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標準整理番号は、戻る札の順番を代わりに読めません

王宮厨房標準整理番号は、見た目だけなら親切だった。


 一番、包帯乾燥札。


 二番、明朝薪賃金札。


 三番、次薬までの喉。


 四番、鍵箱帰着札。


 五番、旧台所係リディア本人未整理名札。


 小机の端に置かれた新しい紙は、番号を振ることで混在を防ぐ、と書いていた。細い罫線はまっすぐで、王宮書記官の字も揃っている。札を探すだけなら、確かに楽になるだろう。


 けれどリディアは、その番号の横でミラの椀がほんの少し震えたのを見た。


「三番なら、三番目まで待つのですか」


 ミラが尋ねた。


 喉の具合を確かめる時刻は、番号とは関係がない。二刻後と書いた札は、三番だから三番目に読まれるのではない。ミラが次の薬までむせず、椀の残りを飲めるかどうかを、息の長さで読む札だった。


「待ちません」


 リディアはすぐに答えた。


「標準整理番号は、札を探す番号です。戻る順番ではありません」


 書記官の羽根ペンが止まった。


「しかし、番号順で処理しなければ、未完了札の混在が続きます」


「処理するための番号なら、そうです」


 リディアは小机の上の札を、一枚ずつ指で押さえた。


「でも、ここにあるのは処理待ちではありません。戻ってくる条件です」


 まず、一番と書かれた包帯乾燥札をテッサの前へ戻す。


「包帯は、一番だから最初に閉じるのではありません。芯が乾き、テッサが手で折って、患者の肌へ当てても冷えないと読めた時に戻ります」


 テッサは白布の端を両手で持った。


「まだ湿っています」


「なら、番号一番でも未到着です」


 リディアは王宮紙の一番の横へ、小さく書き足した。


 生活到着再読順――乾き確認後。


 次に、二番の薪賃金札をノラへ示す。


「薪は、紙の順番で来ません。薪屋の受領名と北門の支払名が合い、明朝もう一束買えるところまで届いて、初めて戻ります」


 ノラが湯桶の湯気を見ながら言った。


「番号が二番でも、薪屋さんの名が戻らないなら」


「未到着です」


 リディアは二番の横へ書いた。


 受領名・支払名一致後。


 そして三番。ミラの小さな喉の札。


 リディアは番号の紙を少し離した。番号が椀の縁へ影を落とさないように。


「次薬までの喉は、番号で整列できません。三番目に読むのではなく、二刻後に、ミラ本人の息と椀を見て読みます。もし一番と二番がまだでも、ミラの時刻が来たら三番は先に読みます」


 ミラが目を丸くした。


「飛ばしていいんですか」


「飛ばすのではありません。戻る時刻が違うのです」


 リディアは三番の横へ、母の料理帳で何度も見た言葉を書いた。


 体の時刻優先。


 カイルが鍵箱を抱え直した。


「俺の四番は、三番の後ですか」


「鍵箱帰着札は、あなたが帰って、次番の名を読み、鍵を閉める時に戻ります。夜番が先に帰るなら、番号四番でも先に読みます。帰れない人の札は、番号が後ろだからと机の下へ送らない」


 カイルは少しだけ背を伸ばした。


「じゃあ、帰ったら俺の名で読めます」


「読めます。番号ではなく、帰着した人の名で」


 四番の横には、帰着本人読了、と添えた。


 最後に、五番。


 リディア本人未整理名札は、端にあった。五番と振られると、他の札より後ろに見える。けれど母の計量匙、前掛け、北門小竈横の返答先、賃金到着欄は、リディアの名が最後尾でよいという意味ではない。


 書記官が慎重に尋ねた。


「ご本人の名札も、五番として整理しておけば紛れません」


「紛れないことと、戻れることは違います」


 リディアは自分の名札を持ち上げた。


「五番にしただけでは、私の名がどこへ帰るかは読めません。母の計量匙がここへ戻るのか、前掛けが誰の手に返るのか、北門小竈横の返答先が本人に残るのか。それを読まないまま番号だけ付けると、私の名は“整理済みの五番”として晩餐会責任欄へ運べてしまいます」


 小竈の火が、ぱちりと小さく鳴った。


 リディアは五番の横へ書いた。


 本人帰着先読了中。番号による閉鎖不可。


 王宮書記官は、並んだ追記を見比べた。


「では、標準整理番号は使わないのですか」


「使います」


 リディアは王宮紙の上端に、新しい見出しを入れた。


 検索用表紙番号。


「札をなくさないために、番号は必要です。でも、番号は探すための表紙です。閉じる順番ではありません。戻る順番は、生活到着再読順で決めます」


 テッサが白布を棚へ戻した。


「一番でも、乾くまで待つ」


 ノラが薪賃金札を小竈の近くへ置いた。


「二番でも、名前が戻るまで転記しない」


 ミラが椀を両手で包んだ。


「三番でも、わたしの時刻が来たら読んでもらえる」


 カイルが鍵箱の札を表へ向けた。


「四番でも、帰ったら俺が読む」


 リディアは自分の名札を、五番の紙の下ではなく、母の計量匙の横へ戻した。


「五番でも、最後尾の責任者ではありません。まだ帰る場所を読んでいる本人です」


 番号は残った。


 けれど番号の横に、乾き、受領名、息、帰着、本人帰着先が並んだことで、小机の札は王宮の一列ではなくなった。


 探す時だけ一番から五番へ。


 戻る時は、生活が戻る順へ。


 リディアは返答欄にまとめた。


「王宮厨房標準整理番号は検索用表紙番号として受領する。ただし、北門小竈横仮窓口の各札は、包帯乾燥、薪賃金到着、次薬前呼吸確認、鍵箱帰着、本人帰着先読了の生活到着再読順を優先する。番号順による閉鎖、転記、別送、代表確認への置換は不可」


 書記官が写し終えると、ミラが小さく息を吐いた。


「三番って呼ばれたら、少し怖かったです」


「番号で呼ばれたら、怖いですね」


 リディアはうなずいた。


「だから、番号の横に、名前と戻る条件を書きます」


 その時、王宮紙の下端に、また薄い文字が浮かんだ。


「生活到着再読順のうち標準整理番号外の追記欄は、欠番処理として王宮厨房欠番箱へ回収する」


 テッサの白布が、まだ少しだけ湿っていた。


 リディアはその湿りを見て、ペンを置かなかった。


「次は、欠けているから捨てるのではなく、まだ戻っていないから守る読み方です」

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