02 石ころ集め
「こんな石ころ集めの何が楽しいの?」
太陽サンサン降り注ぐ王宮の庭園で、何が楽しくてか、我らエレット姉妹は石ころ集めに興じている。
―― いや、お姉様はこの上なく楽しそうに石拾いに興じてあそばせですけど。
これより数時間後に開かれる、「運命の分岐点(推定)」となるセレスティン王太子殿下主催のお茶会を、本来ならば、冷魔法の効いた、涼しい、涼しい、部屋で…、ソファに寛ぎながら、窓際で、贅沢にも木洩れ日を感じ、優雅に、待っている、はずなのに…。
何が楽しくて、何が楽しくて、こんな石集め…。
ここに王宮を建てる際に、自然との調和の名目で設えられた小川。それから現在に至るまで、幾度となく、整備に整備を重ね、何処に自然が残ってるのかという、実に人工的な”自然の小川”である。
「ねぇ、リリー、手に魔力を集めてみて?」
手招きをする姉様の、相変わらずノンビリとした、覇気のない声がする。貴族界では、淀みなき魔をも払う透き通ったクリスタルボイス、だなんだと言われているが、私と話すときの姉様はいつもふにゃふにゃだ。
「リリー?、……リリちゃん?」
姉からの私の愛称は、人前ではリリー、人が居ないところではリリちゃん、なのだ。つまりは今のはよそ行きの愛称。
「はいはい、聞こえてますよ。」
広大な庭園には、各家の令嬢たちが色とりどりのドレスをまとい、お茶会が始まる、その時を待っていた。
王宮への入宮順は爵位の高い家から順に行われ、逆に会場への入場は身分の低い者からとされる。そんな七面倒な仕来たり故に、私たちは庭の片隅で、大いなる時間を潰すべく、貴族令嬢の崇高な川遊びに興じていた。
「別に入宮順は義務ではないのに…。」
姉の言葉通りに手のひらに魔力を集めつつ、姉に習って腕を振り水の中をゆらゆらと往復させる。
水底に転がっていた小さな小さな石粒たちが、じわじわと蜜を求めるゲンゴロウよろしく吸い寄せられるように指先へと集まってきたのだ。
「わぁ!ナニコレ?!!」
「光の女神さまが魔石拾いで残された逸話よ、魔石は魔力に吸い寄せられるの。」
お決まりの、お姉さまの講座が始まりそうだ…。
ジト目で姉をけん制する。
「リリーは魔力が豊富ね、まさか魔石から寄ってくるだなんて、これはまさに光の女神さまの、」
駄目だ、1人でペラペラと語り始めた…。
放っておいたら闇の女神さまの悲劇までノンストップで喋り続ける。
「ねえ、姉様?それでこの石はどうしたらいいの?ずっとへばりついているどころか、なんだか砂利まで集まってきているようなんだけれど?」
「さすが王宮の人工庭園ね、ここまで大量の魔石が転がっているだなんて。いえ待って、これはまさか素質のある空石が…。理論上は可能とされていたけれど、実際に現代の魔力量では検証不能とされていた…、」
駄目だわ、私の言葉が届かない。心なしかへばりついた魔石がドンドン重くなってくる。これから私はずっと、この石ころたちを体にへばりつかせたまま、イシゴンとして生活し続けるしかないんだわ…。
あまりに突然、降って湧いた悲劇に、絶望の涙を溜めていると、慌て顔で我に返った姉に教えられる。
「魔石に魔力を満たすか、完全に魔力放出をとめればいいのよ。」
強めに意識して魔力を注いだ石ころ、もとい魔石が、割られちゃかなわんとばかりに私の手から離れる代わりに新たな砂利が引き寄せられてくる。
「あらあら、」
また何やら解説を始めようとして自重したらしき姉様が、私の手を払ってくれる。
「このまま魔力放出を小さく抑えてちょうだい。この程度の放出なら、向こうから飛んでくることはないわ。」
淑女の微笑みで妹を安心させながらも、興味深げにブツブツと呟いている。
「物語の中の私は貴方に教えていなくて?」
「私、石ころ拾いなんてやったことないもの!!今日が初めてよ!!」
本当なら今頃は別行動で大好きなシトラスオレンジを飲みながら庭園を眺めていた。私の秘密の贅沢、室内での木洩れ日遊びを堪能しながら…。
「まあ、では、さっそくシナリオを変化させてしまったってわけね。ふふふ。」




