非情な決断
無事に張飛達と合流する事が出来た劉備であったが、直ぐに行動した。
このまま、この地に居れば態勢を整えた曹仁軍の追撃が来るのが見えていたからだ。
劉備軍は南へと駆けていった。
南へと駆けていく間も、曹仁軍の襲撃は続いていた。
張飛や廖化、公孫続の奮戦により何とか耐える事が出来た。
だが、それもいつまで持つか分からなかった。
そうこうしていると、河に辿り着いたので、急ぎ船を探した。
数刻後。
船を見つける事は出来たが、あまり大きくなかった。
劉備軍が渡り切るには、何度か往復しなければならなかった。
無いよりもましと思いつつ、まずは劉備と妻子と護衛の兵が乗り込み河を渡った。
全員が渡り終えると、その後は張飛、孫乾、廖化、馬順が乗り込んでいった。
馬順と従う兵達が渡り終えると、兵が向こう岸に居る公孫続の元に渡ろうとしたが、声を掛けられて止められた。
「公孫殿にこの文を渡してくれ」
「承知しました」
馬順から文を渡された兵は頷いた後、それを懐にしまい船に乗り込み向こう岸に向った。
船が岸に着いたので、公孫続が率いている白馬義従と共に船に乗り込もうとした所で、後方を警戒していた兵が駆け込んできた。
「後方に砂煙が上がっておりますっ。敵軍と思われますっ⁉」
「来たかっ。此処はどうするか」
公孫続はどうするか考えている所に、船を操っていた兵が近づいた。
「馬順様から、この文を渡せと言われました」
「軍師殿が?」
兵から文を渡された公孫続は受けると、文を広げた。
其処に書かれていたのは、船を渡っている最中に敵の襲来があった場合は、兵を乗せれるだけ乗せて後は見捨てよと書かれていた。
内容を読んだ公孫続は顔を引きつらせた。
「・・・・・・この状況では仕方がないか」
公孫続は文を破り捨てると、直ぐに麾下の白馬義従の元に向った。
「全軍、船に乗り込めっ。乗る事が出来なかった者は河を渡れ!」
「は、はっ」
「将軍。我らはそれでも構いませんが、この場に居る民はどうしますか?」
部下の一人がそう訊ねると、公孫続は言い辛そうな顔をした後、重々しく口を開いた。
「見捨てる。でなければ、我らが船に乗り込む事は出来ぬからな」
「しかしっ」
「これは軍師殿の命令だ。大人しく従えっ」
「っ、分かりました」
公孫続の命を聞いて、部下達は従う事にした。
そして、船には白馬義従が乗り込む。
全員乗り込む事は出来たが、他の誰も乗る程の空きは無かった。
「出せっ!」
「はっ」
公孫続は命じると、兵はゆっくりとだが進み始めた。
それを見て、残された者達は声をあげた。
「おおいっ、俺達は乗ってないぞ! 戻れ、戻れ!」
「待ってくれ! 引き返せ!」
「お願いですっ。どうか、乗せてっ」
岸に残された者達は喉を嗄らす程の大声をあげた。
だが、船は戻る気配を見せなかった。
岸に残された者達は声を上げ続けるが、船は戻って来なかった。
その代わりとばかりに、馬蹄の音が聞こえて来た。
大地を踏み鳴らしながら駆ける軍勢が掲げる旗には曹と司馬の旗が掲げられていた。
追撃中に、曹仁軍は司馬懿と曹純軍と合流する事が出来た様だ。
そして、その軍勢が岸に残された者達を包囲した。
「ふんっ、見た所船に乗る事が出来なかった者達という所か」
「将軍。どうしますか?」
曹仁は目の前にいる怯えている者達を見つつ、どうするか考えた。
「・・・・・・この者達の処置は司馬懿。其方に任せる」
「はっ」
「曹純はわたしに付いて来いっ。何処かに船があるかもしれんから、探すぞ!」
「はっ」
曹仁は残された者達は司馬懿に任せて、自軍と曹純軍を率いて船を探しに行った。
曹仁軍が完全に離れていくのを見送った司馬懿は目の前に居る民達を見た。
皆、身体を震わせて怯え切っていた。
「将軍。この者達をどうしますか?」
「劉備は皇族でありながら、朝廷に弓引く逆賊ぞ。その者に従うという事は、自分達も逆賊という事に他ならん」
「では」
「古来より、逆賊は三族誅殺が習わし。容赦はいらん。皆殺しにせよ!」
司馬懿が命じると、配下の兵達は弓を番え狙いをつけた。
「お、お許しをっ。わたし共は、ただ劉備に従っていた、ぐぎゃあっ」
怯えていた民の一人が慈悲を乞おうとしたが、その者に矢が突き立った。
「此処まで付き従っていた時点で、お前達は逆賊よ。劉備に従わずいれば、この様な所で死ぬ事は無かったであろうに」
司馬懿が手を振り下ろすと、容赦なく矢が放たれた。
放たれた矢は真っすぐに進み、老若男女関係無く多くの悲鳴が響き渡った。
やがて、立っている者が居なくなると司馬懿は兵に死んでいるかどうかの確認をさせた。
兵達は槍で死体を突いて死んでいるかの確認をした。
「ぐあああっ」
「こいつ、生きてるぞっ」
「殺せっ、殺せっ」
死体と思い槍を突き立てると、悲鳴が聞こえたので、他の兵達も加わり死ぬまで槍を突き刺し続けた。
やがて、全員死んだ事を確認し終えると、兵達が司馬懿に報告した。
「死体は其処の河に放り込め。劉備に従う者達がどうなるか、良い見せしめとなろう」
司馬懿がそう命じるので、兵達は河に死体を放り投げた。
死体の血により、河は赤く染めて行った。




