異なる国の戦士
ここはヴィクツ帝国第1騎士団駐屯地。通称『帝国の剣』
エメラルダの説明ではヴィクツ帝国の騎士団は11の軍団に分かれている。
1~10の騎士団は帝国内の要所に作られた砦もしくは大都市に配備され、その中の数人だけは帝都で連絡役として勤めているそうだ。
そして帝都には第零騎士団と呼ばれる近衛騎士団が勤めている。
近衛騎士団は帝国最強の騎士達で構成され、その中でも銀の騎士、赤の騎士、青の騎士と呼ばれる三人が突出した強さを誇っているそうだ。
そして第1~10の騎士団長と副騎士団長は第零騎士団の騎士に近い実力を持っているらしい。
第1~10騎士団で活躍した騎士は第零騎士団に引き抜きされる事もあるのだとか。
そして俺達は今、その第一騎士団団長の前に居た。
「よくやったグレイ!」
噂の団長、全身青色の鎧を纏い巨大な青い盾を身につけた騎士、ドリヴィック=ヴィクタリアはグレイを褒めちぎっていた。
怪しい噂があったにもかかわらず俺達は意外にも歓迎されていたようだ。
「よくぞ殿下の名を騙る賊を捕らえてくれた!」
そんな事は無いらしい。
「だ、団長! この方は……」
「分かるぞグレイ、本物の殿下に瓜二つだと言いたいのだろう? それがこの女の手口だ。この女は殿下そっくりなのを良い事にそこかしこで食い逃げや詐欺などのセコイ悪事を働いていた。だがそれもこれで終わりだ! 貴様は王族しか着ることを許されない鎧龍の刺繡をした服を着ている。これは裁判をするまでも無く死罪に値する行為だ!」
エメラルダが本物だと反論しようとするグレイの言葉をさえぎり、一方的にエメラルダが偽者だと言い切るドリヴィック。
「ドリヴィック、私は本物の!」
「黙れ! この正義の騎士青盾の盾をごまかす事など出来ん! わが盾は悪しき企みの悉くを防ぐのだ!」
ああ、たぶんこれがドリヴィックがハマっているという物語「仮面の騎士青盾」のキメ台詞なんだろうな。
「この者達を捕らえろ!」
ドリヴィックの命令に従い、近くに居た騎士達が俺達を囲む。
7人か、これ以上は部屋の大きさ的に邪魔になるからだな。
それよりも気になるのはコイツ等の格好だ。
全員がグレイ達バケツヘルム組とは違う鎧姿をしていた。
なんと言うか色も形も派手で、まるで特撮番組に出そうなデザインだ。
恐らく主役症候群のかかっているという設定の騎士達なんだろうな。
全員が大きな盾を構えて俺達を囲む。
大きな盾に囲まれるというのはそれだけで結構な威圧感だ。
なんと言うか、シールドを構えた機動隊に囲まれたらこんな気分になるのだろうか。
「悪漢共! 我ら虹の七騎士を恐れぬならば掛かってくるが良い!」
ああ、七人っていうのはそっちか。レインボーな。
調度良い。コイツ等とは一度戦っておきたかったんだ。
「そんなら遠慮なく」
「こ、ここで戦うの!?」
弁解の機会すら与えられずに捕らえられそうになったエメラルダが不安そうに俺を見る。
いままで正面から問答無用で襲われた事なんて今まで無かったんだろうな。
「ああ、心配ない。さくっと仕留めるから」
「ふん、生意気な小僧だ。直ぐにその顔を涙で歪ませてくれるわ」
ドリヴィックがまるで悪役のような台詞で笑う。
やっぱ正義って感じじゃないなコイツ等。
俺は懐から七天夜杖を出すと分割して双剣モードに変形させて構える。
「突撃ー!」
騎士達が先手を取って突撃してくる。
俺一人じゃ一斉に襲い掛かられるとエメラルダを守りきれんな。
なので正面に向かって魔法攻撃だ。
「スパークカッター!!」
ドゴォォォォォォォォォォォォォォン!!
雷が落ちたかのような爆音と共に俺の前に三日月状の電撃が出現する。
電撃は一瞬で扇状に拡散し範囲内の敵を昏倒させた。
正直うるさい。
前はこれでよしと。残りをかたづけるべく後ろを見ると、さっきの魔法発動の際の爆音で全員が硬直していた。
意外と使えるかもしれない。
「もいっちょスパークカッター!!」
再び爆音が響くと、部屋の中で立っているのは俺とドリヴィックだけだった。
エメラルダとグレイは爆音に驚いて、腰を抜かしへたり込んでいた。
「むむむ、なんと言う威力の魔法だ。わが精鋭騎士達が抵抗もできずに倒されるとは」
あっという間に部下を倒された事でドリヴィックも焦りを感じたらしい。
実はこの魔法、俺がプログラミングした物じゃない。更に言えば師匠達が作った物でもない。
この魔法はシュヴェルツェが住んでいた遺跡の奥、空間魔法を発動させて転移した先にあった魔法研究施設で手に入れた試作魔法だ。
まだ調整をする前の試作品なので色々と不具合があるのは知っていたが、まさかこんな不具合だったとは驚きだ。だがその代わりに威力は十分だ。爆音による威嚇と電撃、更に追加効果として麻痺を発生させる良い魔法だ。
「投降するのなら命までは奪わないぞ」
「ふん、この青騎士の盾にそんな魔法が通じるモノか!」
たいした自信だ。それだけ自信があると言う事はあの盾は魔法具か?
