親族の特権
その日の夜。
楽進は城内にある一室を自分の部屋として使っていた。
楽進は席に座りながら、城内が描かれた図を見ていた。
その図を見つつ、何処に兵を配置するか考えてたが、何処か浮かない顔をしていた。
(張遼は出撃し、わたしは守るか・・・・・・)
曹操が挙兵した頃から仕え、先鋒を任される事が多かった楽進は自分に比べて仕えて日が浅い張遼が出撃できて、自分が出撃が出来ない事の方が不満であった。
顔にこそ出さなかったが、腹の内では不満が渦巻いていた。
そう図を見ていると、部屋に誰かが近づく足音が聞こえて来た。
足音を聞くなり楽進は部屋の入り口に目を向けた。
「誰かいるのか?」
入り口の方に声を掛けると、直ぐに返事が届いた。
「わたしだ。劉馥だ」
「おお、劉刺史でしたかっ」
部屋に来たのが劉馥だと分かると、楽進は慌てて立ち上がった。
程なく、劉馥が部屋に入ると楽進は頭を下げた。
「楽にせよ。突然来て済まないな」
「いえ、それで何用で参ったのですか?」
劉馥が席に座ると、楽進も腰を下ろした。
「其方に話があって来たのだ」
そう言って劉馥は手を叩いた。
すると、部屋の外に控えていた者達が一礼し部屋に入って来た。
その者達が手には、膳を持っていた。
楽進達の前に膳が置かれると、膳には皿が置かれていた。
皿に乗っているのは、淡い黄色い布のような物が三角形の形にして置かれていた。
「これを摘みながら、話でもしようではないか」
「はぁ、ちなみこれは何なのですか?」
楽進は三角形の物を見つつ尋ねた。
「お主は古株と聞いている。わたしの甥の事は知っておるだろう」
「はい。確か、曹陳留侯の叔父だとか」
「そうだ。わたしの姉はもう亡くなったが、丞相に嫁いで曹陳留侯を生んだのだ。その関係だからなのか、甥から時折文やら色々な物を送ってくれてなが届いてな。その文に揚州でも作れる料理の作り方が書かれている物があってな。それがその内の一つで可麗餅というらしい」
「はぁ、そうですか。では」
楽進は可麗餅を手で持って、口へと運んだ。
一口噛んでみると、布のような生地が良く焼かれている様でパリッとしていた。
だが、特に甘味など感じず素朴な味だと思い食べ進めていくと。
「・・・っ⁉」
楽進は目を丸くした。
可麗餅を食べ進めていくと、突然甘味が襲い掛かって来た。
噛むとシャリとした食感と共に襲い来る甘味と何かの脂と、塩味も感じられた。
甘くて塩辛いという不意打ちを食らい、楽進は驚きを隠せなかった。
「・・・驚きました。この布のような物を食べ進めていくと、甘味と塩味を同時に感じる事ができるとなんて」
「驚いたであろう? わたしも最初料理人に作らせて食べた時は驚いたものだ。これはな、可麗餅の内側に乳酪と砂糖を塗っているのだ」
「成程。これは乳酪も入っているのですか。しかし、わたしが知っている砂糖と味が違うような」
楽進の記憶の中では、砂糖はこんなにあっさりした味では無かったような気がした。
「その砂糖は曹陳留侯が送ってくれたものなのだ。何でも、砂糖を精製すると白くなり、こんなにあっさりとした味になるそうだ」
「それは知りませんでした・・・・・・」
劉馥の話を聞きながら、楽進は感心しながら可麗餅を食べていた。
劉馥も食べつつ、可麗餅を見た。
「この可麗餅は小麦粉、砂糖、卵、牛の乳を混ぜて焼いて作られた物だ」
「はぁ、そうなのですか」
「そうだ。もし、今言った材料を混ぜねば、この料理にならなかったであろう。戦も然りだ。不満などを捨てて手を取り合って共に戦うべきではないか?」
劉馥がそう言うのを聞いた楽進はようやく劉馥が自分の元に来た理由が分かった。
(いがみ合う事はせず協力しろ、か・・・・・・)
楽進は可麗餅を食べ終え、咀嚼した後、口を開いた。
「・・・・・・味方でいがみ合っていれば勝てる戦も勝てませんからな。承知した」
楽進が従うというのを聞いて、劉馥は安堵の表情を浮かべた。
「わたしは良いが。問題は李典の方だな」
「うむ。親族が張遼率いる部隊に敗れて戦死したと聞いているからな。そちらも直ぐに説得する」
劉馥は話す事を終わったとばかりに、一礼し部屋を後にした。




