教えて良いの?
劉備が呂曠・呂翔兄弟の軍勢を打ち破った数日後。
陳留に居る曹昂は龐統に司馬徽がどうしているのか訊ねた。
「屋敷にある一室にて寝起きし書物を読むか、琴を奏でるかをしております」
「食べ物について何か言っているか?」
「これと言って何も。何を食べても口癖の『これも美味いな。好し好し』しか言いません」
「他に何か話したか?」
「これと言って何も。強いて言えば殿と家臣達の人となりを話したぐらいです」
話を聞いても特に問題は無いと思い、龐統を下がらせた。
曹昂は司馬徽が訪ねて来た理由が何なのか、一人考えたが会って話をしないと分からないと結論になった。
護衛の孫礼と小姓の王平を連れて司馬徽に会いに行く事にした。
龐統の屋敷に赴くと、使用人が司馬徽は部屋に居る言うので曹昂はその部屋に案内してもらった。
廊下を歩くと、何処からか琴の音が聞こえて来た。
奏でているのは司馬徽だろうと思い部屋の前まで来た曹昂。
其処で使用人に下がる様に命じた曹昂は部屋の前で待っていた。
後ろに控えている孫礼と王平は互いの顔を見て、何故部屋に入らないのか不思議に思っていた。
三人が部屋の前にいる間も、琴は奏でられていた。
やがて、琴の音が止むと部屋から司馬徽が出て来た。
「これはお越しとは知らず。ご無礼を」
「先生の琴の音色を聞いておりました。わたしも妻から習い、少しは弾けるので先生の腕が素晴らしい事がよく分かります」
「ははは、暇人の手すさびで弾いているだけです。お耳汚しを」
「いえいえ、とても素晴らしい演奏でした」
曹昂は称賛したが、司馬徽は微笑むだけであった。
「どうぞ、部屋の中へ。まぁ、わたしの屋敷ではありませんが」
「お邪魔します」
司馬徽が部屋に入る様に言うので、曹昂は部屋に入っていく。
入る前に孫礼達に部屋の前で待っている様に言い、二人を待たせた。
室内にある椅子に座る曹昂。司馬徽は椅子を曹昂と対面になる様に置き座った。
「して、本日は何用で参ったのですかな?」
「先生がこの地には縁も無いと思いまして、何か不便な事は無いかと思い参りました」
「其処は陳留候が参ってまで聞く事では無いと思いますが。そう思って下さるのは嬉しい事です。好し好し」
司馬徽が頷きながら口癖を言う。
「ですが、これといって不便な事はありませんのでご安心を」
「そうでしたか・・・」
曹昂は次は何を話そうかと思っていたが、司馬徽が先に口を開いた。
「小姓の王平という者は異民族と聞いておりますが良き顔相ですな。あれはいずれ名将となるでしょうな」
「水鏡先生にそう言われたとなれば、王平も喜ぶでしょうな」
「いえいえ、見てそう思っただけです。聞き流して下され」
そんな事が出来る訳ないだろうと思いつつ笑顔を浮かべる曹昂。
「龐統から話を聞き、家臣の者達を見ましたが。素晴らしい者達がおりますな」
「はい。幸運に恵まれ、方々に伝手が出来まして、その伝手を使い人材を集めました」
「成程。素晴らしき才徳ですな。好し好し」
司馬徽は頷いた後、顎に手を添えた。
「ところで、龐統が鳳雛と渾名されているのはご存知か?」
「勿論です」
何故そんな事を訊ねるのか分からない曹昂に司馬徽は言葉を続けた。
「では、龐統と同等の才を持ち『臥竜』と渾名された人物を御存じか?」
「臥竜ですか?」
司馬徽の口から臥竜という言葉を聞いて、曹昂は思わず唾を飲み込んだ。
「ええ、姓は諸葛。名は亮。字を孔明。貴殿程の才徳があれば、この者を存分に使いこなせるでしょうな」
司馬徽が臥竜が誰なのか教えるのを聞いて、曹昂は教えて良いの? 先生だから良いのか?と思っていた。




