↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/28

探偵少女と幽霊マンション(6)

 リルカから告白されるよりも前の話だ。


 女の子と喋っているとすぐに嫉妬し、怒り狂うリルカだったが、次の日にはいつもケロリとしていた。前日の怒りなどなかったように。


 不思議で、一度訊いてみたことがある。


「お前、怒ってても次の日には機嫌直ってるよな、どうしてだ?」


 リルカは答えるのを少し渋っていたが、俺がしつこく訊くと答えてくれた。


「夢よ」


「夢?」


「そうそう。怒ったまま寝るとさ、その人に思いっきり怒る夢をみてるの。それで、朝起きたらすっきりしてるってわ

け」


 えへへ、と恥ずかしそうにリルカは笑う。


「あたしに似合わず、メルヘンチックだけど、笑わないでよ?」


 俺は全く笑えなかった。


 リルカが機嫌が悪い日には必ず、俺は悪夢をみていた。自分の悲鳴で起きて、内容は全く覚えていない。ただ、猛烈に怖かったという印象だけが残る悪夢だ。


 その時まで、リルカを怒らせてしまった俺の罪悪感が悪夢をみせているのだと思っていたが、もしかしたらリルカの精神力のなせる技かもしれないと思い恐ろしくなった。


 俺が女の子と接触したらリルカが怒り、俺が悪夢を見て、翌日リルカの怒りが冷める。

 このサイクルはリルカが死んでしまった後も続いている。


 ちなみに俺の方には夢として出てくるが、俺と接触した女性の方には実際に幽霊として出現して、あの恐ろしい姿で耳元でなにやら一晩中囁き続けるらしい。

 俺が悪夢でうなされた夜の次の日には、相手方の女の子は必ず真っ白い憔悴しきった顔をしていた。

 もちろん、そうなった女の子は二度と俺に近づくことはない。





 麻滝は、家のすぐ近くまで帰り道が一緒だ。一緒に帰れたら、夕暮れの帰り道でリルカに怯えることはないかもしれない。

 べったりと接触しすぎると、リルカの怒りの限界値を超えて、逆にリルカに殺されそうになる可能性もあるから注意しなければならないが。

 

