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標準欄未読理由は、王宮側補作文で埋められません

王宮書記が差し出した次の紙は、よく整っていた。


整いすぎていて、誰の声も残っていなかった。


『標準欄未読理由、王宮側補作文により統一予定』


リディアは、紙面の中央に並んだ四つの文を読んだ。


『当該処理は保留状態であり、後続確認を要する』

『当該移動は時間外確認対象であり、翌朝照合とする』

『当該支給は本人照合前につき、下位保留とする』

『当該備品は閉鎖順外参考物として扱う』


たしかに、間違った文ではなかった。


けれど、どの文にもミラの夜薬の湯気はなかった。西三つ角が暗くなる時刻も、エダが今夜払う寝床代も、メイが母の匙を閉じる順から外した理由もなかった。


書記は、少し安堵したように言った。


「これなら読みやすい。王宮側で補作文をそろえれば、欄外記載を残しても帳面は乱れません」


「乱れていないのは、王宮の文だけです」


リディアは、ニアの薬薪札を補作文の横に置いた。


札には、ニアの小さな字でこう書いてある。


『ミラさんの夜薬は、泡が消える前に薪を足す。朝まで待つと喉が痛む』


王宮補作文では、それが『後続確認を要する』になっていた。


「この文を読んだ人は、薪を足せますか」


「保留だと分かる」


「保留だと分かるだけでは、湯気は戻りません」


小竈の火は、さっき足した薪でまだ赤かった。だが、鍋の縁に集まる泡は細く、ミラは寝台の上で布を握っている。


リディアは筆を取り、補作文の上に線を引かなかった。消せば、王宮はまた「削除」と言う。


だから横に、役割を書いた。


『王宮側補作文:索引用写し。本人・現場記述の代替不可』


そして、ニアの字をそのまま下に残した。


「補作文は、どの棚を探せばよいかを知らせる札です。けれど、薪を足す時刻を読んだことにはなりません」


北門小竈横の机には、王宮から来た紙と、現場で濡れた札が同じ高さで並んでいた。紙だけなら白くて読みやすい。だが、読みやすい紙は、誰が今夜手を伸ばすのかまでは教えてくれない。


ニアが小さく頷き、薪束から一本を選んだ。太すぎる薪では薬が煮え立つ。細すぎる薪では、夜明け前に火が落ちる。


「これなら、泡が残ります」


ニアが薪を差し込むと、火は短く鳴った。ミラの椀へ移す前の薬が、白く細い湯気を戻す。


リディアは次に、カイルの帰宅灯札を補作文の横へ置いた。


『西三つ角の灯りは、夜番が角を曲がる前に点ける。帰ったあとに帰着確認しても、足元は照らせない』


王宮文は『時間外確認対象』だった。


「時間外と書くと、王宮の外側で起きることになります。でも、これはカイルが帰る足元です」


カイルは灯油小瓶を握り直した。


「時間外じゃない。俺の帰る前です」


リディアはその言葉も消さずに残した。


『本人発声:帰る前。王宮補作文で置換不可』


エダの賃金袋には、寝床代の銅貨がいくら足りないかが書いてあった。王宮文では『下位保留』だった。


「下位という言葉では、今夜の扉は開きません」


エダは、袋の紐をほどかずに言った。


「私は、明朝の照合より先に、今夜、名を呼ばれて受け取ります」


リディアはその一句を、賃金袋の本人手渡し欄へ戻した。


最後に、メイの母の匙が残った。


補作文には『閉鎖順外参考物』とある。


メイは首を振った。


「参考じゃありません。母の匙は、誰の鍋か間違えないためです。閉じる順に入れられない理由です」


「では、そのまま書きます」


リディアは母の匙の横線の下に、メイの言葉を残した。


『本人記述保持欄。閉鎖順へ編入不可』


書記は不満げに紙を見た。


「王宮側の補作文を使わないなら、統一の意味がない」


「使います。探すために。写しを並べるために。返答先を間違えないために」


リディアは四枚の札を、王宮文の下ではなく横へ並べた。


「でも、本人や現場が読んだ理由を、読んでいない側の文章で埋めることはできません。補作文で埋まるのは棚番号だけです。ミラの喉、カイルの足元、エダの寝床代、メイの匙の理由は埋まりません」


ミラの夜薬は、まだ湯気を失っていない。カイルは灯油小瓶を持って戸口へ向かい、エダは賃金袋の受取欄に自分の名を書いた。メイは母の匙を、閉鎖順の束から半歩だけ離して置いた。


王宮補作文は、消されなかった。


ただし、索引用の写しとして細い青紐で留められた。


青紐の端には、小さく『棚を探すため。生活を閉じるためではない』と書いた。リディアはその結び目を、誰の札にも重ねない位置で止めた。


その横に、本人と現場の言葉が残った。


書記は、しばらく沈黙してから、別の小さな紙片を出した。


『本人記述保持欄は、本人確認印のあるものに限り有効』


リディアは、まだ濡れているエダの署名と、ミラの湯気を見た。


「今度は、本人の言葉を、誰の印で本物にするつもりですか」

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