脱兎の如く
金を借りる事が出来た劉備は家臣達の下に戻った。
皆に金は借りる事は出来たが、借金だけではなく子銭が上がった事を伝えた。
法外な子銭に皆顔を暗くしたが、馬順が顔を引きつらせながら述べた。
「殿。どれだけ金を借りようと、いずれ返せばいいのです。今は生き残る事を考え、余裕が出来れば少しでも返していけば、いずれは返済できます」
そう言うものの、流石に千割を返すのは難しいなと思っていた。
だが、馬順の言葉に元気づいたのか、他の者達も続いた。
「そ、その通りだっ」
「そうだ。今は生き残る事の方が大事だっ」
「金など後で返せばいい!」
他の者達がそう述べるので劉備も少しだけ顔を明るくした。
「そ、そうよな。今は生き残る事の方が大事だな。うむ」
劉備は頷いてそう思う事にした。
「それで、準備はどうなっている?」
「はっ。既に武具と兵糧などの詰め込みは完了しました」
「兵の準備も完了しました。いつでも、出立できます」
「良し。城内の民はどうしている?」
「既に劉表が攻め込んで来るので、我らが逃げ出す事を伝えました」
「流石に我らに付いて来るという者達はおりませんでした」
孫乾がそう言うのを聞いて、劉備は安堵していた。
付いて来られても、満足に食事を与える事が出来ない上に進むのに時間が掛る。
それで劉表軍の追撃で全滅という事になっては、金を借りた意味が無くなってしまう。
だから、劉備は安堵していたのだ。
「既に奥方様方は馬車に乗り込んでおります。殿、早く準備を」
「分かった」
そう言われた劉備は的盧に跨ると、家臣達と合流し東門より城外へと出た。
劉備率いる軍勢が新野県を出立した三日後。
文聘率いる劉表軍が到達した。
城門は開かれているので、文聘は兵を送りこみ調べさせた。
少しすると、兵が戻って来て報告した。
「申し上げます。城内に居る民達から聞きました所、劉備達は東門から何処かに向かったとの事です」
「逃げたという事か」
兵の報告を聞いた文聘はとりあえず新野県に入る事にした。
城内に入ると、倉を調べた所、兵糧や武具がごっそりと無くなっている事が分かった。
「流石に倉に入っている武具と兵糧を全て持っていく事は出来なかった様ですが、それでもかなり持って行ったようです」
「劉備軍は東に行ったそうですが、つまり江夏郡に向かったという事になるな」
王威と黄忠の分析を聞いて文聘は唸っていた。
「ぬうう、劉備は江夏郡に向かったのは何故だ?」
文聘の呟きに部将としてつけられた霍峻が答えた。
「恐らく、劉備は江夏郡を通り揚州へ逃げる事にしたのでしょう」
「揚州へ? そうか。孫権の下に逃げ込むつもりか」
「文将軍。江夏郡の黄祖様に連絡を。黄祖軍と我が軍で挟み撃ちをすれば、劉備は簡単に討つ事が出来ます」
「そうだな。よし、直ぐに黄祖に早馬を送れ」
文聘が命じられ早馬が黄祖の下に送られた。
文聘は一日兵馬を休ませて、翌日劉備追撃に向かった。




