準備を固める
鄱陽県の暴動を鎮圧し治安を改善した孫権は皖県へと向かった。
数日ほど掛かったが、無事に皖県に着き呂蒙達と合流できた。
すぐに軍議を開き、状況の確認を行う事となった。
「皖県を陥落させ、朱光を含めた参謀の者を含めた多くの兵を捕虜にする事が出来ました。その数千人以上です」
「千人以上か。軍に組み込んで戦力にするか?」
呂蒙の報告を聞いた孫権は捕虜を自軍に組み込むべきかと呟くと、魯粛が首を横に振った。
「捕虜を自軍に組み込むとすれば、我が軍の動きに付いていけるように調練が必要です。今はその様な時がありません」
「そうだな。では、我らはどうするべきだと思う?」
孫権は魯粛に訊ねると、魯粛が答える前に呂蒙が前に出た。
「殿っ、ここは曹操が来る前に合肥を攻め込むべきです!」
呂蒙が声高に、合肥の侵攻を提言した。
それを聞いた孫権と魯粛は予想通りだなと思い、少しだけ顔を顰めるのであった。
呂蒙の言葉に続くように、淩統が口を出してきた。
「呂蒙殿のいう通りですっ。今合肥の兵は数千しかいないとの事です。ですので、此処は攻め込み曹操に対する備えにするべきです!」
「わたしもそう思いますっ」
「わたしも」
他の武官達も淩統と同じように、合肥の攻撃を提言してきた。
それを聞いた孫権は顔を顰めた。
「お主等の気持ちも分かる。私も普通であれば賛成したい。だが、呉郡は曹操の支配下に入っている事を忘れてはおらんだろうな?」
孫権の指摘を聞いて、呂蒙達は言葉を詰まらせた。
現在、呉郡は曹昂の推薦で太守となった朱桓が治めていた。
一時期、病気で許昌で戻され治療されたが、回復すると現職に戻ってきた。
戻ってくるなり、有能な役人を選抜して民の病気の治療や施しを行ったため、名士や民の信望を集めた。
それにより、部曲《私兵のこと》を一万も集める事が出来た。
「朱桓は一万の部曲を擁している。郡の兵を動員してもいないのにだ。それだけの兵力がいるのだ。我らが合肥に攻めこんでいる時に、郡内の兵を総動員し後背を突かれれば、我らは曹操と戦う前に敗れるかもしれんだろう」
孫権は現状を考えて言うと、呂蒙達は黙り込んだ。
沈黙の空気が流れる中、家臣達の中にいる賀斉が前に出た。
「殿のご懸念も御尤もです。では、そうならない為に、呉郡に接する丹陽郡か会稽郡に誰かを送り牽制するというのは、どうでしょうか?」
賀斉の提案を聞いて、呂蒙達はそれは良い判断だという顔をしていた。
「わたしは会稽郡には土地勘があります。わたしが朱桓を牽制すれば、殿達は安心して合肥を攻める事ができます」
提案したのは自分なので牽制の役目は自分が行うとばかりに、賀斉は胸に手を当てながら述べた。
賀斉の提案を聞きながら、孫権は内心で朱桓の話をしても、誰かがこう言うだろうなと思っていた。
「・・・・・・分かった。では、賀斉。朱桓の牽制の役目は任せたぞ」
「はっ。兵は五千ほどお借りします。後現地で兵を集めてもよろしいですか?」
「任せる」
「はっ」
孫権の承諾を得られた賀斉は深くを頭を下げた。
「ところで、兵の方はどのくらい居るのだ?」
「はっ。城攻めで数百ほど失いました。ですので、兵の補充をしてもいいと思います」
「兵の補充か。できるか?」
「太守の孫邵様に文を送ればよいと思います」
「廬江郡にも守る兵が必要である。どれだけ送れるか分からんな」
「ですが、全く送られないという事はないでしょう」
「・・・・・・とりあえず、孫邵に文を送り、その兵と合流するとしよう。そして・・・・・・合肥を攻めるとしよう」
孫権の口から合肥を攻めると言うのを聞いて、呂蒙達は歓声をあげるのであった。
軍議が終わり、呂蒙達は部屋を出て行った。
室内に残ったのは、孫権と魯粛の二人だけであった。
「・・・予想通り、合肥攻めを進言してきたな」
「ですな。あれだけの意気を見ますと、わたしも呂蒙達の意見に反対できませんでしたな」
「であろう。もし私が合肥攻めをしないといえば、全員私の意見を翻意させようと説得しそうな程の熱が籠っていたぞ」
「はい。とりあえず、孫邵殿が送る兵と合流するまで、この地で待機ですな」
「孫邵殿が送る兵と合流するまでに、曹操が来たらどうするべきだと思う?」
「その時は合肥攻めはやめて、当初予定していた濡須水に布陣して迎え撃つというだけです」
「・・・・・・曹操が早く来てほしいと思うのは、初めてだ」
「殿。冗談でも、そのような事を言うのをやめて下さい」
孫権の言葉を聞いて、魯粛は溜息交じりでそう言うのであった。