 やれやれ。行きたくはないが、仕方ない。


 踵を返す。

 探偵倶楽部は学生会館の端にある。文芸部の隣だ。場所は麻滝に何度も教えられた。


 扉をノックしても返事はない。だが人の気配はある。

 麻滝がいなかったら気まずいな、と思いつつドアを開ける。


 狭い部屋には三人の男女がいた。が、全員がドアを開けた俺を見て迷惑そうな顔をして、すぐにまたそれぞれの作業に戻る。

 男が二人、パイプ椅子に座って何やらレポートらしきものを書いている。

 俺とためを張るくらい目つきの悪い金色に髪を脱色したヤンキー風の男と、髪を肩まで伸ばした線の細いホスト風の男。

 この二人は見覚えがある。同学年のはずだ。二人とも、うちの高校では有名な男だ。


 ヤンキーの方が犬飼。

 進学校には似合わない外見をしているが、意外にも成績は悪くないというのを噂で聞いたことがある。

 とにかく暴力的な男で、湯塚市内どころか県外にまで悪名が届いているとか。


 ホスト風の方が成島だ。

 こっちは悪い噂は聞かない。女子から人気があるらしいけど。


 しかしこの二人、探偵倶楽部の部員だったのか。

 全然知らなかった。

 麻滝とこの二人が話しているところも見たことがなかったし。


 残る一人は女だ。俺に背を向けてノートパソコンでの作業をしている。

 この少女とは知り合いだ。

 犬飼のものとは違う金を融かしたような金髪、陶器のような白い肌。

 探偵倶楽部副部長、マリアだ。マリア・ワトスン。

 一つ下の学年の留学生で、麻滝の熱狂的なファンだ。

 つまり、こいつが例の霊感少女だ。


「おい、マリア。麻滝はまだ来てないのか?」


 俺の質問に、ゆっくりとマリアは振り返り、その青い瞳で俺を睨みつけた。


「お前程度が撫子様を呼び捨てにするな。ぶっ飛ばすぞ!」


 いきなり、噛み付くようにして叫ぶ。モデルのような顔でそう言われると妙な迫力がある。


「お前こそ先輩には敬語を使え」


 マリアのこの態度には慣れたものなので、落ち着いて対応する。


「黙れ、何をしにきた」


 初めて麻滝に紹介された時から、マリアの俺に対する敵意は全く変わっていない。

 麻滝が俺と親しいのが気に入らないんだろう。実際、麻滝が一番親しくしているのは学内では俺だ。だから分からないでもないが、それにしても態度が極端すぎる。


「幽霊マンションに興味があるなら来いって、麻滝に言われたんだよ」


「ああ、あれか……」


 納得したのか、急に声のトーンを落としたマリアは小首をかしげて、


「言っておくがな、撫子様はお前に興味があって親しくしているわけではない、お前の能力が必要だからだ、分かるか?」


「言われなくても知ってるよ」


「そうか、ところで――はっ!」


 突然、マリアの手から凄いスピードで何かが放たれる。

 俺に向かって飛んでくるそれは、小さなサイコロに見える。サイコロは俺にぶつかる寸前で、透明な壁に当たったかのように勢いをなくし、俺の目の前で三つに割れて床に転がる。


「くそっ」


 マリアは下品な言葉を口にする。


「これでもダメか」


 こんな異常事態にも、犬飼と成島は反応しない。レポート作成に集中しているようだ。

 多分、マリアが奇矯な行動に出るのはいつものことなのだろう。


「今の、何?」


「スーフィーのボーンダイス。本物じゃないだろうけど、手に入れるの苦労したのに。触れもできないなんて」


 悔しそうに言うマリアの言葉の前半は分からないが、後半はいつものことなので理解できる。

 マリアは会うたびに、新しく手に入れたいわくありげなアイテムを俺に試す。リルカを除霊するためだ。今のところ、成功した例はない。今回も、見事に失敗だったようだ。


「不意打ちするなよ」


 びっくりするから。


「うるさい! 大体、お前が撫子様に呼ばれてここにいるってだけでも不愉快なのに――」


「そこまでにしときなよー、マリアちゃん」


 意外なところからストップがかかった。成島がレポート用紙から顔を上げ、マリアに向けて軽薄な笑みを浮かべている。


「成島。なんのつもり?」


 成島を睨むモデルのようなマリアの顔がイラつきで歪む。

 怖い。


「僕としても部長が他の男に目を向けてるのは嫌だけどさ、けどそれって多々良君に文句言って解決する問題でもないでしょ」


「そうだぜ、マリア」


 犬飼もレポート用紙に目を落としたままで参加してくる。


「そいつが撫子の奴に色目使ってるってんなら、お前の話も分からないじゃねえけど。別にそいつそんなんじゃねえだろ?」


「……ふん」


 まだ突っかかってくるかと思いきや、マリアは意外に素直に二人の忠告を受け止めて黙る。


 しかし、成島と犬飼も俺の名前を知っているのに驚いた。ひょっとしたら俺は自分で思っている以上に有名人なのかもしれない、悪い意味で。


「頼むから、ちょっと静かにしてくれよ。俺と成島、今日中に報告書を撫子に提出しないといけねえんだからさ、邪魔すんなよ」


「そーそー」


 そしてホストとヤンキーのコンビは作業に戻る。


 不満げに続けて何か文句を言おうとしたマリア。


 それを遮るように、ノックの音が響く。

 俺としてはごく普通のノックの音にしか聞こえなかったが、彼女には特別らしい。

 その音がしたとたん、俺への文句をやめてマリアはドアに体を向ける。


「遅れてすまない」


 硬質な声と共にドアが開き、麻滝が入ってくる。

 マリアはうっとりしていた顔で、優雅に入室する麻滝の姿を見ている。


「いえいえ、お帰りなさいませ、撫子様」


「ああ、マリア。いつも言っているけれど、ここは私の家ではないのだからお帰りなさいはおかしいよ。それと、できれば撫子と呼ばないでくれと――おや、多々良君、来たのか」


