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信者 1

生き返った者を含めた村人達は、雪巨人の脅威が消えた事、全員生き残ったことを喜びあった。

その中にはもちろん村長ヤマとウメ、タチバナとサクラがいた。


「俺は、俺達は生き残ることができたんだな。」


「えぇ。私達は生き残ることができたのよ。これからもまた一緒に暮らしていけるの!」


「あぁ、そうだな。」


「死を覚悟していたけど、サクラとまた一緒になれてよかった!」


「私も、生贄に選ばれた時はこんな幸せな事になるなんて、思ってもみなかったわ。」


そして彼等は抱き合った。似たような光景があちらこちらで起きていた。

しばらくして落ち着くと村人達は、この光景を眺めていた天之竜河大神に向き合い、村長であるヤマが代表して話しかけた。


「貴方様は創造神・天之竜河大神と言われるのですね。この度は助けていただき誠にありがとうございます。」


「大したことではない。」


「いえ!女神は何もしてくれませんでしたが、貴方様は私達を助けてくれました。感謝の言葉もありません!まさか、女神ウルスラ以外に神がおられたとは知りませんでした。」


村人達は、何もしてくれなかった女神に対する失望に比例するかのように、知らない神でも自分達を助けてくれた存在に対して崇拝の念を持ち始めるのだった。


「私は長いこと眠っていたからな、知らないのも無理はない。」


「そうだったのですか・・・。」


「さて、お前達に頼みたいことがあるのだ。」


「頼みですか?私達に?」


「そうだ、強大な敵に立ち向かう勇気、団結力、これらを見込んでのことだ。頼めるか?」


「もちろんです!助けていただいた御恩を返せるのなら喜んで引き受けます!」


そのヤマの言葉に村人達は皆、頷くのであった。


「そうか、引き受けてくれるか人の子らよ、感謝する。さて、頼みだが、今はよそう。」


「え?」


村人達は、神の頼みとは何だろうと思っていたところに、今は言わないと言われ疑問の声を上げるのだった。


「お前達は雪巨人に立ち向かい疲れているだろう、しばし体を休めるがいい。また後日同じ時間に、私の声を届けよう、その時に頼みを言うことにしよう。」


「よ、よろしいのですか?」


「かまわない。お前達には休息が必要だろうからな。(こうすればこの人達は僕のことをさらに信仰するだろうからね。)」


「あ、ありがとうございます!」


超越した存在である神が、自分達を気にかけてくれている!そう思った村人達は、天之竜河大神に対する崇拝の念を強めるのであった。


「さらばだ。」


天之竜河大神がそう言うと、光となり天に昇っていくのだった。村人達は光を見送った後も、しばらく空を見ていた。そして、ヤマが振り返り皆を見渡すのだった。


「さぁ、帰ろう!俺達の村に!」


「「「「おお!!」」」」


神の頼みが何なのか、それは分からない。しかし、雪巨人に生贄を出さなければならなかった時よりは、確実に良くなる。誰もがそう信じていた。その為、皆の顔は未来に向けての希望に満ちていた。





ホルス聖教国の東の果て、其処には天を衝かんとするような巨大な木が存在した。人々はこの木を女神ウルスラが住む聖なる木・世界樹と呼んでいる。

世界樹の中は木とは思えない空間が広がっていた。木の中に異空間が存在するのだ。そして、ここに住むことを許された存在は、ウルスラに直接仕えることを許されたエルフだけである。

 エルフは人間を超える寿命、一流の魔術師の数倍の魔力など人間ではとうてい敵わない、まさに神に仕えるに相応しい存在であり、人間達の信仰の対象にもなっているのだ。もっとも、同じように神に仕える存在であるカイから見れば、話にもならないほどの脆弱さであったが。

そんな聖なる空間の奥に、通路以外が虹色に輝き、通路の先に黄金に輝く玉座がある部屋があった。その玉座に座している存在が女神ウルスラである。

女神ウルスラは、白銀に輝いている髪、金色の瞳をした、誰もが目を奪われる美しい女性であったが、ただ美しいだけでないことは、その身に宿る神力を感じれば解るであろう。

そんなウルスラは何かを感じたかのように顔を上げた。


「いかがされました、ウルスラ様?」


「いま感じたのは・・・・。いいえ、きっと気のせいね。ごめんなさい、なんでもないわ。」


「はぁ、それならよろしいのですが。」


側に仕えるエルフの質問に対して、ウルスラは先ほど感じたことは気のせいだと判断し、問題ないと言い、エルフも不思議に思いながらも受け入れるのだった。


(馬鹿ね私ったら、私以外に神はいないのに神力を感じたなんて、疲れているのかしら?)


