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08. 調理場

「トーマ、トーマ! 今日こそ調理場を作ろう!」


 城の入り口。お金をおはじきに使わない約束などをとりつけホッとする俺に、イェタがそんなことを言ってくる。


「……ポイントは足りているの?」


「うん! 今日トーマが倉庫に入れてくれた魔物五体が、三十ポイントだったから大丈夫! 『ごー、ごー、ごー、ごー、じゅー』だった!」


 ……今日はイノシシの魔物一体と、鹿の魔物一体、狼の魔物二体、ゴブリンを一体倒し倉庫に入れている。

 それらを、すでにポイントにしたらしい。


 全部で三十ポイントの獲得……。多分、ゴブリンが十ポイント、その他の魔物が一体五ポイントかな。


「わかった。それなら、調理場で良いんじゃないかな。二十五ポイントで作れるんだね?」


「うん! 『倉庫』と同じポイントで作れる!」


 地面のお金(おはじき)を回収した俺は、イェタに手を引かれて城の一角へ。


「じゃあ、ここに作るよっ!」


 部屋がピカッと光ると部屋が一変する。

 割れていた窓ガラスなどが修復され、部屋の中の土汚れなども一掃された。

 調理用の魔道具かな? そんなのも置かれている。


「……この魔道具、どこに魔石をはめるんだ?」


 すみに置いてある、人の身長ほどもある四角い箱型の魔道具を調べる俺。


「この城の魔道具、魔石は必要ないみたいだよ!」


 え……、燃料となる魔石が必要ないって、空中や大地とかから魔力を吸収してるってこと?

 それって、とんでもなく高価な魔道具なんじゃ……。普通の魔道具でさえ、貴族や大商人が買うものなのに。

 ここの調理器具は、一部のもの好きな王族とか高位の貴族が買うようなものになってしまう。


「ちなみにトーマがいじっているのは、『冷蔵庫』っていう名前の魔道具だね! 箱の中が冷たくなってるの! お肉や野菜なんかを入れて保存するみたい!」


 ……ようするに氷室(ひむろ)とか冷暗所か。


「あっちはノブをいじると火が出る『コンロ』っていう魔道具! こっちの水場にあるのは、ひねると水やお湯が出る『蛇口』っていう名前の魔道具だよ!」


 実演してくれるイェタ。


「あと、『石がまオーブン』って魔道具もあるよ!」


 壁に埋められた石がまを指差す。

 あれもコンロみたいに、何かをいじると、火がつくんだろうか?


「調味料も、あるよ! 使っても、ある程度は自動でビンの中に補給されるんだって!」


 部屋の棚におかれたビン類に、歩いていくイェタ。


 彼女が塩が入った小ビンかな? それを取る。

 逆さにすると、ビンの大きさからは考えられないほどの塩が、イェタの足下へと落ちていって……

 彼女のヒザ下ぐらいまでの塩の山を作り、やっと空になったようだ。


「毎月一回ぐらい、これと同じぐらいの塩の山が、この小ビンの中に補給されるんだって!」


 ほー、それはすごい。それはすごいんだが……この塩の山、誰が片付けるの……?


「お料理のレシピブックもあるよ! 『天ぷらにすれば、たいていうまい』って書いてある!」


 本の表紙とかには書かれていないから、イェタにしか見えない謎の板に、そんなことが書かれているのだろう。……でも、『天ぷら』って何?