俺はスキルを発動してドリヴィックとその装備を鑑定する。
『名前:イムン=エルガー
Lv20 クラス:メタルナイト 種族:異世界人(人間)
能力値
生命力:600/600 魔力:50/50
筋力:4 体力:7
知性:3 敏捷:3 運:2』
『機甲騎士の剣
異界の技術で作られた剣、非常に切れ味に優れ、エネルギーを消費して攻撃力を倍化させる』
『機甲騎士の鎧
異界の技術で作られた鎧、物理、魔法に対しで強力な防御効果がある』
『機甲騎士の大盾
異界の技術で作られた盾、魔法に対し絶大な防御効果がある』
やはりか。
俺の勘は当たったみたいだ。
「行くぞイムン=エルガー!!」
「な、何! 何故私の名前を!?」
本名を告げられ動揺するイムン。
その隙を逃さず俺はイムンに肉薄する。
「は、早い! だがわが盾は貫けんぞ!」
確かにその盾は頑健なのだろう。だがそれは物理攻撃と魔法に対しての話だ!
「『切断』!」
俺は『スキル』を発動してイムンの大盾を真っ二つに破壊する。
「ば!馬鹿な!バキュラーゼの武具がこんな原始人の攻撃で!?」
「スパークカッター!!」
至近距離で発動した電撃魔法の直撃を喰らい吹き飛ぶイムン。
そのまま壁にぶつかり沈み込む。
どうやら鎧は盾ほど防御力は無かったみたいだ。
コイツ等は中の肉体が気絶しても無理やり動かす事が出来るが、全身に電撃を喰らった直後では全身がしびれてまともに動かせないだろう。
「こ、殺したの?」
震える声でエメラルダが問いかけてくる。
もしかして血なまぐさい現場は初めてなのか?
「いや、魔法で衝撃を与えただけだ。怪我くらいはしてるだろうけど死んじゃいないさ。ソレよりも……グレイさん、コイツラの身包みを剥ぐのを手伝ってください」
「え? は、剥ぐって?」
突然始まった戦闘が突然終わった事に対応できていないらしい。
グレイは目をぱちくりとさせてこちらを眺めていた。
「詳しく話している時間はありません。とにかくこの人達が身に着けている何かがこの人達を操っているんです、だからとにかく剥ぎ取ってください」
「あ、操る?……! わ、分かった!」
俺の言葉からドリヴィック達が操られている事に気付いたグレイが騎士達の鎧を外して身包みを剥いでいく。
「どこに隠しているのか分からないですから服も脱がしてください!」
「分かった!」
「きゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」
騎士達の服を剥ぐ所を見てしまったのかエメラルダが悲鳴を上げる。
◆
「よし、これで全部だ」
俺達の前には鎧どころか服まで剥ぎ取られた騎士達がロープで縛られていた。
ちょうどソレにあわせるかの様に金属音と共に複数の足音が階段をあがってくる。
どうやら外の騎士達が騒ぎを聞きつけてやって来たようだ。かなりデカイ音だったしな。
彼等の行動が遅いように思えるだろうが、実際には七人の騎士とイムンを倒すまでの時間はかなり短かった。文字通りの電撃戦だったといえる。意味は違うが。
むしろ鎧を剥ぐ時間のほうが掛かった位だ。
「エメラルダ、そっちは任せた。適当に相手をしておいてくれ」
「……分かったわ。分かったけど後でちゃんと説明してよね!」
半分ヤケになった感じで返事をするエメラルダ。
今日は、いや今日も色々あったからな
「はいはい」
「団長ご無事ですか!?」
第一騎士団の騎士達が部屋の中になだれ込む。
「待っていました、皆さん」
「……で、殿下!?」
「エ、エメラルダ殿下!?」
「な、何故ここに?」
予想もしなかった人物の登場に驚く騎士達。
エメラルダが騎士達の相手をしている内に俺はドリヴィック達の装備を鑑定で調べていく。
「あった」
ドリヴィックが身に着けていた品物の中にあった黒い指輪。
『魂の簒奪器
この指輪を装備すると指輪に封じられた魂に肉体を支配される』
「これがコイツ等の本体か」
ドリヴィックいやイムンは言った。自分の大盾をバキュラーゼの武具と。
バキュラーゼ、その名は以前出会った銀色の戦士が語った名前だ。
奴は自分の事をこう言っていた。自分は異世界バキュラーゼはルードの戦士だと。
その男の名はバギャン。
彼等はルジオス王国を襲い、そしてシャトリア王国を支配しようとしたある女の仲間でもあった。
こいつら、今度は帝国を支配する気か?
目的は分からない、だが黒幕の正体が判明したのは大きい。
「以前の借りを返して貰う時がきたみたいだな」