「来てやったよ」


 渋々答える。


「つまり、幽霊マンションの事件に興味があると?」


「まあ、話くらいは聞いてやってもいい」


 正直に、今日はもう一人になるのが怖いとはさすがに言えない。


「ふふん」


 麻滝は見透かしたような目をする。


「しかしありがたい。心霊絡みの事件はどうにも苦手でね。こういう事件では君とマリアが頼りになる」


「撫子様。この男に頼る必要はありません。私が全て解決します」


 俺を睨み殺そうとしながら麻滝に身を寄せるマリア。


「私を撫子と呼ぶな、と言ったろう……まあ、確かにオカルト関係についての知識、適応力共に君の方が上だ、マリア。けれど、女性の幽霊に関しては、それに限っては多々良君は侮れない。なにせ慣れている。彼のおかげで解決した事件も何度かあるんだ。そして今回の件は女性の霊が関わっている可能性が高い。協力をお願いするのは妥当だよ」


 麻滝の言葉を聞いても、年下とは思えない見事なプロポーションの体をくねらせながらマリアは不満そうにしている。が、これ以上文句を言うつもりはないみたいだ。


「では、とりあえず私がどうして幽霊マンションの調査をしているか、そこから話そうか。こういうことは面倒でも、一番初めから始めて終わりまで話すのが結局近道なものだ」


 形のいい顎に麻滝は指を添える。


「そんな言うほど人生経験ないだろう」


 何せ同い年、まだ高校二年生だ。


「では、話してやってくれ、犬飼」


 相変わらず俺の言葉を完全無視。


「え、俺かよ? 自分でやれよ」


 面倒くささを隠そうともせず、犬飼は顔をしかめる。


「依頼人と最初に顔を合わせたのは君だろう? 依頼された時の話だけでいいんだ、頼む。君と成島君に頼んでおいた調査報告書の提出は明日でいいから」


 めんどくせぇな、と犬飼はレポート用紙を脇にどけた。


 その横で成島は笑顔だ。

 おそらく関係ないのにレポートの提出が延びたのが嬉しいのだろう。


「あーっと――多々良、でいいよな?」


「ああ、合ってる。多々良だ、よろしく」


 今更だが自己紹介しておく。


「依頼人は、俺の知り合いのおばさんなんだよ」


「おばさん?」


 学外の人間ってことか。それは意外だ。


「木崎って、俺の知り合いがいるんだけどよ、そこの母親だ」


「木崎……」


 聞き覚えがある。


「あの、頭悪そうな不良か……」


 犬飼ほどではないのにしても、彩文高校には何人かいわゆる『はみ出し者』は存在する。

 そのうちの一人だったはずだ。


「ちょっと違うな。頭悪そうじゃなくて悪いんだ」


 無意味な訂正をしてから犬飼は続ける。


「昔、喧嘩売ってきたからぼこぼこにしてやったんだけどよ、その時の縁で木崎のおばさんとも知り合ってな、結構よくしてもらってたんだ」


「息子をぼこぼこにした相手によくするのか、器が大きいな」


「うるせえよ、多々良。お前、噂よりも喋るんだな……ま、その木崎のおばさんから、相談を受けてよ。えーと、四日前のことか。木崎が帰ってこないってな」


「え、今も?」


「ああ、今も帰ってきてねえ」


「それ、警察に届けた方がいいんじゃないか?」


 四日間行方不明だったってことになる。普通に事件だ。


「それがねー」


 口を挟んできたのは成島だ。物憂げに長い髪を指に巻きつけながら、


「その木崎って奴、結構無断外泊とか多い奴だったんだよねー」


「そうだ。だからおばさんも、初めは俺に相談するくらいで学校に言うつもりはなかったんだけどよ、もう今日で四日目だ。とうとう今朝、おばさん、学校に言ったみたいでな、職員会議あったらしいぜ」


