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晩餐会中庭の貸与火は、客の空椀で解除しません

王宮中庭の仮火台には、客席へ出る白い小皿と、北門へ戻す薬粥鍋と、まだ封を切られていないメイの謝礼袋が同じ高さで置かれていた。


火は一つだった。けれど、届く先は一つではなかった。


小皿には、焼き林檎の薄い蜜が焦げずに光っている。薬粥鍋の蓋の縁からは、細い湯気が逃げていた。謝礼袋の上には、母の計量匙が横向きに置かれている。


「客席の空椀は戻りました。晩餐会の一皿は成功です」


伯爵家の清算係が、父エルンストの印が入った紙を差し出した。


「よって、北門貸与火は解除。伯爵家補填費停止も、ここで解除していただきます」


リディアは紙を受け取らなかった。火台の縁に指を近づけ、まだ薬粥鍋を温めている弱い赤を見た。


「客席の皿は、客席へ届きました」


「では、成功です」


「北門へ戻る鍋は、まだ戻っていません」


清算係が眉を寄せるより先に、マリベルが小皿の盆を持ち上げた。


以前なら、父の印を見ただけで黙っていた手だった。その手が、今日は客席へ戻った空椀を三つ、火台の前へ伏せて並べた。


「これは、空いた椀です」


次に、マリベルは北門薬粥鍋の横へ、まだ伏せられていない木椀を一つ置いた。


「これは、帰っていない椀です」


清算係の顔色が変わった。


「妹君、そのような数え方は晩餐会記録には」


「父の清算印は、空いた椀の所在確認までです」


マリベルは、小皿盆を片手で支えたまま、もう片方の手で清算紙の印欄の前に布巾を置いた。


「この布巾の向こうには、まだ押さないでください。北門へ戻る鍋と、メイさんの謝礼袋と、母の匙の置き場所が終わっていません」


布巾一枚だった。けれど、印を押す手はそこで止まった。


セレスティアが王宮厨房側の貸与札を取り上げる。彼女は紙を裂かなかった。ただ、火台の右へ客席皿の札を、左へ北門鍋の札を置き分けた。


「客席への一皿は、王宮厨房で受けます。焦げずに出た。これは成功です」


セレスティアは右の札へ細い線を引いた。


「ただし、貸与火そのものは左へ残します。薬粥鍋が北門の小竈へ戻り、蓋を開けた人の名が書かれるまで、返納済みにはしません」


清算係は声を低くした。


「火を二つに分ける権限が、あなたに」


「火を分けているのではありません。届いた先を分けています」


セレスティアの返事は静かだった。


そのとき、メイが謝礼袋に伸ばしかけた手を止めた。


袋を受け取れば、彼女の仕事は終わったことにされる。けれど、薬粥鍋の湯気はまだ北門へ帰っていない。


メイは母の計量匙を、謝礼袋の上からそっと外した。そして、貸与品棚ではなく、北門鍋の札の横へ置いた。


「これは、私がもらう手柄の匙ではありません」


小さな声だった。


「次の火を見るとき、どの匙で一杯を量ったか、わかる場所に置いてください。謝礼は、鍋が帰ってから読みます」


リディアはうなずき、薬粥鍋の蓋へ布をかけ直した。


客席から、係の声が飛んできた。


「白い小皿、焦げなし。お客様へ出ます」


祝いのざわめきが中庭の向こうでふくらんだ。甘い匂いが一瞬だけ風に乗る。


同時に、北門へ向かう小さな荷車の車輪が、火台の横で止まらずに進んだ。鍋の蓋から湯気がこぼれ、メイの謝礼袋は未到達札の下で乾いた音を立てる。


「一皿は出ました」


マリベルが、伏せた空椀を見て言った。


「でも、火はまだ帰っていません」


清算係の印は、布巾の手前で止まったままだった。


リディアはその横に、青い保留札を置く。


『貸与火返納。客席皿到達済み。北門鍋帰着待ち。謝礼袋本人読了待ち』


そこまで書いたとき、火台の下に挟まっていた薄い時刻札が、熱で少し反った。


セレスティアが拾い上げる。


そこには、王宮晩餐会後処理室の名で、すでにこう印字されていた。


『貸与火返納済み予定時刻――本日三刻半』


まだ帰っていない火に、もう帰った時刻が用意されていた。

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