【閑話】金色の景色 ※記念SS
8月5日はヴァルハイトの誕生日です。
おめでとうヴァルハイト!
毎回のことながら本編と時間軸は切り離してお読みください。
ちょっと暑い日の話です。
「ハァ~~~~、食べたし飲んだし、オレ満足!」
「何しに来たんだお前は……」
ゼシュットの宿にて。
充分な量の料理をたいらげ、お酒も飲んだヴァルハイト。
若干飲みすぎたと言うので、付近を流れる小川の傍まで涼みに来た。
街道を挟んで町の反対側にあるので、辺りは真っ暗。
女将が気を利かせて魔石の入ったランプを渡してくれた。
「もー、ああいうのって間違いないよね~!」
小川に向かって低くなっていく土手に座る。
「何がだ?」
「雰囲気ヨーシ、人柄ヨーシ。そりゃーご飯も美味しいでしょ♪」
「まぁ……」
この宿でいえば間違いではないのだが。
やや思考が短絡的なのは気のせいだろうか。
「おまけにデザートももらったし!」
僕たちの手にはブルーベリーで作られたシャーベット。
「……いい宿だな」
「それなー」
手の中にあるものは冷たいというのに、心はどこか温かい。
僕は本当に、旅に出てよかったのだと思えた。
「……にしてもアッツ~」
「飲みすぎだ」
「お酒オイシーのがいけないんだよね~、うんうん」
酔っている……のだろうか?
そこまで普段と変わりはないようだが。
「ん、そういや、ルカちゃん」
「なんだ?」
しゃくしゃくと音を立てながら話す。
暑さを忘れさせるような酸味と冷たさが口の中を満たした。
「もっとグランツ領のこと、教えてよ。そろそろ着くし?」
「ふむ、……そうだな。聞き及ぶ限りでも多くの魅力がある領だからな」
「さっすが実家~」
「領、……前にも言ったが、美しい場所で」
「うんうん」
「水面に反射する光が美しいことが名前の由来で」
「うんうん」
「……だが、お前で言えばそうだな。
ちょうど収穫時期にあたる大麦畑の黄金の穂波が、お前を出迎えてくれるだろうな」
「大麦……? ……ハッ! ビール!!」
「酒の醸造も領の主要な産業だからな」
そう多くない、帰省した時の記憶を甦らせる。
領の者たちの汗の結晶。
馬車の窓から望むあの景色は……、とても誇らしかったな。
「あとは……ふむ。恐らくだが、この器もだな」
「ンー?」
スプーンを口に加えながら返事をするヴァルハイト。
本当に王族なのか……?
「領北部。王都から見れば、北東部。ゾルテッツォ山脈の麓では陶芸も盛んで、贈り物にも人気──」
……贈り物。
そう。
今日は風の月・第五の日。
ヴァルハイトの誕生日……!
だが僕もヴァルハイトも、物を贈り合う。という経験に乏しい。
どちらかと言えば過去の誕生日には、お互いに『時間や経験を共有する』ということをやってきた。
だから、今回も特に贈り物は用意していないのだが──
今回こそ。
あの一言だけは、言わねばなるまい。
「へ~、贈り物ねぇ」
反応が薄い。
まさか、また誕生日を忘れているんじゃないだろうな?
「そーいや、コレ。父上からもらったんだよね~」
「?」
左耳に光るそれ。
ヴァルハイトは指先で揺らして遊ぶ。
「誕生日の贈り物って言ったら、オレだとコレだなー」
「!?」
今回は覚えていたようだ。
まずい。
ますます言い出しづらい。
「め、メルヒオール王が?」
「うんー」
「……そうか」
いかん。
こういうのは、早い方がいい。
歯切れよく、且つ迅速に。
そうだ。その方が──
「そ、その。ヴァルハイト」
「あ! そーいえば、芸術家多いんだったよね?」
「っえ!? あ、あぁっ。そうだな」
……。
声が上擦ってしまった。
「絵描きさんとかも~?」
「あぁ。やはり鉱石を砕いた染料を求める者もグランツ領には多い。
義父上が出資している者の中には、王城の大広間に飾る絵画を担当する者もいるぞ」
「へぇ~! すごー」
「義兄上はともかく、エルゼリンデ義姉上はそういった感性の最先端をいくと聞くな。
才能ある者を見つけては、熱心に支援しているらしい」
「ほうほう。きっとルカちゃんの実家のお嫁さんなら、美人さんなんだろーなー」
「その理屈は分からんが、そうだな。美しい方だ」
……。
領を紹介するのはいいのだが。
いつになったら、言えるんだ?
「ルカちゃんは~?」
「何がだ?」
「出資? って、しないの?」
「…………お前が言うのか?」
王族であるヴァルハイトの方が経験あるのではないか?
「オレはほら、剣に魔法に勉強に大忙しーって感じだったし~?」
「ほう」
「さすが、オレ! えらい!」
「……はぁ」
酔っているのかそうでないのか、まったく見当もつかない。
僕の私見で言えば、『いつも通り』だ。
「……まぁ、なんにせよ。めでたい日だ」
「ンー?」
「だから、その……なんだ。お、……おめっ」
「おめでとう! オレ!!」
「~っ!? …………はぁ」
もういい。
僕からはもう言うまい。
自分で勝手に祝うといい。
「挑むことを、恐れない限り──か」
「?」
「コレもらった時のこと思い出した~」
どこか遠い目をしたヴァルハイト。
その金色に輝く瞳は、まるであの日馬車から見た風景のようだった。
「……そうか」
「やっぱオレって、……天才?」
「はぁ? なぜそうなる」
相変わらずアホなことばかり言うものの。
その瞳が揺らいでいることに気付かないほど、僕は愚かではないつもりだ。
いつもご愛読ありがとうございます。
他作品からこちらを読んで頂いている読者様もいらっしゃるのかなと思います。
こちらは私が他サイトにはなりますが、はじめてWeb上で公開した作品でして、特に思い入れがあります。
やはり初めて書いた作品というのは好きが詰まっていて、ファンタジーやバディもの、ブロマンスもの等が好きなんだろうなと毎回再確認します(笑)
活動報告に主役二人の誕生日を書いた記事もございますので、ご興味あればぜひご覧ください。
本編お待たせして申し訳ないですが、他作品含め楽しんで頂ければ幸いです。
暑い日が続きます。
体調にはお気をつけてお過ごしくださいませ。
おめでとうヴァルハイト!