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帰る道の灯りまで支払済みにされた理由を読みます

『未受領賃金束、晩餐会警備費不足分へ充当後、帰宅路灯油を停止』


薄い紙片の字を読んだ瞬間、カイルの手が鍵箱の上で止まった。


南倉の廊下には、まだ粉の匂いが残っている。エダは麦粥を二口飲み、足首に布を巻かれて小机の横へ座っていた。賃金袋はまだ空だ。本人の指跡が残る木札だけが、袋の上に置かれている。


伯爵家の紋をつけた男は、警備費台帳を抱え直した。


「帰宅路灯油は、警備費の外です。晩餐会当夜の灯りを優先するため、南倉から北門へ戻る道の灯油は一時停止。臨時夜番は帰着済みですから、問題ありません」


「帰着済みではありません」


リディアは紙片を破らなかった。破れば、誰がそう書いたかが消える。小机の上に置き、青い線で四つに分けた。


『一、本人が立てる』

『二、賃金袋を受け取る』

『三、帰る道に灯りがある』

『四、明日の勤務を本人が選ぶ』


「この四つが揃うまで、エダさんの勤務は完了しません。灯油は余りではなく、帰宅条件の一部です」


男は眉を寄せた。


「道の灯りまで賃金に含めるのですか」


「賃金袋だけ渡して、暗い道へ押し出せば支払済みですか」


リディアは問い返し、エダの足元へ小さな手灯りを置いた。火はまだ入れない。まず、灯りが必要な理由を本人の前で作らないためだ。


エダがかすれた声で言う。


「南倉から……北門まで、裏の石段が暗いです。昨日、灯りが消えていて、倉の中で待てと言われました」


カイルの顔色が変わる。


「誰に」


エダはまた口を閉じた。リディアはすぐに名を書かない。


「今は、言えない欄を守ります。先に、帰る道を戻しましょう」


彼女は灯油札を取り出し、男の紙片の横へ並べた。王宮晩餐会主火場、南倉廊下、北門裏石段。三つの欄には同じ言葉が使われている。


『夜間安全灯油』


「同じ灯油という言葉でも、役目が違います。主火場の灯油は皿を照らします。南倉廊下の灯油は鍵を見つけます。北門裏石段の灯油は、人が帰る足元を照らします」


書記官が息をのむ。


「同語異格……同じ名で、別の生活手順を動かしていた」


「はい。王宮の皿を照らすために、エダさんの帰る段を消してはいけません」


リディアは青い紙に新しい見出しを書いた。


『帰宅路灯油、本人帰着まで未配送予約分』


カイルが鍵箱から小さな銅札を出す。北門裏戸の灯り札だった。昨夜の端に、黒い止め印がある。


「これも止められている。理由は『警備費不足分へ充当済み』」


「では、充当済みを生活到達未完了に戻します」


リディアはエダへ手灯りを差し出した。


「持てますか。持てなければ、カイルさんが持つと書きます。どちらでも、エダさんが帰るための灯りです」


エダは両手で手灯りを支えた。少し重く、すぐに膝へ置く。それでも、指は離さなかった。


カイルが読み上げる。


「本人手で灯り保持、一呼吸。北門帰宅路、灯油未到達」


その一行で、灯油は警備費の端数ではなく、エダが暗い石段で転ばないための席を取り戻した。


男が台帳を閉じようとする。


「灯油一本のために、晩餐会の安全を削るのですか」


「削りません。嘘の安全費から戻します」


リディアは警備費台帳の該当行を指した。


『臨時夜番帰宅確認済みにより、帰宅路灯油不要』


「不要になったのではありません。確認していない帰宅を、確認済みにしたから消えただけです」


書記官が青い保留印を押す。


『帰宅路灯油停止、本人帰着未了につき保留。晩餐会警備費不足分への充当不可』


カイルはすぐに灯油小瓶を取りに走った。戻ってくるまで、リディアはエダを立たせなかった。帰る手順は、急がせることではない。


やがて北門裏石段の灯りが一つ、細く点いた。


エダはカイルに支えられ、三段だけ歩いた。四段目で止まり、自分で首を振る。


「今日は……ここまで」


「はい」


リディアはそれを失敗にしない。


『本人申告、本日三段で停止。帰宅路灯油は一晩保留。賃金袋、休養半日、次勤務同意は未完了』


ノラが小さな布を持って来て、石段の三段目に結んだ。


「明日、ここから始めればいいように」


テッサはその横へ包帯箱を置かず、空の印だけを置いた。治療を先に済ませたことにしないためだ。ミラは遠くの寝台から、灯りの丸を見ている。誰もエダを拍手で急がせなかった。三段で止まれたことが、帰る手順の中に正式に残った。


エダのために止まった灯りが、廊下の壁に小さな丸を作った。進めなかった三段先も、明日また読める場所として残っている。


男の台帳から、さらに硬い封筒が一つ滑り落ちた。


表には伯爵家当主エルンストの印がある。


『夜間安全灯油一括管理者、旧台所係リディア名にて承認済み。以後、北門帰宅路の点灯停止責任を同名義へ帰属』


カイルが息を荒くする。


「リディア様の名で、灯りを止めたことにされている」


リディアは封筒を閉じたまま、青い保留札を貼った。


「では次は、私の名で消された灯りを、誰の帰り道へ戻すか読みます」


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