機械人形、襲撃。
~神聖教会領とある僻地~
真っ暗の狭い空間に、まん丸の光が二つ浮かんでおりました。お月様でしょうか?いいえ違います。それは外部センサーで捉えた物体を映像として映し出すためのメガネ。暗闇でも昼間のように明るく見える優れものです。
一秒間に、大体140回ほど点滅を繰り返す光。その光に照らされて、沢山のケーブルの束も見えています、それらはまるで、茹でたそうめんのように、この空間にぐちゃぐちゃと乱雑に押し込まれていました。
慣れた手つきで、そこら中に取り付けられている小さなスイッチのカバーが外され、カチカチと倒されて行きました。それぞれのスイッチがほんのりと、緑色に光ります。最後の一つが倒された時。下から自立するように伸びている二本の頑丈なケーブルの上で、ぷらぷらと所在なく浮いているスピーカーがざざざ…とノイズを立てました。
『…………映像が出た。通信に問題はない』
「うん」
『今回の作戦は『助六』の動作テストも兼ねている』
「うん」
『都市の近衛に嗅ぎ付けられる前に、素早く標的を確保しろ』
「りょーかい」
『邪魔者に容赦はするな』
「はーい」
夜。村の外れに突如として降下した機械人形。そのシルエットは神聖教会のドミニオンに似ていましたが全くの別物です。
それらはゆっくりと、大きな音を立てて歩き、住民が眠っている即席の家を簡単に壊してしまいました。ドミニオンは、決してこのような真似はしないのです。
それらは見上げるような巨体の節々を唸らせ、何食わぬ顔で建物を壊しながら、真っ直ぐに、村の中央にある酒場へと向かいます。
「トーア!トーア!」
「…ここだ」
誰よりも早く異変に気づいたのは、素早さに定評のあるドミナントレンジャーの青年でした。彼は額に玉のような汗を浮かべ、アコライトロードのトーアのもとへ滑り込むように駆け寄ります。
「よかった!無事で。すまねえあれのスピードが速すぎて!気づいた時には……あいつらはいったい何なんだ」
「さあな」
「みんなは?!」
「ジュリスが用意しておいてくれた地下シェルターを通じて、広場の方へ移動している。心配ない全員無事だ」
「どうすんだよ」
彼が安堵の息を漏らす間もなく、トーアは酒場の方角へ静かに目を向けました。
「……こちらの感応波は完全に遮断されている、呼びかけには応じない。奴らがどこの勢力なのかも不明で。機動力はあちらが上だ。不本意だが広場で迎撃しながら時間を稼いで、都市からの支援を待つしかない。今、翁が狙撃ポイントへ向かって移動中だ。完了次第仕掛けるぞ。タク」
「くっそー俺の専門は探索だってのに!」
「せっかくできた第二のふるさとじゃないか?守ろうぜ」
「わあってるよ!」
タクは一度深く呼吸を整え、トーアの前で低く身を構えました。トーアはその両肩に、それぞれの手の平をそっと添えました。
「……………今だ」
トーアが呟くと同時に、建物の影から無数の光の球が打ち上がります。夜の闇は瞬時に消え去り、辺りは白昼をも凌ぐ眩い光に塗り潰されました。先頭の機械人形が、設置されていた『目くらましの罠』。そのルーンを踏んだのです。
暗闇の中から、恐ろしい巨体が三つも現れます。
一瞬だけ動きを止めたそれらに、間髪入れずにウィリによる鑑定が行われました。
「エリアディテクション!」
タクはいつもの癖で、その結果を口に出して伝えます。
「…装甲はアジライトと鉄とヂヂニウムの合金。この検知出来ない場所は…位置からして操縦席か」
「ああ」
トーアの短い返事を受け、引き続きタクは、さらに情報の深部まで鑑定を試みます。
「基礎構造がドミニオンと全然違う。もっと早いし力も強い。パワーゲインは八倍もある……!機体各所、装甲の裏側に障壁バリア発生装置。マーモット級に付いてるのに似てるな…無線通信装置に、遠隔操作、感応波コントロール。武装は…なんだ…?感応波侵入…いや、対感応波―――」
―――侵入者探知高圧地雷!?
「くそ!!!」
鑑定の途中で、トーアが頭を押さえて短い悲鳴を上げました。即座に鑑定を中断したタクが、よろめく彼を支えます。
「トーア!無事か!?すまん少しだけ踏んじまった」
「…ああ。平気だ。みんな気をつけろ、ただの相手じゃないぞ」
二人は睨み付けるような視線を機械人形へと向けました。すると、その頭と思わしき箇所がぎゅーんと不気味に光り、二人の視線を正面から捉えました。思わず、二人は身構えてしまいます。
「くっ!」
「タク!逃げろ!」
そのような物騒なやり取りを知ってか知らずか。辺りに緊張感のない声が響きました。
『もしもーし。聞こえますかー?びっくりさせちゃってごめんねー。急いでキャンセルしたんだけど、コアユニットの情報は絶対渡すなって命令だから仕方がなかったんだ』
それを聞いてトーアは眉の間にしわを寄せました。
「子供の・・・声?」
スピーカー越しに、さらに緊張感のない声が続きます。
『ボクの目的は君たちと戦うことじゃないよ。ここにドロシーって名前の女の子、いるでしょ?彼女の協力が必要なんだ。けどおかしいなぁ。教会の情報じゃ人はいないはずだったのに……』
トーアがすっと立ち上がります。
「先日。教会の情報管理部門が何者かの工作を受けて現在復旧作業中です。なので情報公開が一部で遅れています。公開登録簿には無いが我々は正式にこの村の入居者だ。あなたが今行っているのは神聖教会領への明らかな侵略行為です。これ以上のトラブルをさけるために。今すぐにお引き取り願いたい」
『ふぅーん。他に仲間は?』
「居ない。我々だけだ」
『…』
「…」
・・・。
「…。そうなんだ。でも念のために。スキャンしちゃお」
セイムは酒場の二階の窓から、村の異変を凝視していました。あの大きな機械人形は、ドロシーの協力が必要。と、口にしました。そのありふれたお願いと、彼らの行いの違和感が、セイムに強烈な不安を抱かせていました。
「セイム!!」
勢いよくドアを開けてドロシーが部屋に飛び込んできました。かつてないほど顔を険しくし、必死の様子だというのに…。セイムは、どこかほっとしてしまいました。
けれど、彼はすぐにドロシーから身を隠すように、ふかふかの布団の中へと潜り込みました。その姿はまるで、巣穴を壊されてしまった虫です。
「あー!セイムだ!!よかったぁ!元気そうで!お野菜おいしかったでしょ?」
こんな状況であるにもかかわらず、彼女も彼女です。久しぶりに本物の動くセイムを見たドロシーは、嬉しそうにそんなことを口にしました。
「あ!じゃなかった!早く逃げよ!トーアさんが言ってるよ!」




