兎も角情報収集だ
司馬徽の口から出た名前を聞いた曹昂は訊ねた。
「先生。その者はどちらに居るのですか?」
前世の記憶で何処にいるのか知っているが、会話の呼び水という事で訊ねた。
「ふふふ、臥竜と即ち伏し隠れている竜。隠れているのであれば、何処にいるのか見つけ出すのは、貴殿が行うべきであろう。さすれば、竜は貴殿のお力になるかもしれませんぞ」
「その様な者をわたしに教える意味は何なのですか?」
「好し好し」
曹昂の問いかけに司馬徽は微笑みながら口癖を呟くだけであった。
(凄く気になるっ。何が目的なんだ?)
相手が何を考えているのか分からなくなり、曹昂は内心で唸っていた。
何を考えてるの知る為に話そうと口を開いた所で、部屋の外に居る王平が「ご歓談中。失礼します」と声を掛けて来た。
「殿。今、城から使者が参りました。至急来られたしとの事です」
「至急だと? いったい何があった?」
「使者もそう伝える様にと言われただけで、何も知らされていないそうです。急ぎ城へ戻りましょう」
「ふぅ、仕方がない」
何があったのか知る為に曹昂は城に戻る事にした。
「先生。まだお話したき事がありましたが、急用により失礼致します」
曹昂が頭を下げて述べるのを聞いた司馬徽は頷いていた。
「好し好し」
「では、これにて失礼いたします」
曹昂は一礼した後部屋を出て行った。
部屋を出て行った曹昂達は急ぎ城に戻った。
戻るなり、出迎えてくれた劉巴から事情を聞くと、呼び戻される理由が分かり納得した。
「呂曠と呂翔の二人が敗れた!」
「はっ。荊州に居る密偵からの確かな報告です」
「二人は穣県に駐屯していたな。という事は、打ち破ったのは」
「その通りです。御推察通り劉備にございます」
劉巴の話を聞いた曹昂は考えた。
「・・・・・・劉備が打ち破ったか。敵の内情を知りたい、新野に密偵は居るか?」
「数人しかおりません。襄陽の劉表の動きを探る為、そちらに多くの人員を割いております」
「その者達だけで十分だ。劉備軍の内情を探らせろ。人員が足りないのであれば、三毒からも出しても構わないと伝えよっ」
「はっ」
劉巴は一礼し離れて行く背を見送りながら、曹昂は考えた。
(恐らく、徐庶が劉備の配下になったな。いや、徐福だったか? どっちでもいいか。これは近いうちに、父上に秘密で徐庶の母親を捕まえないと駄目だな)
そうしなければ、徐庶が偽手紙により劉備の下を去り劉備の下に諸葛亮が来る事になるだろうと予想できた。
(何としても、それは避けねばならないっ)
だからと言って、部下に「徐庶の母親を見つけて、此処に連れて来い」と命じたとしても、今劉備の下に徐庶こと単福が居るのか分からなかった。
その為、今は情報収集が必要であった。
城内に戻った曹昂は家臣達と共に今後の劉備の対策を話し合った。
その数日後。
「なに、昨日水鏡先生が御立ちになった?」
「はい。何でも行きたい所が出来たとの事で」
龐統が曹昂の下に来て報告して来た。
「前もって言って下されば、お見送りしたものを・・・」
「先生は自分は陳留候にお見送りされる程大層な身分では無いと申しまして。それで、わたし一人で城外までお見送りしました」
「ふぅ、それは残念だ」
曹昂としてはもう少し話をしたいなと思っていたので、とても残念そうな表情を浮かべていた。
「しかし、行きたい所か。場所は何処か聞いたか?」
「いえ、教えて頂けませんでした」
「荊州にある自分の家に帰りたくなったのだろうか?」
「もしくは、龐徳公に会いに行ったのかも知れません」
曹昂と龐統も恐らく司馬徽は荊州に帰ったのだろうと思っていた。
だが、暫くすると二人の予想は大きく外れた事を知るのであった。




