先行き一抹の不安
司馬徽が曹昂の下にいる頃。
劉備が駐屯している新野にある大広間に家臣達が集められていた。
家臣全員集まる中、劉備が大広間に入って来た。
その劉備の側には見慣れない男が居た。
年齢は三十代後半で口髭を生やしていた。
切れ長の目を持ち、力強い眉毛に怜悧な顔を持っていた。
「殿。この者は?」
「ああ、皆に紹介しよう。この者は単福と言い、新しく臣下となった者だ」
「単福と申します」
劉備に紹介された単福は皆に頭を下げた。
初顔という事で、皆何処か単福を胡散臭そうに見ていた。
「・・・殿。この者とは何処で知り合ったのですか?」
孫乾が皆を代表するかのように訊ねた。
「うむ。伊籍殿の提案で襄陽で暮らしている司馬徽殿の邸宅に向かったのだが、生憎と留守でな。仕方がないので、帰ろうとした所で知り合ったのだ」
「はぁ、それで臣下に向かえたと?」
「うむ。話をしてみると、わたしには無い知恵を持っているのでな。臣下になる様に頼んだ所、単福は受け入れてくれたのだ」
劉備が自分の功績を誇る様に笑みを浮かべた。
「兄者。何処の馬の骨なのか分からない奴を臣下に向かえるとは、少し不用心ではないか?」
張飛が劉備に対して苦言を呈した。
他の家臣達は思っていても、主君であるので言う事を憚られていたが、義弟である張飛はそんな事関係ないとばかりに告げた。
張飛にそう言われると思わなかった劉備は少し面食らった顔をしていた。
「まさか、張飛にその様な事を言われるとはな。これは驚いたぞ」
「兄者。そう揶揄わないでくれ。それで、単福とやら、お前は一体何が出来るんだ?」
張飛は疑いに満ちた目で単福に訊ねた。
変な事を言うのであれば斬ると言わんばかりに目を力が籠っていた。
張飛の圧を感じているのないないのか、単福は涼しい顔で語りだした。
「わたしは様々な学問を学んでおりました。今まで学び得た事を全て殿の為に役立てようと思います」
「へぇ~、そうかい」
単福の言葉を聞いて、張飛はこいつ役に立つのかなと思いながら見ていた。
「張飛。単福殿には我が軍の指揮を執る方だ。仲良くするのだぞ」
「ふ~ん。本当にこいつは役に立つのですか?」
張飛は頭から単福が役に立たたないと思い込んでいた。
その思いが顔に出ていたのか、単福は笑い出した。
「ふふふ、突然現れた者に対して疑うは当然の理。ならば、此度来る呂曠と呂翔の軍勢が攻め込んで来た時、わたしの指揮に従って下され。もし、勝てば今後はわたしの指揮に従う。負ければこの命好きにして下され」
「おお、言ったな。上等だっ。じゃあ、ついでにお前が勝ったら、俺は金輪際酒を一滴を飲まないと約束してやるっ」
「張飛。何を馬鹿な事を言っている」
酒好きの義弟がとんでもない事を言うのを聞いて劉備は呆れながら止めようとした。
「宜しいのではないでしょうか。では、戦の際はわたしの指揮に従ってくだされ」
「おうっ、だが負けた時は覚悟しておけよ」
張飛は今から単福をどうするか楽しそうに考えていた。
単福の方はほくそ笑んでいた。
(殿の家臣の中で一番言う事を聞かなそうなのがこの張飛だからな。これで言う事を聞かせる事が出来ると思えば安いものだ)
単福と張飛が笑っている中、劉備と他の家臣達は呆れてため息を吐いていた。