 疑問に思いながらもレシピブックをめくると、中の絵が異様にリアルなことに気がついた。

 油絵などを、もっともっと精巧にしたような感じ。


 中の文章では、絵のことを『写真』と呼んでいるようだが、これはスゴいな。神懸(かみが)かっている……


「トーマ、トーマ! 今日は天ぷらっていうの食べてみようよ! レシピは本の、ここにあるって! 薬草も天ぷらにできるみたいだから、わたし薬草採ってくるねっ!」


 絵に圧倒されている俺を残し、イェタが脱兎のごとく部屋を飛び出していった。


 彼女が指差したレシピを見る――

 天ぷら粉というのを作るのに、最低限、卵と小麦粉が必要になるようだ。

 卵は、たまたま買っていた。小麦粉もたしか町で買ってあるな……


 この天ぷら粉に野菜などの食材をまぶし、熱した油に入れるだけらしい。


「あと必要な調味料は……」


 部屋の棚にあったビンを調べ、『しょうゆ』という名の謎の調味料を見つける。黒い……

 『みりん』という調味料も見つけ、さらに『けずりぶし』という名の、茶色くてふわふわした謎の食べ物も見つけ出した。


 この三つの調味料で、『天つゆ』という名の調味料を作るのだとか。

 塩でもいいのだが、この『天つゆ』に天ぷらを浸して食べてもおいしいのだそうだ。


「……まあ、とりあえず、やってみるか」


 鍋に蛇口からお湯を入れ、それをコンロという魔道具の上に置き、火をつける。


 沸騰したところに『けずりぶし』というのを大量に入れ、『だし汁』というのができた。

 量は多いが、余った分は冷蔵庫で保存できるそうだ。


 ざるなどを使い、中のいらない『けずりぶし』を取り去る俺。

 『しょうゆ』と『みりん』を混ぜて、それを、この『だし汁』で薄めると『天つゆ』になるのだとか。


「トーマーっ! 薬草とって来た!」


 油を温めつつ、卵を割り、計量カップというものを使い、天ぷら粉というものを作っていたらイェタが戻ってきた。


「ありがとう。そこに置いといて」


 そう頼み、俺は『倉庫』から町で買ったキノコや野菜を取り出す。

 『蛇口』という魔道具のところにいき、薬草と一緒にそれらを洗った。


 水気をタオルでしっかりと取りのぞくと、さっきの天ぷら粉の中に投入。よくからませた。


 レシピブックのやり方で、ピチピチ鳴っている油の温度を確かめ、適当そうな温度になったらコンロの火を弱める。


 食材をトングでつまみ、熱した油の中に投入した。


「おおう!?」


 ジュー、という音に、イェタが声を出してビビる。

 俺も無言でビビった。


 しかし、男は度胸だからな。


 次々と食材を投入し、できたっぽいものから順にトングでつまみ、用意していた油を切るための網の上に置いていった。


「あとは、これか……」


 イェタが薬草を採っていた間に、町で買った生肉に塩と胡椒で下味をつけ、料理酒に浸していた。

 それも天ぷら粉にまぶして、油に入れた。


 レシピブックにあった『肉の天ぷら』の、一番簡単なヤツだ。できた順に、油を切るための網の上に置く。


「トーマー、お皿ーっ!」


 イェタが持ってきたお皿の上に天ぷらを盛り付け、『天つゆ』も作り、こうして夕食になった。

 テーブルについた俺達。早速、食べてみるが――


「おおおおっ! これ、おいしいねーっ!」


 サクサクと音を立て、薬草の天ぷらを噛むイェタ。


「肉の天ぷらもボリューミーだな」


 肉体が資本の冒険者には、なかなか嬉しい。


「なんか、キノコも野菜も、いくらでも食べられるよーっ!」


 作った天つゆの味も、けっこう良かったのだろう。

 天ぷらは、またたく間に俺達の胃に消えていった。


「すっごく、おいしかったね、トーマ!」


 ニッコリと笑う彼女。


「じゃあ、満腹になったし、もう寝よっか!」


 ……いや、後片付けはしないとダメだよ?

 君が床にぶちまけた塩もあるからね? 食を優先して放っておいたけどさ……


 昨日もそうだったが、彼女には、後片付けをすっ飛ばそうとする傾向があるようだ。


明日9話の投稿後、2~3日に1回の更新ペースになります。

ゆっくりペースの更新ですみませんが、よろしくおつき合い願えたら、うれしい限りです。

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