確かにそうだな
使者が孫権の元から許昌に帰還するなり、朝廷に報告した。
その報は直ぐに鄴にいる曹操に届けられた。
「くくく、力を持ってわたしを打ち倒すがいい、か」
報告を聞いた曹操は怒るでもなく、不敵に笑うのであった。
「挑発に我慢できず、とうとう兵を挙げるか。若いな」
曹操は思惑通りに進んでいるので、顔を綻ばせていた。
「さっさと降伏の証を許昌に送っていれば、このような事にならなくなったであろうに」
曹操はそう述べた後、報告した者を下がらせて、荀攸達を呼んだ。
程なく、曹操がいる部屋に程昱、荀攸。田豊、沮授、賈詡が参った。
郭嘉はまだ許昌にいるので、参加する事が出来なかった。
「丞相。参りました」
程昱が頭を下げると、他の者たちも同じように頭を下げた。
「よく来た。早速だが、孫権がとうとう兵を挙げるようだ」
「孫権がっ」
曹操の言葉を聞いて、程昱達は驚いていた。
「とうとう、兵を挙げましたか」
「思っていたよりも早いと取るべきか、それとも遅いと取るべきか」
「しかし、こちらの挑発に耐える事が出来なかった事には、変わりないな」
程昱達は話していると、田豊が曹操に話しかけてきた。
「丞相。孫権が兵を挙げるという事は、荊州の襄陽にもこの事を伝え、蔡瑁にも出陣の準備をさせましょう」
「蔡瑁に? 何故だ?」
曹操としては自分が兵を率いて、揚州に攻め込むつもりであった。
荊州にいる曹仁には益州への対処として出陣させず、襄陽に残らせるつもりであった。
蔡瑁も同じように出陣させないつもりであった。
「先の赤壁の戦いで、孫権の水軍は壊滅状態で未だに再建できていないでしょう。兵を運ぶ事はできるだけの数は用意できるでしょうが、水上戦をするだけの数は無いでしょう。ですので、荊州水軍で攻撃させれば、孫権は手も足も出ないでしょう」
「成程な。流石だ田豊」
田豊の策を聞いて、曹操は称賛しつつ直ぐに策通りに行うことにした。
「それと、敵は恐らく合肥に攻め込むでしょう。ですので、先遣隊として送った張遼達に何かしらの指示を送るべきです」
「まさにそうだな。では、すぐに指示書を書くとしよう」
曹操はそう言って、筆と硯と代筆させる者を用意しようとしたが、程昱が話に入ってきた。
「丞相。張遼と李典達ではきちんと指示に従えるか不安です。誰か目付に送ってもよいと思います」
「目付だと? 張遼も李典も楽進も儂に仕える忠実な者達だぞ。儂が指示書を送れば、素直に従うであろう」
「恐れながら、李典と楽進の二人は古参ですが、張遼は二人に比べますとまだ仕えて新しいと言えます。ですので、指示書を送っても素直に従うかどうかわかりません」
「ふ~む。それもそうか。では、誰か目付として送るか」
程昱の意見を聞いた曹操はすぐに誰を送るか話し合った。
その話し合いを聞きながら、程昱はこれなら問題ないだろうと思い、内心で安堵していた。
孫権が兵を挙げるという報は、陳留にいる曹昂の耳にも入ってきた。
丁度家臣達を交えた評議を行っている時に届けられたので、家臣達は全員聞くことができた。
「孫権が兵を挙げるか。兵力差を考えれば無謀だと思うがな」
報を聞いた曹昂は無茶な事をするなと思っていた。
「確かにそうですな。支配下に治めている土地にいる男を集めても、五万もいないでしょう」
「丞相は十数万は動員できる。これは勝ったも同然だな」
家臣達は、最早曹操勝つだろうと予想していた。
そんな中で、劉巴は呟いた。
「しかし、どうして孫権は何故降伏しなかったのでしょうな。さっさと降伏する意思を見せていれば、このような事にならなかったでしょうに」
劉巴が思わずというよりも、不思議に思っているようであった。
趙儼も同じように思ったのか、似たような顔をしていた。
「ふふふ、劉巴では分からんだろうな。だが、わたしは孫権の気持ちがよく分かるぞ」
劉巴の呟きに、呂布が笑っていた。
まさか、笑われる事だと思っていなかったので、劉巴は眉を顰めていた。
「ほう、では呂将軍は孫権が降伏しない気持ちがわかるのですか?」
「無論」
劉巴の問いに、呂布は即答した。
「孫権が丞相に降伏しないのは、気に入らぬからだ。孫権とて、一度は天下を取ろうと思い乱世を駆け抜けていたのだ。戦に敗れたとはいえ、そう簡単にその野望を捨てる事などできん。だというのに、丞相は従わせようと圧力を掛けていた。それで余計に気に入らなくなり、こうして兵を挙げる事になったのだろう」
呂布が自分の予想を交えながら、孫権の気持ちを語っていた。
それを聞いて、他の者達も同じように納得した。
と同時に、内心でこう思っていた。
(((丞相に対して反乱を起こし、抵抗しつづけた者が言うと説得力があるな)))
同じくその場にいた高順は呆れているのか、天井を見上げていた。
「・・・・・・ともかく、孫権が兵を挙げると分かったのだ。こちらも兵を送るとしよう。そちらの方は頼んだぞ」
曹昂は龐統を見つつ述べると、龐統も分かっているとばかりに頷くのであった。




