目覚めた仲間、ルシアの条件
小さな村にも日が昇る。
安宿の部屋に付けられた所々隙間の空いている窓から朝日が差込み、光の反射で細かい誇りが宙を待っていた。
目が覚めた黒い髪に黒い瞳の青年は上体を起こし、周囲を見渡す。
「……何処だ、ここ」
見慣れぬ、室内に訝しみながらも、一人見慣れた存在に気がつく。
となりのベッドで安らかな寝息を立てている、同じ魔王であるアズデイルの姿。
「俺はリリアンに腕を切り落とされて、その後……どうなったんだ?」
思い出したように切断された腕を見やるが、そこには自身の腕がちゃんと存在し、ぎこちなさは感じるものの動かすことも可能だった。
「ハッ……どうなってやがる」
取り敢えず一人で考えても埒があかないので、自分より出来の良い頭を持つアズデイルを起こそうと身体を揺する。
「あ~ダメですぅ、エリーザ。私はもう……」
相変わらずのアズデイルに微笑を浮かべるが、そろそろ起きてもらわねば困るので少々乱暴に揺する。
「ふぁ?」
ようやく眠りから覚めたアズデイル眠そうな眼を指で擦り、シラーと同じように周囲を確認する。
「おや、シラーおはようございます。それで、ここは何処ですか?」
「ソレを聞きたいのは俺の方だぜ。気づけば切り落とされた腕がくっついてやがるし、どうなってるんだ」
言われシラーの腕に視線を向けると確かに付いていた。
アズデイルも服のボタンを外し腹部を確認するが火傷はおろか内出血すら見当たらない。
「まさか、私たち死んだってことはないでしょうね?」
「さぁな、死んだにしては、この場所が地獄でも天国でもなさそうだけどな」
埃の舞う薄暗い室内を換気しようと、両開きの木製窓を開ける。外は普通の民家等が並び、朝日が直にシラーを照らす。
「どうやら、死んじゃいねーみたいだな」
「えぇ、そのようですね……あっ、エリーザ!! エリーザは何処ですか?」
血相を変えて栗色の髪をした少女の姿を探し始める。
「いません!! どこですか~エリーザ」
丁度隣の部屋でもシルアとエリーザが目を覚ました。
「エリーザ、貴女の事を探しているみたいですけど?」
「ううん、何も聞こえな~い」
しばらくすると、男性二人が言い争う声が聞こえ始める。
「……」
視線でエリーザに何かを訴え掛けるが、ただ首を振り、あくまで他人という事にしておきたいようだ。
「うるせぇぞ!! 朝っぱらからなに宿で騒いでやがる」
ドアを蹴破り店主が怒鳴りつける。
「あ?」
「誰でしょうか?」
二人はさらに現状の理解が出来ずに困惑し、一度言い争いは中断された。
「ルシアちゃん、面倒だけどアイツ等のところ行ってくるね。色色説明しなきゃいけないし」
「なら、私も行くわ」
女性陣二人は部屋を出て廊下から室内に向かって大声を上げる店主の姿が見られた。
「おじさ~ん、ごめんね。この二人には私からよく言って聞かせるから許して」
エリーザに上目遣いされつつ、甘い声で許しを壊れればもう何の言葉も出なかった。
「おっ……おう、じゃあ嬢ちゃん頼んだぜ」
店主は頭を掻きながら階段を下っていく。
「まったく、アンタたちどんだけ騒いでんのよ!! 私達のいる隣の部屋まで響いてたわよ」
「あぁ、エリーザ。私の女神よ、こんな所にいたのですね」
「響いてたのは、壁が薄いからだろ」
シラーが軽く拳を壁に叩き込むと手首から先が消えた。よく見れば消えたのではなく、手首から先が壁を貫いていたのだった。
「ちょっ!? これ以上面倒事は起こさないでよ」
「あぁ、わりぃ」
壁に埋もれた拳を引き抜くと、壁はボロボロと粉が落ちる。
「エリーザ、失礼ですが先程私たちって言ってませんでしたか? 他に誰か一緒なのでしょうか」
アズデイルに言われ、シラーも頷き、男性二人の視線はエリーザに注がれていた。
「そうよ、重症のアンタたちを治してくれたのもその人なんだから。シルアちゃんもう大丈夫だよ」
扉の影から眼鏡を掛けた女性が姿を現し、軽く溜息を吐く。
「魔王というのも中々に愉快で、噂に聞くほど恐ろしくはないのですね」
澄ました表情でシルアは言葉を漏らす。
「ハッ……見たところ人間のようだが、この女が俺たちを助けたのか?」
「そうよ、ある条件を付けて私が貴方たちを助けてあげたのよ。感謝の言葉があっていいと思うのだけれど」
「条件ですか?」
アスデイルは嫌そうな表情を浮かべるが、エリーザにたしなめられる。
「シルアちゃんは命の恩人なんだよ。良い生まれのアズデイルが恩を仇でかえすような真似はしないよね?」
「うぅ……もちろんですよ。私は恩をちゃんときっちり返しますよ」
「めんどくせーな」
シラーもあからさまに嫌そうな顔をするが、仕方がないかと諦めているようだった。
「そんで、条件っていうのは何だ?」
「簡単です、一週間私の研究の手伝いをしてもらいます」
「長くないか?」
「長いですね」
やる気のない二人にエリーザは睨みを利かせ黙らせる。
