閑話 妙な縁だな
涼州の宋建討伐が終えていた頃。
豫洲潁川郡許昌。
洛陽から遷都した事で、今では漢王朝の都となっている土地。
都になったからか、市内では人々が生活の為に行きかい繁栄している様子がまざまざと見せられた。
多くの人々が行き交う市内には、数多くの屋敷がある。
その中の一つである曹昂の屋敷に、数台の車を曳いている一団が入って行った。
客人が来たので、曹昂は護衛の趙雲を連れて屋敷の中庭にて出迎えていた。
「これはこれは遠くからよく来られた」
曹昂は親しげに客人に声を掛けると、客人は一礼する。
「これは、曹陳留侯。お久しぶりにございます」
そう述べた客人は耿文であった。
襄陽で商人をしており、曹昂とも親しくしていた。
「貴殿が直接来るとは珍しいな。今日は何用で来たのかな?」
「遅ればせながら、赤壁での大勝利の祝いを届けに参りました」
耿文が頭を下げながら言うのを聞いた曹昂は、直接届けてくるほど良い品なのかと思い、車を見た。
耿文が乗って来た馬車の他に、檻車が二台ほどあり、中に入っているのは馬であった。
一頭はピンク色の肌と青色の目を持ち、象牙色の長毛をもっていた。
もう一頭は、黒い雲のような肌を持ち肌と同じ色の被毛を持ち、四本ある脚は四白|(四本の足すべての足先が白い)となっていた。
二頭とも体格も良いので、良馬の様であった。
「馬か。体格も良いな。良い馬のようだな」
曹昂がそう言うのを聞いて耿文は笑みを浮かべた。
「お目が高い。その通り、この二頭の馬は名馬の中の名馬にございます。二頭とも別々の方が所有しておりましたが、さる事情で手放す事になりました」
「ほぅ、じゃあこっちの白馬は誰が持っていたんだ?」
「馬超だそうです」
耿文があげた名前を聞いて、曹昂達は耳を疑った。
「馬超の? どうやって手に入れたんだ?」
「人伝に訊いた話ですと、馬超が徐州から逃亡している時に、ある河に飛び込んだそうです。その際に乗っていた馬と離れ離れになったのです。その後、別の商人が捕まえて、多くの人の手に渡り、わたしの元に来たのです」
「・・・・・・・本当か?」
嘘くさいと思いつつも、馬の体格が良いので嘘ではないかも知れないと思えた曹昂は、もう一頭の方を見た。
「では、こっちの黒馬は誰が持っていたんだ?」
「こちらは張飛です。劉備が荊州に居た頃に、借金を返す為に張飛が馬を売ってくれたのです。それが、この馬です」
「張飛が? どういう経緯で手に入れたんだ?」
曹昂の問いに、耿文が口を開いた。
「聞いた話ですと、呂布殿の謀略で徐州が奪われ、ある県に押し込まれていた時に呂布殿が買い付けた馬を盗んだ馬と、曹丞相に敗れ劉備と離れて国中彷徨っていた時、南陽郡の・・・どこかの県か忘れましたが、その県に居た山賊を討伐した際に、手に入れた馬を番わせて出来た馬だそうです。まぁ、売っても焼け石に水程度でしたけどね」
かなり買い叩いたから、そうなったのだがなと思う耿文を見て、曹昂は顎を撫でた。
「ほぅ、そうなのか」
最初の馬に比べて、手に入れた経緯が分かりやすいので、こっちは嘘では無いなと分かった。
「では、有難く貰うとしよう」
曹昂はそう言って、どちらの馬を主に乗ろうかと見ていると、趙雲が近づいてきた。
「中々類を見ない名馬です。名前を付けても良いのでは?」
「名前。名前か・・・・・・・」
馬に名付けると言われて、どんな名前を付けるのが良いかと曹昂は考えた。
(・・・・・・う~ん。駄目だな。馬の名前とか詳しくないからな。此処は直勘で決めよう)
そう決めた曹昂はまずは白馬の方を見た。
「・・・・・・里飛沙?」
確か、何かの本で馬超の愛馬がそんな名前だった筈と思いながら、曹昂は呟く。
「どういう意味で?」
「・・・・・・一目見て、疾走すれば砂埃も付かない程に早そうだから」
「里飛沙ですか・・・・・・・」
名前の由来を聞いた耿文は、まだ走る所みていないのに、よくそんな名前を付けれるなと思っていたが、顔には出さなかった。
「白馬の方はそれでいいと思います。それで、黒馬の方はどうします?」
「こっちはそうだな。身体が黒い雲のようだし、四本の脚は白い雪のようだから・・・・・・烏雲踏雪としよう」
「ほぅ、烏の様に黒く、雪の様に白い四白を持っている事から烏雲踏雪ですか。良い名前ですな」
耿文はこちらは悪くないと思いつつ述べた。
(・・・・・・・あれ? この名前も誰かの馬の名前だった様な。・・・・・・・思い出せないなら、良いか)
ふと湧いた疑問を振り払った曹昂は改めて烏雲踏雪を見た。
「しかし、張飛が持っていた馬か。妙な縁だな」
曹昂は貰ったので有難く乗らせて貰う事に決めた。
この話で二十章は終わりとなります。
第二十一章は今週の土日のどちらかで始めます。




