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ハムスター級ガンシップ。

 さあ、困ったことになりました。次の日も、その次の日も、そのまた次の日も、セイムは一歩も部屋から出ませんでした。その間、酒場はあいかわらずの賑わいを見せていましたが、この村に、新たに加わったプレイヤー達の協力もあって、今まで以上に上手に運営されていくどころか、村全体が目まぐるしい発展をしていきます。

剣技を得意とするソーディアンのクラスが焼けのこった木を次々と切り倒し。力持ちのブロウリストとデュアルタイフーンがそれらをあっという間に運んで木材へと加工します。危険な作業でケガをしないように、アコライトロードのクラスが現場監督を引き受け事故にそなえます。彼は強力な精神感応の持ち主でもありました。土系統のエレメント操作を得意とするマッドソリストは地面を平らにならして即席の家をつくってしまいます。さらに、彼女はそれだけに飽き足らず、美しい女神をかたどったきれいな彫刻と、噴水と、ベンチと、街灯と、浮きシップ専用の立体停泊場と、村を一日中明るく照らすためのキャンプファイアーまでつくってしまいました。村の中央を通るきれいな水路を引いたのは水系統のエレメント操作に長けたルーンキャスターのクラスであるプレイヤーでした。毎日の、素晴らしい食卓を飾る食材の数々はそれぞれ、釣り王のクラスである少女と、年代物のライフルと共にこの世界を旅する鷹の目の老人、それから、ハイパーキャリアーの青年の協力によってこの村に持ち帰られたものでした。偶然、近くで発見された未登録のリピートエクスプロアに向かったのは、ゴリラ型のスレイブと、そのマスターであるウィンターウィッチ、素早さに定評があるドミナントレンジャーです。彼らの活躍により、あらたに発見されたこのリピートエクスプロアは、教会の承認を得て、この村の新たな所有物として正式に認められました。

セイムは、そんな村の様子を、酒場の2階の小さな部屋の窓からじっとながめておりました。

それでは、ドロシーはと言いますと、もちろんサボっていたわけではありません。彼女は、本来の酒場のウェイトレスの仕事に加えて、部屋にこもりっきりのセイムがお腹を空かせてしまわないように、毎日、朝昼晩、それと昼過ぎのおやつまで、きっちり部屋の前に食事を届けたりしていました。

現実世界ではコック、ここ、SWEの世界でもまたコックと呼ばれる、ある種の呪いにかけられたかのようなプレイヤーが持ち前の我慢強さと手早さで酒場の厨房を作り直して、そこに立って自慢の腕をふるう頃には、セイムが退屈してしまわないように、栄養満点で温かくて美味しい料理のとなりにグリモアをそっと添えて2階の部屋の扉の前に置きました。

おいしい食事と、あり余るほどの時間、それから、ブルジョアの証である黄金に光り輝くグリモア。これは、このグリモアがプレミアム会員の持ち物になったことをあらわしていました。それらが勝手に向こうからやってくるのです。誰が見ても、たいへんうらやましく思えてしまうような状況にもかかわらず、セイムはまるでとても賢い人間のように、得体の知れない危機感にぼんやりと頭を悩ませていました。


 その日も酒場は満員です。

近くで見つかったリピートエクスプロアを調べに来た数名のグループや、買ったばかりの浮きシップで旅行に来たもの。珍しい魚料理や肉料理に舌つづみを打つものや、勇敢なドロシーが懸命に修復したジャージー型浮きシップをわざわざ見物に来るもの。好みの男性、または女性、との素敵な出会いを求めてわざわざ遠方からやってきたもの。新たにこの村の住人になりたいと言うもの。住む家を持たず、行動を共にするものもおらず、たった一人で気の向くまま世界を旅する旅人。この村の発展を学術的に分析し、発展したいきさつを事細かに記録し、本にしたがるものなど、ひとりひとり数えていたら物語が一向にすすまないほどです。


そんなこんなで、ただ今の季節は冬。シーツを何度か折って、分厚くしたカーテンの向こうにはひらひらと白い雪が舞いはじめておりました。

とん。とん。

『セイム?』

扉をそっとノックしたのはドロシーです。と、言う事は、酒場は一日の営業を無事に終え、もう一日が経ってしまったということです。うす暗やみ中で、セイムの顔がグリモアの放つ光によってぼおっと浮かび上がっています。彼は音を立てないようにそっと扉に背を向けて、グリモアの検索履歴から、現実世界へ帰る方法が記されたページを表示します。それから彼は、鼻からそっとため息を一つ漏らして、改めて、現実世界へ帰る方法を調べました。すると意地の悪い事に、ぼんやりと光を放つページにこの日も表示されたのは、ここからずっと遠くにある教会都市の姿でした。

とん。とん。

『ねえセイム?畑でお野菜がとれたんだって。わたしも食べたよ?おいしかったからちゃんとお野菜も食べてね?』

返事はありませんでした。

それからしばらくして、静かに階段を降りていく音を聞くと、セイムの心に、無数のとげのような、または、錆のような、防ぎようのない失望が広がりました。それはこの時もセイムの心をじっくりと時間をかけて蝕みます。