「では、まずはロベリア国首都に向かいます。そこに私の研究施設がありますので、詳しくはその場でお話します」
「少々よろしいですか。シルアさん……と言いましたか? 貴女は魔術国家ロベリアの人間ですか?」
「えぇ、そうよ。それが何か?」
アスデイルが抱く想いをシルアは理解していた。
魔術国家ロベリアの魔族刈りという行為。これは同じ魔族としては容認できない。
「言っておきますが、私の担当は……あ~、同じことを繰り返しいうのは好きではないのですが、既存の術式から派生のさせた新たな術式を生み出すことで、魔族の件については無関係です。まぁ、ロベリアに行くのが嫌というのでしたら、近場にあると噂の洞窟で1日鉱石探しでも構いませんよ」
挑発的な笑みを見せるシルアにアズデイルは、やれやれというように肩を竦ませる。
「まぁ、貴女の話しが本当であれ嘘であれ命の恩人には変わりはありません。ですが、ロベリアには行きたくはないですね。同族を殺して回る連中を見て内部に蠢くモノを抑えられるかどうか自信がありません」
「同意だな。俺は別にシオンのように人間がそこまで嫌いってわけじゃねぇけど、ロベリアは気に入らねぇ。やるなら石ころ探しで頼む」
お互いに同意つぃ自己紹介を済ませ、一階に用意された簡易な朝食を胃に収め、外に止めてあった馬車に乗り込む。
「チッ……俺が御者役かよ」
「しょうがないでしょ、ジャンケンで負けたんだから。文句言ってないで早く地図に書いてある洞窟に向かってよ~」
地図を片手に馬車を走らす。
しばらくは街道を走らせていたのだが、地図通りに進んでいくと深い森に入り、やがて足場も悪くなってきた。
「おい、これ以上の馬車での移動は危険だぜ。現在地から洞窟まではそう遠くはねぇはずだ」
「そう、なら歩きましょう」
扉を開け一番に下車したのはシルアでそれにアズデイルとエリーザが続き、シラーも馬の手綱を木に括りつけ、三人に並び歩く。
視界に映る同じような景色は方向感覚を鈍らせ、自身がどこにいるか迷いそうになりつつも地図を頼りに歩を進める。
木々を抜けると断崖絶壁の岩場が出迎え、周囲を見渡すと、洞窟のような穴を見つけることができた。
「あれが入口かな?」
「そのようね、この中には人を喰らう悪魔が住んでいると言われているの。ロベリアも何回かに分け調査隊を送り込んだけど、誰一人帰っては来なかった」
「なるほど。それで、魔王という強大な力を持った私達がいるから、あえて洞窟探索を選ばせるような二択を提案してきたのですね」
「正解。まぁ別にロベリアで一週間の手伝いでも良かったんだけどね。正直、今回この場所の秘密を知るチャンスだと思ったのよ」
四人は早速に洞窟の中へ進んで行く。やはり内部は暗く、湿気が高い。
「暗きを照らす、加護の光━━━━ラヴェンタ ヴェル(小さき光)」
シルアの術式によって、周囲は照らされる。入口は狭かったが、内部は天井高く、横に数人ならんでもまだ余裕があるほど内部は広々としていた。
「へぇ~、結構広いんだな。だけど、これは人工的に広くされたって感じか」
いたるところにはツルハシやシャベル、に留まらず人間の……人間であった者の残骸が散らばっていた。それも、数人とかではなく、数十人単位の数の人間。付けられた腕章に描かれた模様は正にそれは、魔術国家ロベリアの国旗。
「これって、シルアちゃんの言ってた調査隊の人?」
「そのようですね、すでに風の状態からみて数年前からこの場に放置されているみたいですね」
仲間の死をみても表情を変えない。
過去の残骸としてしか見ない。
「仲間のこのような姿を見て、貴女は何も感じないのですか?」
「むしろ感じる必要があるの?」
「いえ、ちょっと聞いてみたくなっただけです。気にしないでください」
それからは無言が続き、奥に行けば行くほど死体の数は減っていく。
最奥に到達するのに一時間もかからなかった。壁面に付けられた両開きの扉を前に四人は頷き合う。
「奥に何かいますね」
「うん、でもA級魔族程度かな?」
「どうでもいい、襲ってきたら返り討ちにすればいいだけの話しだろ」
シラーは扉を蹴破り、全員一斉に扉の奥に足を踏み入れる。
「これは!?」
八つの視線の先には鎖で全身を拘束され、悶え抵抗する人ならざる者の存在。
そしてその傍らでイスに座る男性の姿。
「また、客人か……」
男はイスから立ち上がり、人ならざる化け物の鎖に触れる。
「どうして……貴方が」
先程まで余裕の表情を浮かべていたルシアがここで初めて驚きを見せる。
ルシアは固唾を飲み込み、男を睨みつけている。
「知り合いなの?」
「私の兄です……」
戦場で死んだと聞かされていた兄の姿に戸惑いを隠せない。
次回もエリーザ達視点でバトルメインになります。
26日~27日には投稿できると思いますので、次回もよろしくお願いします。