 職員会議。その言葉で、昼休憩、階段の前で教師が幽霊マンションのことをこそこそ話していたのを思い出す。


「その木崎の失踪が幽霊マンションとやらに関係あるってことか」


「もちろん」


 麻滝は嬉しそうな顔をする。

 俺が食いついてきた、と思ってるのかもしれない。ちなみに、全然食いついていない。ただの相槌だ。


「ここからは私が話そう。犬飼君から話を聞いた当初は、私も不良少年にありがちな家出かなにかだと考えていた」


 不良少年って、同い年なのに。


「しかし、失踪する寸前の彼の足取りを調べるうちに、面白いことが分かった。彼は、行方が分からなくなる直前まで、肝試しをしていたんだ」


「肝試しって、一人でか?」


 だったら凄いな。


「なわけねーだろ」


 犬飼が呆れた顔をする。

 やっぱりそうか、残念。


「同じようなアホ数人とだよ。で、その肝試しの舞台が――」


「例の幽霊マンションってわけか……でも、俺、そもそも幽霊マンションのことを知らないんだ。教えてくれ」


「お前、あんな有名な話を知らないの?」


 マリアが麻滝に寄り添ったまま、俺に向かって軽蔑のまなざしを向ける。


「仕方ないよねー、だって多々良君って、友達いないんでしょー?」


 成島が言う。

 悪気がなさそうなのが余計にきつい。


「幽霊マンションについては、私も興味がなかったから、今回の件があってから詳しく噂を調べてみた。幽霊マンションは最近になって、いわゆる心霊スポットとして、湯塚市のみならず全国的に有名になったマンションだ。心霊スポットではあるが、廃墟ではない。もっとも、見た目はほとんど廃墟に違いないらしいが。まだ、僅かながら住民がいるそうだ。心霊スポットになった理由は、この五年で三人も自殺者が出たところから、色々と怪しげな噂が広まったみたいだ。そこにきてあの陰気な外観。心霊スポットになるのも頷ける。最近、ネットを中心に噂が広まって更に有名になった。ちなみに、噂のほとんどが『女の幽霊』が出るという話だ」


 そこで麻滝は意味ありげに俺を見る。


「なるほど。俺が呼ばれたのは納得したよ」


 女の幽霊か。

 確かに、俺の得意分野――いや、慣れている分野だ。なんといっても常に周りにリルカがいる。


「……ん? じゃあ、ひょっとして、その木崎ってのは肝試しの最中に消えたのか?」


「そこまで刺激的な事件ではないさ。失踪は肝試しが終わっての解散後だ。肝試しといっても住民もいるし、彼らは夜中、マンションを適当にうろついて満足したらしい。そして解散したんだが……」


「したんだが?」


「肝試しの途中、連中は空き部屋のひとつが、何かのトラブルで鍵がかかっていないのを見つけたらしい。中に入っても見たそうだ」


「自由に入れる空き部屋か。そいつは――」


 なるほど、分かりやすい。


「不良少年には外泊の際に魅力的な物件、とは思わないか?」


 麻滝がにやりと笑い、


「実際、あのアホなら喜んで秘密基地にしそうだな」


 犬飼が肩をすくめる。


 要するに、いなくなった男子生徒はそのマンションの空き部屋にいる可能性が高いわけだ。いや、四日間も姿を見せないということは、そのマンションで何らかのトラブルに遭ったのかもしれない。


