20.Sランク勇者たち
一方で勇者軍は大量の魔力反応が検知された地、ベルガンの森へと進行していた。
目的はもちろん、王都に向かっているとされる謎の召喚魔獣たちを討伐するためだ。
勇者軍は団長リベルカの命令でSランク勇者を筆頭に複数の部隊を結成。
リーフレットやユーグも部隊を率いる部隊長として現地に赴いていた。
「いやぁ~それにしてもさっきの団長はカッコよかったな!」
と、陽気に話すのはユーグ・フリードマン。
その姿を横目で見ながらリーフレットは口を開く。
「ユーグさん、さっきからその話ばかりですね」
「だってあのクソ無能幹部共を一瞬にして黙らせたんだぜ? さすがはリベルカ団長。やっぱ覇気が違うな覇気が!」
ユーグもシオンと同様にリベルカの補佐役として支えてきた人物の一人。
だが軍歴はシオンよりも長いため、軍に長くいた分リベルカに対しての評価はユーグの方が大きかった。
「はぁ……早く帰って酒飲みたいな。ねぇリーフレットちゃん、この任務が終わったら一緒に飲みにいかない?」
「ユーグさん、今は任務中です。そういうお誘いは全部終わってからで……」
「えっ!? じゃあ、全部終わったらOKってこと!?」
目を見開き、いかにも嬉しそうな表情をするユーグ。
だがそれを察したリーフレットが慌てながら、
「あ、いやその……そう言う意味で言ったわけじゃ――」
「いやっほぅ~~~~!!」
両手を天高く上げて雄叫びを挙げる。
リーフレットの言葉は見事に遮られ、無に帰した。
「なら、さっさと終わらせるしかねぇな! 腕がなるぜ!」
「いや、だから……」
浮かれるユーグの耳にリーフレットの声は届いていなかった。
だが良からぬ波紋はさらに広がっていく。
そんな話を後ろで聞いていた兵士たちにまで伝播したのだ。
「ユーグ隊長! ずるいですよ! 僕も混ぜてください!」
「そうだそうだ! リーフレットちゃんはみんなのリーフレットちゃんなんだ! 独り占めはいくらユーグ隊長であっても許せん!」
「そーだそーだ!」
ああ……何だかかなり大きなことに。
リーフレットは周りとの温度差におどおどしながらも、
「せ、戦闘の際には気を引き締めてくださいね。まぁユーグさんはお強いので余計なお世話かとは思いますけど」
「心配しなくても大丈夫だよリーフレットちゃん。俺は常に気を引き締めているから」
大丈夫大丈夫と笑いながらそう言うユーグにリーフレットは静かに溜息をする。
(本当に大丈夫なのだろうか)
リーフレットの胸の内にはこんな心配が過った。
勇者軍の布陣は万全を期していた。
目標地点をベルガンの森として四方から部隊を送り、会敵したら随時討伐任務にあたるという作戦が今回の指令であった。
幸いにも軍勢の進行はかなりゆっくりで会議を終えてから部隊を編成し、出発するまでの時間は十分にあった。
「司令部の推測によるとそろそろ会敵してもおかしくはないのですが……」
「急がなくてもその内出てくるさ。ま、その時はこの俺が全て蹴散らしてやるだけだがな。はっはっは!」
余裕を見せるユーグ。
それとは対照的にリーフレットは落ち着いていた。
が、その時だ。
「……待ってください」
突如リーフレットは進行を止め、ユーグの部隊にも止まるよう指示を出す。
「ん、いきなりどうしたのリーフレットちゃん」
「近くから大きな魔力を感じます。しかもかなりの数の……」
辺りに目を凝らし、じっと構えるリーフレット。
しばらくしてユーグもその魔力の存在に気がついたようで、
「リーフレットちゃん、密集の陣を取ろう。分散するとこっちが不利になる」
「わたしも同じことを考えていました。それで行きましょう」
まだ姿は見えてなくとも二人には分かっていた。
今、自分たちの目の前にどれだけの規模の敵が近づいてきているのかということを。
「総員、戦闘準備に入れ! 暴れる時がきたぞ!」
ユーグの盛大なる掛け声で追随する兵士たちも武器を構え始める。
まだ魔獣たちの姿は見えない。
しかし次の瞬間、辺りが薄い霧で覆われ、視界が奪われる。
「……来たな」
「……来ましたね」
前方に現れる何者かの影。
赤くぎらつかせる魔獣特有の邪悪な眼が視界不良の中では分かりやすく光り輝いていた。
そう、ようやく現れたのだ。
討伐目的の魔獣たちの大群が。




