どうして、こうなった?
孫権は兵を率いて鄱陽県に向かうとは別に、呂蒙は一万の兵を率いて朱光が籠る皖県へと進軍させた。
魯粛に言われているので、攻略に関しては特に何も命じることはしなかった。
一応副将に程普を付けているので、大丈夫だという思いもあった。
数日後。
呂蒙軍は廬江郡に入ると、すぐに皖県の現状を調べる為に、兵を放った。
暫くすると、兵が戻ってきた。
全員、朱光は皖県に籠り守りを固めているという事を報告していた。
その報告を呂蒙と共に聞いていた程普は顎鬚を撫でながら述べた。
「どうやら、朱光は籠城をするつもりのようだ」
「籠城という事は、合肥からの援軍を待っているという事でしょうか?」
程普の話を聞いた呂蒙は自分の予測を述べると、程普はその通りと頷いた。
「恐らくそうであろうな。我らは飽くまでも殿が来るまでの間、敵の侵攻を抑えるだけの役だ。此処は攻城の準備をしつつ、陣地を築き守りを固めるのだ」
程普の提案を聞いた呂蒙は唸っていた。
「それは長期戦にするという事ですか?」
「そうだ。我が軍は一万。敵は二千だ。攻城では三倍の戦力が必要と言われている。だが、援軍が来ると分かっている敵は必死に抵抗するだろう。そうなれば、我が軍の被害も大きいだろう。被害が大きくても落とせればよいが、攻城中に援軍が来れば、我が軍は挟み撃ちに遭い、敗れてしまうかもしれん。此処は殿の鄱陽の賊の鎮圧を終えて、合流してから皖県を落とすかどうか決めるべきだな」
程普は長期戦を展開し、自軍の戦力の低下を抑えるべきだと言うが、呂蒙は首を横に振った。
「長期戦となれば、敵の援軍が来て被害が増すだけの事、であれば、援軍が来る前に皖県を落とすべきだ!」
呂蒙は短期決戦をするべきだというと、程普は止めた。
「いや、此処は殿が来るのを待つべきだ」
主将は呂蒙であるが、程普は長年孫家に仕えた宿将という事で、武官からの信望が厚かったが、呂蒙は意見を曲げなかった。
「程公。貴方の懸念も分かります。ですが、此処で敵の先鋒に打撃を与えれば、我らが優位に立つ事ができます。ですので、此処は早急に皖県を攻略するべきです!」
呂蒙は意見を曲げないのを見て、程普は暫し考えた。
「・・・・・・そうだな。此処は援軍が来る前に攻め落とすべきか。良し。そうと決めれば、皖県に向かうとしようっ」
「はい。敵に目に物を見せてやりましょうっ」
程普の意見を聞き入れてくれたので、呂蒙は拳を握り昂るのであった。
十数日後。
孫権は鄱陽県に居た。
既に賊の鎮圧を終えており、今は治安の改善に取り掛かっていた。
「城内にいる民も、ようやく落ち着きを取り戻してきたようだな」
「はい。問題ありません」
孫権が報告書に目を通して、治安が安定している事が書かれているのを見て呟くと隣にいる魯粛もそう答えるのであった。
「では、そろそろ移動するとしようか」
「はっ。つきましては、我らが布陣する土地を決めました」
魯粛はそう言って揚州の地図を広げた。
指を動かして、広げられた地図の九江郡の合肥の近くを指し示した。
「合肥の近くに巣湖と長江を繋ぐ支流があります。此処は濡須水といいます。個々の河口部に布陣するのがよいでしょう」
「・・・・・・ふむ。此処であれば合肥からも、さほど離れておらんし守り難そうな土地だな。では、此処に布陣するとしよう」
「でが、呂蒙に文を送りましょう。恐らく、まだ攻城中でしょうから」
孫権と話していた魯粛は自分の予想を述べていると、其処に部屋の外に控えている兵が呂蒙からの使者が来たと告げた。
それを聞いて、孫権はすぐに部屋に通すように命じた。
ほどなく、呂蒙が送ってきた使者が室内に入ってくると、一礼する」
「呂蒙からの使者か。呂蒙が何かあったか?」
「はっ。さる二日前に皖県を攻略し、敵将の朱光の他多くの兵を捕らえる事が出来ました!」
「・・・なにっ⁉」
思ってもいなかった報告を聞いた孫権は耳を疑った。
「呂将軍が自ら前線に出て太鼓を叩いて兵を鼓舞し、程公が指揮した事が功を奏したようです」
「・・・・・・そうか。報告ご苦労であった」
孫権は使者を労い下がらせると、魯粛を見た。
「・・・・・・呂蒙の武勇を見誤っていたな」
孫権は手で顔を覆いながら、顔を振るのであった。
「困りましたな。これでは、我らが立てた策が破綻いたします」
「ぬううっ、味方も勝利した勢いに乗って、合肥に攻めようというであろうな」
「間違いなく言いますな」
「・・・・・・どうして、こうなった?」
「殿・・・・・・」
孫権の嘆きに、魯粛は何も言う事が出来なかった。