「しかし、よくお前が心霊スポットが絡むような胡散臭い事件で動く気になったな。まだ懲りてなかったのか?」


 マリアが留学してくる前、俺と麻滝で何度かそういう胡散臭い事件に関わったことがあったが、どれもロクな結果にならなかった。特に麻滝にとっては。

 どうやら彼女は、オカルトと絶望的に愛称が悪いらしい


「探偵は、仕事を選ばないものだ」


「素敵です、撫子様」


 麻滝の言葉にマリアは目を輝かせる。

 さっきの言葉のどこが素敵なのか、俺には全然分からない。


「それでとりあえず麻滝がマンションに乗り込んで、お守りがダメになったわけか」


 朝見せられたぼろぼろの紙くずを思い浮かべる。


「いやいや。私はもっと慎重だよ。踏み込むまでに周辺の調査をした。色々と面白いことが分かった」


 こいつが面白いこと、というからにはオカルト関係のことではないってことだ。


「このマンションの含まれる一帯に、再開発の話が持ち上がっているらしい。現に、周辺の人々は次々に立ち退いているとか」


「再開発?」


 一気に話が現実的になってきた。


「面白いだろう? 再開発、しかもそこに建っているマンションは何人も自殺者が出た心霊スポット――持ち主からすれば、潰して土地を高値で売り払いたいに決まっている」


「再開発する側だって、そんな妙なマンションが再開発後残ってない方が助かるだろうな」


 そういう話にはいまいち詳しくないが、それくらいは想像がつく。


「そういうことさ。幽霊マンションの住民も、最近は続々とそのマンションから引っ越しているらしい。マンションの住民がほとんど居ないのは、こういう現実的なこととも関係しているということだ」


 ここまで来ればさすがに俺でも話の流れは分かる。


「つまり、幽霊じゃなくてもっと現実的なトラブルに木崎は巻き込まれた可能性もあるってわけか」


「少なくとも私はそうあたりをつけた。そして、その結果が――」


 お守りが紙くずになったってわけか。

 予想が外れて、どうも本当に『何か』がマンションにはいるわけだ。


「相手が地上げ屋か何かだったら私の拳闘で黙らせてやるつもりだったんだが」


 立ち上がり、シャドーボクシングを始める麻滝。

 ちなみにこいつのボクシングは本気でやばい。中学から近くのジムに通っているらしいが、ジム内では男女関係なく、同世代でこいつとまともにスパーリングできる相手がいないらしい。俺もこいつのジャブは目で追えない。速い、なんて表現じゃあ生ぬるい。


「ともかく、今回の件は心霊現象が関わっている可能性があると判断した。そこで、君に調査協力をお願いしたい」


「断る。俺が協力しないといけない理由がどこにある」


 デメリットしかない提案だ。


「よし、じゃあこうしよう。協力してくれるなら、私が君の望みを何でもきこうじゃないか。報酬だ」


「そんなっ、撫子様、いくらなんでもそれは――」


「必要ない」


 マリアがうだうだ文句をつけてくると面倒なので、一刀両断する。


「ふむ……残念だ。それでは、どうぞ帰りたまえ」


 麻滝は薄く笑っている。まるで、俺が引き受けると確信しているような態度だ。


「あ、いや、ちょ、ちょっと待ってくれ。せっかくだから、部活が終わるまで待つよ」


 ここで帰ったのでは来た意味がない。一人で帰るのが嫌だから来たというのに。


「ふふ、一緒に帰りたいわけだ。いいのかい、彼女が怒ってしまうだろう」


 見透かされている。

 思わず舌打ちをする。

 おそらく、俺がどういう状況なのかも分かっているに違いない。


「もう怒り狂ってるよ。ほとぼりが冷めるまで、なるべく一人になりたくないんだ」


 俺の言葉にマリアは眉をひそめる。

 犬飼と成島は、俺のことを不思議そうに見る。マリアはリルカのことを知っているが、犬飼と成島は麻滝から教えられていないらしい。俺の言っている意味が分からないようだ。


「いいとも」


 麻滝の目に、からかいの色が混じる。


「さて、それなら特にもう用事もないし、ちょうどいい。ここで解散でいいかな」


 ぱん、と麻滝は手を鳴らす。


 それを合図に、部員たちは片付けを始める。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。