のちにウルスラは、あの時に何か手を打っていれば、結果は変わらずとも、より良い結果にすることはできたのではないかと後悔に苛まれることになる。




 -天界ー

「カイ、イナバ、帰ったよ~。」


「お帰りなさいませ!」


「旦那、お帰りなさい!」


天之竜河大神は地上界より帰還し、カイ達も嬉しそうに出迎えるのだった。


「ふ~、一仕事終えた感じだよ。」


天之竜河大神が座り、くつろいだ姿勢になると、イナバは緑茶を出すのだった。


「おぉ~気がきくね!」


「ありがとうございます!」


天之竜河大神がイナバを撫でて褒めると、イナバも嬉しそうに顔を綻ばすのだった。それも見てカイはムッとした様に割り込むのだった。


「それよりも!地上ではどうでしたか!」


「ん?あぁ上手くいったと思うよ、これでフキノ村の人々はウルスラよりも僕を信仰するだろうね。」


「そうですか、それは良かったです!」


「うん。あとはフキノ村の人に布教してもらえば、より早く僕の存在が広まるだろうね。」


「ですが彼らが引き受けるでしょうか?この世界で布教すればウルスラ教に目を付けられることになりますが。」


「大丈夫さ、布教は自分がしてもいいと思った相手だけでもいいことにすれば、さほど危険ではないよ。それに、布教だけではなく自分達の行動が人類救済になる行動だと思えばやる気も起きるだろう?」


「そうですね。しかし、人類救済とは?」


「魔神だよ。かつて魔神がいた事や、いま復活しようとしていることを話すんだ。魔神についての設定もちゃんと考えたからね。」


「なるほど、それなら彼らも引き受けますね。」


天之竜河大神の話に、カイが納得しているとイナバが疑問を訊いてきた。


「それはいいけど、有りもしない物語を作っちゃてもいいんですか?」


「何を言っているんだ?イナバ、良いに決まっているだろう。主が白といえば黒も白になり、ショッキングピンクも白になるのだ、だから主が存在すると言えば無くとも存在するのだ。」


「あ、そんなもんですか。」


カイの無茶苦茶な理屈にイナバは苦笑しながらも理解を示すのだった。


「まぁそれはともかく、魔神の核の成長が思っていたよりも早いんだ、だからしばらくすると自我を持ち、自分から完全復活する為に争いを起こすかもしれない。」


「そうなのですか?予定より早いですね。」


「あぁ、でもそれも当然なのかもしれないね。この世界には戦争が大好きな国であるサウス帝国が存在するのだから。帝国に侵略された者達や殺された者達の恨みや悲しみ、これら負のエネルギーは結構な量だろうしね。」


「なるほど、確かにあんな覇権主義丸出しの国家があれば成長は早くなるでしょうね。」


「言われてみればそうですね、帝国みたいな戦争万歳な国があれば負のエネルギーは多く出ますよね。」


そう、魔神の成長が予想していたよりも早く、もう少しすれば自我を持つほどに成長しているのだ。そうすれば魔神は、創造された時に設定された記憶により、自分を倒したと思っている天之竜河大神に復讐するため、地上界を征服し天界に侵攻してくる手筈になっているのだ。


「楽しみが早まりましたね!・・・そう言えば聞いてもよろしいでしょうか?魔神がウルスラを超える力を持っていることは知っていますが、配下などを生み出すことはできるのでしょうか?」


「ふふふ、よくぞ聞いてくれたね!おもにアンデッド系のモンスターを生み出すことができるよ。その中でも僕の自信作はゾンビの創造だ!」


「ゾンビですか?あんな雑魚、たいした敵にならないと思うのですが・・・。」


ゾンビとは動く死体のことである。確かに見た目は気持ち悪いため迫力はあるだろうが、戦力として見た場合はあまり役に立たない雑魚なのである。そんな雑魚を創造する能力が自信作というのだ、不思議に思うのも無理はなかった。


「確かに戦力として見た場合はあまり役に立たないだろうね、まぁ数が多ければ人類も苦戦するだろうけど、僕がこの能力を自信作としているのは、女神ウルスラの信仰を失墜させることに、大いに役立つと思っているからだよ。」


「ゾンビがですか?」


「そうだよ、ゾンビを生み出す手段は二種類ある、一つは普通にゾンビを生み出す手段、そして二つ目が自信作だよ。それは、死体に怨念などの負のエネルギー体を憑依させる手段だ。」


「?それが何故ウルスラの信仰を失墜させるのですか?」


「簡単だよ、戦場で共に戦った同僚、後輩、尊敬できる上司などが、死んだ後もその体を道具のように使われているのを見た時、当然魔神に対しての怒りが生まれるだろう。だが、女神に対しても生まれるだろうね。なぜなら人間は感情で動く、だから、なぜ女神はこのような事を許すのか、信者が死んだ後も尊厳を奪われているのになぜ何もしてくれないのか、このように理不尽と分かっていても思わずにはいられないだろうね。」


「なるほど。」


「確かに。」


「それに加えて、魔神や生み出されたモンスターには女神ウルスラの神力に対しての耐性を付けている。だから、ウルスラの力を借りての魔術である、光魔法や祝福を受けた武具なども効果はいまひとつだろうね。そんな時に、ゾンビを一瞬で浄化する僕の信者や僕の祝福を受けた人間はゾンビにならないなどが起きたら、女神ウルスラに対しての信仰はかなり失墜すると思うんだよね。」


「素晴らしい能力です!なしかにそれならウルスラの信仰を落とす意味では凄いですね!」


「確かに、旦那が自信作と言うほどのものがありますね!」


「だろ~、だから魔神の成長の早まりは大歓迎だよ!」


天之竜河大神は、そんなウルスラや地上界の人類にすれば勘弁してくれ、というような能力を自慢するのであった。


「まぁこの能力の活躍はまだこないだろうから、まずはフキノ村の人達を完全に僕の信者にしないとね。」


「そうですね。でもフキノ村は問題なく信者になると思いますよ。」


「そうそう、旦那にあんな風に助けられれば信者になりますよ。」


このように天界の住人達は和やかに談笑しているのであった。





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