追い詰める理由を聞く
孫権の報を聞いた曹昂は曹操の元へ訪れていた。
「父上が孫権を追い詰めるから、このような事になったのですよ」
部屋を訪ねる開口一番でそう述べる曹昂に曹操は鼻を鳴らすのであった。
「だが、これで孫権がどう思っているのか分かるであろう」
曹操は曹操で自分の判断は間違いではないとばかりに、述べるので曹昂は溜息を吐いた。
「窮寇は追うことなかれと言うではないですか。ここで揚州の支配が遅れたら、どうするつもりで?」
「その時はその時だ。時間を掛けてじっくりと行えばよいだけであろう。すでに天下の要といえる荊州は儂の手に入ったのだ。後はじっくりと攻めるだけでも十分だ」
あまりに強硬な態度を見た曹昂は肩をすくめつつ、疑問に思うところがあった。
「なぜ、孫権を此処まで追い詰めるのですか? 揚州の大部分を治めているとはいえ、勢力としては父上の足元に及びませんのに」
気になった曹昂が尋ねると、曹操は目を瞑り熟考していた。
やがて、目を開けると口を開いた。
「孫権は今は亡き孫堅の息子だ。虎の子は虎だ。だから、確実に仕留めるべきであろう」
「何故そうまでお考えで?」
曹操がそこまで言う理由が気になり、曹昂は尋ねた。
「・・・お前だから言うが、儂は孫権の事を恐ろしいと思っている」
「? 何故ですか?」
曹操の口から出た言葉を聞いて、曹昂は首を傾げた。
「孫権の父で今は亡き孫堅殿は江東の虎の異名を持つ豪傑であった。もし荊州の攻略が成功していたら、儂は今の立場にいられたかも分からん」
曹操が話だしたので、曹昂は黙って話を聞いていた。
「その孫堅が亡くなり、後を継いだ孫策は玉璽を上手く使い、揚州で足場を作ったが戦に強いだけで、統治など上手くいっておらず人の恨みを買った。その結果暗殺される事となった」
話を聞いていた曹昂は暗殺に手を回したのは、わたしですけどねと思いつつ何も言わなかった。
「そして、孫策の後を継いだ孫権。正直な話、儂は早々に勢力を保つことが出来ず瓦解するであろうなと思っていたぞ。孫権の其処まで力は無いと思っていたからな。ところが、どうだ。孫策亡き後でも家臣を上手く使い支配している土地を治め、強い勢力を築いたではないか。それどころか、様々な謀略を駆使しても、未だに勢力は瓦解する事無く保っておるわ」
「其処は揚州でも名家と言われている周瑜の家である周家が力を貸しているからだと思いますよ。そうでなければ、分裂してもおかしくありません」
「だとしてもだ。今なお勢力を保っているのは、孫権の手腕が優れているという事であろう。此処まで優れているのであれば、早々に片づけるのであったわ。孫堅もよい子を持ったものだ。息子を持つならば、孫権のような子が良いな」
「孫権は酒乱と聞いていますけど」
「誰にも欠点はある。お前のように一言余計という所のようにな」
わたしって、一言多いかな? 内心でそう思いつつ曹昂は話をつづけた。
「孫権は兵を調練しておりますからね。近いうちに、何処かに攻め込んでくるかもしれませんよ」
「その時は返り討ちにするだけよ。ああ、儂は出陣するがお前は出陣するでないぞ」
「何故です?」
今まで、多くの戦場を父と共に駆けてきたので、此度の戦も出陣するだろうと思っていた曹昂は意外という顔をしていた。
「儂は九賜を授かる。いずれ国公となる。となれば、後を継ぐ公子がいるであろう。その役目は長男のお前が務めるのだ」
「確かにそうですね。では、わたしの部下を送りますね」
「呂布以外で頼むぞ。長年不思議に思っているのだが、お前はよくあんな男を使えるのう」
曹操が不思議そうに言うが、曹昂は何故そんな事を言うのか分からず首をかしげていた。
「慣れたら特に気になりませんよ」
「・・・それはお前だけだ」
曹操は息を吐きながら言うのであった。
話す事を終えた曹昂は一礼し部屋を出た。
廊下を歩きながら、何故あのような事を言われるのか分からず内心で首を傾げていた。




