39部
「どうだ?久しぶりのシャバの空気は?」
どや顔で聞いてきた武田総監に向かって、
「そのノリは上田がもう既にやってるんで、目新しくもなんともないですね。どちらかというとスベってます。」
「うわ~、本当か~。
同じギャグばかりではつまらないとも思ったけど、一周回って誰もやってないかなと思ったんだけどな。」
「すみません……………」
上田が謝ると竹田は笑いながら
「いや、いや。同じセンスの人がいたというだけで俺は満足だよ。
だいたい、山本にこの手の冗談をして面白い反応が返ってくるとも思ってなかったしな。」
「武さん、そろそろ本題に入らないと山本が本気で怒りそうですよ。」
上杉が言い、武田も同感だったのか頷いて、
「今日、ここに来て貰ったのは他でもない。
加藤巡査長のことだ。」
「どうなるんですか?」
上田が身を乗り出して聞く。武田は真剣な顔で
「今回の件については外部に事件があったとは発表していない。
だが、本件の内容的に何もなかったこととして処理することもできない。
そこで我々が出した答えだが………………………………」
「こ、答えは……………………?」
上田が興味深げに聞いた。山本と上杉はその様子を白々しい目で見て黙っていた。そして武田が
「………………答えは………………加藤巡査長が貸与していた拳銃が暴発して、負傷した事故とする。
なお、前貸与者の山本勘二警部の整備不良が原因と見られるため、山本警部に厳重注意と3ヶ月の給料3割引支給とする。」
「減給3ヶ月ということだ。」
上杉が一部を訂正して付け加えた。
「じゃあ、加藤はただの被害者でお咎め無しってことですね?」
山本が聞き、武田は黙って頷いた。
「加藤巡査長がした証言については、暴発という理解の外にある状況から錯乱している状況だったため、何者かに撃たれたと思い込んだのだということになった。」
上杉が説明して、上田が
「警部が逃げたことになっていたのは?」
「それについては、有給消化率が悪すぎる山本に対して警視総監命令で長期の休みを取らせていたにも関わらず、出勤して現場に居合わせたことを総監に知られないようにするためだった、ということになった。つまり、もっと休んでもいいぞ、山本。」
武田が笑いながら言い、山本が
「それで、捜査一課が納得したとは思えませんが?」
「…………………詳しくは…………………片倉に聞け。
俺達が言えるのはそこまでだ。」
武田は静かにそう言うと笑顔になり、
「まぁ、とにかく特別犯罪捜査課の人員に変わりはなく、今まで通り皆で協力して捜査に当たってくれ。
以上、解散!」
有無を言わせない雰囲気を感じて山本と上田は頭を下げて総監室を出ていった。
「あんな説明で本当によかったんですか?」
上杉が心配そうに聞き、武田は肩をすくめて、
「山本なら、何か気づいてくれると信じたいね。」
「本当のことを話してしまえば…………………」
上杉が言いかけたところで、武田は言葉を遮り、
「今はまだその時じゃない。
あいつが選択しなければいけないのは次の段階なんだ。
だから……………………今じゃない。」
「………………わかりました。」
上杉が力なく言い、武田は総監室を見回して、
「窮屈な檻に入れられた動物の気分だな。」
そう言ってため息をはいた。