大きな叫び声が喉のすぐそばまで出かけて、彼はそれをゆっくりと時間をかけて飲み込みました。


『ヒ・・・・ィィィイイイ・・・』


そんな小さな音が聞こえました。SWEの雪は、近くの音を食べますので空から聞こえたその音に気がついたのはセイムただ一人だけでした。

彼はそっとグリモアのページを閉じて、実に久しぶりに厚いカーテンの角をめくりあげて、そこから外の様子を覗きます。

澄んだ冬の空気の中に、キラキラとまばゆく光る星々が見えておりました。真っ黒な水の上で混ざり合うように渦をまくそれらはとてもとても綺麗です。そんな素敵な夜空にぽっかりと、奇妙な形をした黒い穴が三つ開いているのが見えました。

「・・・あれは。ハムスター級ガンシップじゃないか・・・どうしてこんなところに・・・?」

セイムがぽつりとそう呟きます。彼が久しぶりに聞く自分の声に違和感を感じていると、カチ。カチ。カチ。と機械のような小さな音がして。人の形をした大きな影が、3個の影からそれぞれふってきました。


どしーん。

どしーん。




どしーん。

クラス・特定の能力ウィリやその組み合わせを持つプレイヤー達を表す場合に使用される名称。あくまでプレイヤー間での通称であり、個人や団体によって多少の違いがあるがここでは現在最もポピュラーとされる神聖教会での通称を参照する。


まず初めに白兵戦を行う上で最も重要かつ基本的なウィリである身体強化。このウィリの恩恵を大きく受けられるプレイヤー群は総じてファイターと呼称される。物を飛ばす、物を投げるなど、主に遠距離戦を行う上で最も重要かつ基本的なウィリであるパワーキャスト。このウィリの恩恵を大きく受けられるプレイヤー群は総じてキャスターと呼称される。以上に当てはまらないプレイヤー群を総じてサポーターと呼称する。これら3個のクラスは、そのほか多くの中でも特に基本的な存在として三大クラスと呼称される

SWEのプレイヤー達はほとんどの場合数多くのウィリの中から何種類かをシステムによって与えられている。しかし、全てのウィリの恩恵を最大限に受けられるわけではなく、その出力や精度には個人差が存在する(得意・不得意)。以下は、数多あるクラスの中から一般的なものと、それを定義するウィリの組み合わせについていくつか簡単に記載する。


ソーディアン・身体強化、反射神経強化、切れ味抜群、鉄の握力、高速回復、重装適応のウィリの影響を強く受けたクラス。シンプルが故に受ける恩恵の幅が大きく。同じ身体強化を持つ他クラスと比べても1対1での肉弾戦の場合優位になりやすい。様々な派生クラスが存在する。

ブロウリスト・身体強化、反射神経強化、クリティカル、致命傷外し、高速回復、ハヤテのウィリの影響を強く受けたクラス。硬い装甲に対して不利だが、弱点に命中させた時に発生するボーナスダメージ(見た目ではわからない)は強烈。ディテクションや精神感応でサポートされ、時間湧きに対するとどめ役などで活躍する。様々な派生クラスが存在する。

エレメント奏者・エレメント操作のウィリの影響を強く受けたクラス。様々な派生クラスが存在する。

鷹の目・パワーキャスト、視力強化、聴力強化、感覚強化、滑らかに動く指のウィリの影響を強く受けたクラス。パワーキャストの効果は道具を使った投擲(銃には適応されない)にも適応されるため、ボウガンや弓やパチンコ、ブーメランなど、それぞれのプレイヤー達の体格や性格によって幅広い武器の選択を行うことが出来る。

エレメントキャスター・エレメント奏者であり、尚且つパワーキャストのウィリの恩恵を強く受けたクラス。土、水、風、火、光、闇またはその組み合わせや恩恵の強さによって様々なクラスへ派生する。

サモナー・サモンのウィリを持つプレイヤーの総称。元々貴重な存在だったが、かつて神聖教会主導の元行われた総勢140名99日間にも及ぶ大召喚の後現れたオメガプレデターによりその多くがログアウトしたため現在ではさらに貴重な存在となっている。他のウィリとの親和性が低い事も大きな特徴。

まじない士・ルーン彫刻、肉体返還、強い痛みのウィリを持ったプレイヤーの総称。自らの肉体の一部や感覚、記憶など代償となるものを失う事で通常のルーン彫刻とは比較にならないほど強力かつ利便性の高い力を秘めたルーンを物体に刻むことが出来る。

ライフリンカー・精神感応、身体共鳴のウィリの恩恵を強く受けたクラス。任意の対象が受けたダメージを分散および肩代わりする。集団戦の要。

治療術師・細胞活性のウィリの影響を強く受けたクラス。様々な派生が存在する。

商人・NPCとの取引や儀式石での対価に一定のボーナスが得られる。NPCとより親密な存在であり、システムそのものに愛された存在、彼らでなければ聞けないセリフ、見られない行動、引き受けられないクエストが数えきれない程存在する。戦闘能力はほぼないがそれと引き換えに様々な便利アイテムをスタート時から所有している。尚このアイテムは非常に貴重で本人にほぼ戦闘能力が無い事も重なりプレイヤーキル(PK)の標的になりやすく彼らの冒険は専ら信頼できる強い仲間を得る事から始まる(出来ないとすぐにログアウトされてしまう)。

モンスターテイマー・特定の原生生物とコミュニケーションをとり協力関係を築くことが出来る。○○テイマーと言った具合で様々な派生が存在している。戦闘能力は協力関係を築いた原生生物に依存する。

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