先に仕掛けるのは
孫権が兵を挙げ、兵の調練を行っている頃。
揚州九江郡合肥。
城内の一室には、張遼、李典、楽進、最後に劉馥の四人がいた。
その四人の前には一人の男性がいた。
年齢は三十代前半で、整った口髭を生やし鼻筋が通った丸い顔をしていた。
身長は平均的で、すらりとした華奢な体格をしていた。
「この度、丞相からの文を届ける命に任じられた。薛悌。字を孝威という者にございます」
男性こと薛悌は名乗り上げた後、一礼する。
張遼達も返礼した後、劉馥が話しかけた。
「して、薛悌殿。丞相からの文を届ける様に命じられたと聞いたが。どのような文であろうか?」
「はっ。それは張将軍達への指示が書かれた物にございます」
薛悌は劉馥の問いに答えた後、手に持っている巻物を広げた。
「先に孫権の元に送った使者の話を聞き、これを機に余は孫権を倒し揚州を手に入れる事にした。余が兵を率いて、合肥に着くまでの間に、孫権が合肥に攻め込む事があれば、張遼と李典は出撃せよ。楽進は薛悌と劉馥と共に合肥を守り戦うな」
文の内容を読み上げ終えると、薛悌は文を丸めて四人を見た。
「以上が、丞相からの命にございます。わたしも合肥の防衛に加わります。協力し、孫権に目に物を見せましょう」
薛悌がそう言うと、劉馥は頭を下げたが、張遼と李典と楽進の三人は互いを見て困っていた。
李典は親戚である李乾が、当時呂布の配下であった張遼と戦い敗れ戦死した恨みがあり、張遼と仲良く出来なかった。
楽進の方も昔、潁川郡に居た頃に張遼と部隊の持ち場について揉めた事があり、それ以来馬が合わずいがみ合っていた。
だからか、曹操の命とはいえ三人は共に戦えるのか分からず、不安そうであった。
三人はどう答えるべきか迷っている間、劉馥が薛悌に話しかけていた。
「丞相は孫権が攻め込んで来た時は守れと言われたが、こちらから攻め込む事については、何か申しておられたか?」
「いえ、特に何も言っておりません。其処は合肥におられる貴殿らに任せられたのだと思います」
「ふむ。では、こちらから仕掛けるのも手か」
劉馥は顎を撫でた後、ある提案をした。
如何に、孫権が兵を挙げたとしても、合肥に着くまでかなり時が掛かると予想できた。
其処でまず、一部隊を廬江郡に派遣し適当な土地を占領し、其処を守らせて曹操が来るまでの間の時間稼ぎをさせるという策であった。
「良いと思います。それで、誰に部隊を与えるおつもりで?」
薛悌が尋ねつつ、張遼達を見た。
劉馥の話から、恐らく張遼達の誰かに兵を与えて廬江郡を攻撃させるのだろうと思ったからだ。
だが、それは違うとばかりに劉馥は首を横に振った。
「いやいや、張遼殿達は合肥を守る役目がある。攻める者は別の者に任せるつもりだ」
「そうでしたか。そちらに関しては、劉馥殿にお任せします」
それで話は終わりなのか、五人は部屋を後にした。
部屋を出た劉馥は誰を廬江郡に派遣するか考えながら、もう一つの懸念も考えていた。
(張遼達の反応を見るに、協力して合肥を守れるか分からんな)
三人の境遇については、簡単にだが聞いていたのでそれを使って話をして、協力できる様に話をする事にした。
「まずは・・・・・・楽進だな」
劉馥はまず話をする人物を決めると、誰を廬江郡に派遣するか考えながら廊下を歩いていた。




