、二人の状態を確かめていく。


「こっちの貴族のような人の方が危ないわね。皮膚の炭化に骨折によって骨が砕けて臓器を傷付けているかもしれないわ……ふぅん」

「ねぇ、シラーとアズデイルは助かるの?」


 エリーザの問に頷きはしなかった。


「さぁね」


 短く答える。まるで興味がないといったように。


「ちょっと!! 怪我人を見てその反応は無いんじゃないの?」

「私には"魔族"がどうなろうが関係ないもの」

「ッ!?」


 自分が魔族だというのは先ほどの件でバレているのは分かっていたが、シラー達が何故魔族だというのがわかったのかエリーザには分からなかった。


 今の時代、人間は魔族と共存をしていて一緒に行動するのは当たり前のはず。


 それをこの女性は何の情報もない状態で、シラー達を魔族だと言い当てた。一瞬、この女性が当てずっぽうで行っているのではないかとも思ったが、それにしては言葉に迷いを感じ取れなかった。


「私は魔族だよ。でも、その二人は人間なんだけど」


 エリーザはその答えを知るべく、子供だまし程度の嘘をつく。


「そう? 貴方たち三人共もしかして魔王なんじゃないかしら?」


 確信した。


 この女性は完全にエリーザ達の正体を見破っている。


「どうして?」

「私、魔術国家として名高いロベリアの魔術師よ。相手の保有する魔力の量と質を感じれば魔王だというのは大体分かるわ」

「私達が魔王だって分かって驚かないんだ」


 エリーザの言葉に鼻で笑う。


「正直驚いているわ。でもね、逆に安心もしてる。魔王って人間のように会話が出来るんだっ……てね」


 微かに口元を緩め、眼鏡を中指で押上げる。


「でも、貴方たちロベリアからしたら私達って研究の材料でしょ? 他の魔族みたいに殺さないの?」

「確かに魔族、それも魔王なんて言ったら一般の術式ではなく、固有の術式のみを用いる存在だから、魔術師からすれば喉から手が出るほど欲しいんでしょうね。でも、私の担当は既存の術式から新たな派生の術式を生み出す事が仕事なの。だから正直言って私には何の価値もないわ」


 取り敢えず、お互いに戦う理由がない事が分かって安堵する。だが、それでも目の前にいる人間はロベリア国の魔術師。


 いつ如何なる状況でも警戒だけは怠ることは出来ない。


「知ってたんだね。魔王が一般の術式を使うことが出来ず、馬鹿の一つ覚えみたいな戦いしかできないのを」

「えぇ、知ってるわ。だから相性が悪い相手だと打開する策がないってのもね」


 上位の魔族でも人間が使う術式しか使うことができないのだが、魔王という存在は違った。


 どのような変異なのかは分からないが、どんなに術式の勉強をして理解をしていても。一般の術式を扱うことができない。


 だが、そのかわりに一点特化型となるが強大な術式を使用することが出来る。


 十人全員が生まれも地位も違うのだが、特有の能力を持って生まれ、そして誰かの意図しているかのように偶然出会ってしまった。


「あっ!!」


 彼女と話す事に夢中になりすぎていて、背後に横たわる二人の存在を忘れていた。


「名前は知らないけどお願い、シラー達を助ける方法があるなら教えて!」


 慌て縋る思いで訴え掛けるが、背後に横たわる男性二人に一瞥し何か考える素振りを見せる。


「そうね、私の手伝いをしてくれるって約束してくれるなら、助けてあげないでもないわよ」


 二人を助けられるならとエリーザは激しく首を縦に振り、女性も満足げに目を細める。


「交渉成立ね。私はシルア・フェバリエルよろしく」

「私はエリーザ・ブリュイヒテール。よろしくねシルア」


 シルアは再度眼鏡を押上げては二人の傍らに膝を着く。


「これから高等医療の術式を編むから、エリーザは下がっていなさい」

「う、うん」


 言われるままに距離を開ける。


「さて……やるか」


 シルアは深い深呼吸を数度繰り返し精神に落ち着かせ瞳を閉じる。


「慈悲に抱かれる負傷の獅子。甘い香りは人を安らがせ、その身を苛む数多の戦傷よ此処に打ち払え━━━━フィーリン エヴァーシュ(女神の甘い息吹)」


 詠唱に合わせ地面に淡い蒼色に発光した魔法陣が描かれ、三人を包み込む。


 蒼色に輝き放つ魔法陣からミルクのような甘い香りが風に乗って、エリーザの鼻腔に広がり、その術式は早々に効果を見せる。


 シラーの切断された腕は切断面同士が癒着し、傷跡も完治してしまっていた。


 アズデイルの炭化し赤黒く内部出血をした腹部も今では綺麗な肌色をしている。


「はぁはぁ……、流石に魔王二人の治療にはだいぶ魔力を使用するわね」


 治癒が終わり術式を閉じたシルアの額には大粒の汗が浮き出し、呼吸は乱れ、その場に座り込んでしまう。


「シルア……?」

「安心なさい、貴方のお仲間はもう大丈夫よ。そんな事より先程の約束忘れてないでしょうね?」

「うん!! お手伝いならまかせて」


 白く細い腕に力こぶを作る。


「まぁ、頼りにしているわ。それよりそこの二人を馬車に乗せて。御者がいないからエリーザ貴女に任せるから、近くの村まで行きなさい」 


 手渡された地図に視線を落とし、近くの村まで馬を走らせる。


 森を抜たのは日が沈みそうな時間で、そこから近くの村までは1時間程度で着く事ができた。


 そこそこ大きな村で、安宿を2部屋借り、男性陣と女性陣に分かれ、今だ目覚めぬ男性二人を店主と従業員に運び込んで貰い、女性陣は出された質素な料理を口に運ぶ。


 料理を済ませた二人は部屋で、他愛のない話しをしていた。


「シルアちゃんは何で魔術師になったの?」

「何で? そうね、私には昔、兄が居たの。兄はロベリア王国で陛下専属の魔術騎士団団長を務める実力を持っていて、小さい頃からそんな兄の姿を見ていた影響かしらね」

「むかし?」


 過去形に話すシルアにエリーザは首を傾げてから八ッとなり俯く。


「別に気にしていないわ。そもそも私が話したのだしね。兄は三年前にヴァナトリア侵攻の際に戦場で仲間を国へ返すために殿を務めて戦い生命を落としたって聞いたわ」

「そう……なんだ」


 上手く言葉を繋げる事が出来ず、微妙な空気を作ってしまい、そのエリーザの様子に気づいていたシルアは別の話題を提供する。


「明日には国に着くから、そしたら1週間程度付き合ってもらうわよ。もちろんお仲間の魔王にもね」


 眼鏡というフレーム越しに笑うその瞳を見て、エリーザにも笑顔が戻る。


「そろそろ寝ましょう。明日起きたら直ぐに出発するわ」

「え~、少しお寝坊したいなぁ」

「ダメよ、研究を早く仕上げないといけないんだから。そもそも誰のせいで国に帰るのが遅れたと思っているのかしら?」


 意地悪な笑みを浮かべる。


「そんなわけだから、もう寝るわね。おやすみ」

「シルアちゃん、おやすみ~」


 硬いベッドに少々カくたびれた布団を被り微睡みに包まれる。

新キャラ(眼鏡魔術師)

キリッとした委員長タイプをイメージして書いています。

次回も引き続きエリーザ達の視点となります。

次の投稿は2月の25、26くらいになります。

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