きっかけは
魯粛の意見を聞き入れた孫権の命により、支配下にある土地から健康な男達が集められ兵にする為の調練が行われた。
丹陽郡を無傷に手に入れた事が良かったのか、集まった兵は四万を超えていた。
赤壁の戦いで失った兵を補える事は出来たが、昨日まで戦った事がない者ばかりだからか戦力になるとは言えなかった。
それでも、曹操への抵抗の意思を示すには十分と言えた。
兵の調練を施していると、合肥に居る密偵から張遼率いる先遣隊が揚州に入り、数日中には合肥に入る事を報告した。
「遂に来たか。魯粛、これからどうするべきだ?」
孫権が尋ねると魯粛は暫し考えた後、口を開いた。
「曹操が出てくるか文が届くまで、兵の調練は続けましょう。そして其処から交渉いたします」
「そうだな。兵を調練して事を聞かれたら、最近山越が活発に動いているから討伐する為と言えば良いか」
「それが良いと思います。後は、大喬様を送るだけですか・・・・・・」
魯粛は室内に誰も居ないからか、孫権に囁いた。
「殿。いっその事、兵を挙げるというのも一つの手ですよ」
「っ⁉」
魯粛の口から出た言葉を聞いて、孫権は耳目を疑った。
「魯粛。お前、何を言うのだ」
「正直な話、曹操は殿を侮っております。しかし、殿が戦う覚悟を見せれば、曹操も軽々しく戦を仕掛ける事はしないでしょう」
魯粛がそう言うが、孫権は頭を横に振った。
「いや、曹操は既に天下の大半を治めている。その様な者と戦っても勝てるかどうか分からん」
幾ら丹陽郡で兵を補充する事が出来たとはいえ、曹操の全兵力に比べれば足元にも及ばないと言えた。
揚州は河川が縦横に走り、長江という要害を持っているとはいえ、今の孫家には水軍が無いに等しかった。
再編は済んでいるののだが、即戦力とは言えなかった。
対して、曹操は水軍を擁しているので、その時点で勝ち目が薄いと言えた。
「確かにその通りです。ですが、我らには地の利がございます。北方の兵が殆どの曹操軍は南方の風土には適しておりません。現に赤壁の戦いの時も、勝利した勢いに乗って、柴桑に攻め込む事が出来たはずです。もし、そうなった時は、我らは潔く降伏するしかありませんでした。ですが、曹操はしなかった。それは兵が南方の風土に適さず、疫病に罹ったからです」
「ふむ。疫病に罹った兵など役に立たぬからな」
「はい。ですので、曹操が攻め込んで来た時は、籠城し時を稼いで兵達が体調を崩し士気が下がるのを待つというのも良いと思います」
魯粛は仮に曹操と戦になったとしても、その様な手段も取れると述べた。
それを聞いた孫権は内心で悪くないと思ったが、直ぐに頭を横に振った。
「悪くないかも知れんが。相手は曹操だ。我らが長期戦にすると分かれば、短期決戦を仕掛けてくるであろう。そうなれば、流石に負けるであろうな」
「・・・確かにそうですな」
孫権の考えを聞いて、魯粛は何も言い返せなかった。
「とりあえず、曹操の動きがあるまで、兵の調練は続けよ」
「はっ」
孫権の命を聞いて、魯粛は一礼しその場を離れて行った。
数日後。
兵の調練が順調に行われているが、戦に出すにはまだ早いという報告を聞いた孫権は戦を仕掛ける訳ではないから、良しと思っていた。
後は曹操からの連絡が来るのを待つだけであったのだが、其処に急報が届けられた。
丹陽郡、廬江郡にある各県に盗賊が出没し襲撃。多くの県で被害が出ている事。
また、盗賊達は全て九江郡から来て、九江郡に帰って行ったという報告も入って来た。




