第七話『二人の魔女の再逢』1
アリスを救出することに成功した黒江はアリスを警護担当に引き渡し、銃声の余韻を残したままホテルへと戻った。
刻々と夜は深まり、香港の街は大人達が夜の闇に紛れる、優美でアダルティックな時間を過ごす時刻を迎えていた。
黒江は携帯端末を仕舞い、同室のプリミエールに出掛けることを告げ、煙草の火を消してスーツ姿へと再び着替える。
まだ眠るには早く、シャワーを浴びた身体はやや火照り、香港の海風をより心地良く感じさせてくれた。
「……お会いになられるのは、赤津羽佐奈さんですか?」
身嗜みを整える黒江の姿が印象的に見えたプリミエールは沈黙を破り、質問をせずにはいられなかった。
「ええ、良く分かったわね。彼女が香港に来ているのは偶然じゃないってこと、貴方にも分かっているでしょう?
二十年以上の付き合いだから、彼女と話したいことは山ほどある。そういう相手なのよ。
プリミエールは明日のために早めに寝ておきなさい。ここからは大人の時間よ」
ベッドに座るプリミエールは息を呑み、静かに頷く。
真珠のネックレスを首に掛け、赤いルージュを唇に塗り込むと、黒江はマフラーを首に掛けて客室を後にした。
天空へと向かうように、エレベーターは高く、高く昇っていく。
地上へと束縛する重力の縛りが緩み、浮上する感覚に僅かに頭痛を覚える。
最上階に停止したエレベーターから静かに降りると、そこには別世界が広がっていた。
――今宵は風が冷たい。お酒の力を借りないと、簡単に眠れそうにないわね。
漂う甘い香り。アルコールに魅せられし、眠れぬ大人達。
イブの夜は冷たい風にも負けず、当然のようにカップル達で賑わっている。
甘い妖気に包まれた店内は場違いにも感じられたが、黒江は屋内のシールド席になっているバーカウンターへ足を向けた。
途中、開放的なテラス席に目を向ければ息を吞むような眺望が広がり、黄金が駆ける地上の景色は星の大海と呼ぶに相応しいものだった。
この景色を見ていたら、目を閉じてしまうのも惜しいとさえ思ってしまう。
肌寒い風を受けてまでロマンチックな雰囲気漂うこの場所に恋人達が集い、歓談を楽しむのも当然のものと思えた。
身体は歳を追うごとに興味関心を失い、刺激に鈍感になっていく。
この景色にも慣れてしまった黒江は迷うことなく、バーカウンターへと向かい、一杯目のドリンクを注文して席に座った。
日本に現界する二人の魔女の再逢。
その瞬間を心待ちにしながら……。




