第三十四話 作戦会議 その二
「──考え?」
「うん♪」
道中そんなことも言っていなかったので、初耳だ。
「シェーン・メレでクレーマー男爵と通じていた奴らは直接こちらに送ったし? シュナイダー伯爵が仮に呪術のことを王に伝えたところで、ポーションの件はこちらが把握していると相手にはバレていないはずだから。そこを逆手に取ろうかな~って♪」
「……なるほど、良い考えですね」
「どういうことだ?」
確かにこちらの動きがバレる要因があるとすれば、検品魔術師たちだが、彼らは師匠によって捕縛されている。
「つまり、本物と偽物の入れ替えを阻止して、それを使ってやり返そうって訳ね?」
「そうそう♪ まさか、自分らが仕込んだ物でやり返されるとか、思わないだろうし」
「……本当、ヴァルハイト君って鋭いというか何というか……」
「へ?」
「実は、エアバルド王が私達に命じたのは、そういうことなのよ。貴方の部下にクレーマー男爵の在庫を押さえてもらって、私と兄……エルンストが明日のパーティで他国の前で首謀者たちを断罪すると。その際にシュナイダー伯爵にもご協力いただく予定で。……そうね、エリファスが来たなら、良い案が浮かんだわ!」
突然話を振られて、エリファスはたじろいだ。
「私ですか?」
「ええ、私は回復魔法が得意でないから、ポーションもそんなに作れないわ。だけど、貴方が居るなら明日までにそれなりの数は用意出来る……。クレーマー男爵がすり替えるはずのポーションを私達で用意して、呪術のかけられているであろうポーションは回収、それをクレーマー男爵に飲んで頂く、と!」
何となく、言いたいことは分かるが。
それを嬉々として語れるのは、さすが師匠だなと思う。
普段は温厚だが、一線を越えた者には容赦がない。
「鬼だな……」
「相変わらず、容赦ないですね」
「な、何よ! クレーマー男爵だって自分の命は惜しいだろうから、大人しく白状すると思うから、そうするだけよ!」
「そういうことに、しておきましょうか」
「そうだな」
僕とエリファスは何となく、師匠の気概について通じ合っているようだ。
「それにしても、だ。男爵の動機は本当に金なのか? だったら、王の命を狙うような真似、しないはずだが」
「……翼の会とは、そもそも女神信仰の狂信者と言われていますからね。この大陸では、人が生まれながらに持つ魔力と属性は、女神の祝福によるもの。それ故、単属性の者は女神からの祝福が一番少ないという考え方です。彼も、熱心な女神信仰者なのではないですか?」
実際のところの魔力について、本当のことは分からない。
少なくともこのメーレンスでは水の女神、ルーシェントでは光の女神が信仰されている。
ただ、他の大陸へと行けば、魔力は世界に満ちる力を自分の持つ魔力で操ること。と定義している場所もあり、あくまで僕達の住んでいるところでの考え方だ。
「そうか……、だから単属性である王をそもそも認めていないと。……ということは、だ。魔術師たちと、いわゆる、謀反を起こすのか?」
「あ~。うちのヘクトールとかも、メーレンスに介入するつもりなんかなぁ? バカだねぇ」
「というか、手を組むはずなのに、戦いに備えてポーションを備蓄している理由が分からないな。ルーシェントとメーレンスを争わせる気ではないのか?」
「うーん。……バカの考えは、分からない!」
「はぁ」
「ふふ、それもそうね! 相手の考えはどうあれ、明日、まずは警備について兄上には話を通しておくわ。各国の使者の方は一切何も知らないだろうから。万が一に備えて、避難経路と使者の方の安全を最優先にと。一応、私の部下にも話は通しておくけど、どこまでが繋がっているか分からないからね、少数精鋭って感じだわ」
「私はシュナイダー伯爵のお宅に居りますので、手伝いは出来ませんが……」
「なーに言ってんのよ! 夜はこれからよ!」
「夜通しポーションを作れと……?」
「ルカが居るから、少しは寝れるわよ!!」
「「はぁ……」」
師匠の意志の固さを良く知っている僕らだからこそ、互いの状況にため息が出た。
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